「グレード」という概念を捨て去る “リターンライダー”のためのロードバイク選びお金で見るサイクルスポーツライフ<2>
前回の記事では「これからスポーツ用自転車を始めたい」と思っているビギナーの方々に向けて自転車選びとコストの話をしましたが、今回は一度ロードバイクから離れていた人が再び乗る、いわゆる“リターンライダー”向けに自転車の選び方を解説したいと思います。というのも、最近僕の周りでかつてサイクリストだった人が「スポーツバイクに復帰しようとしたけれど、最新モデルのあまりの高額さに諦めた」という例をいくつか見かけたためです。

昔はハイエンドモデルに乗れたけど…
私の私見ではありますが、リターンライダーの多くはもともと自転車少年。学生時代にバイト代を貯めて自転車を購入し、ツーリングしてレースして、社会人になって少し良い自転車に買い替えてハイエンドの世界を知り、でも仕事や子育てが忙しくなって自転車から離れていった人達。中年になり、「子供が手を離れた」「健康診断で引っかかった」「腹周りに肉が付き始めた」「青春よもう一度」─などの理由で、「そういえば昔乗ってたロードバイク、もう一度始めようかな」と思い立つわけです。
調べてみると、以前はなかった電動変速やエアロダイナミクス、ディスクブレーキが一般化した状態。なにより変わったのは価格。100万円やら200万円やら……。「昔はツール・ド・フランスに出てたフレームが20万円で買えたもんだがな」「20年前はハイエンドコンポーネントが20万円台だったぞ」なんて一通り思い出話をしたあと、「時代は変わった」「とてもじゃないけど無理だ」「家のローンもあるしクルマ買い替えたばかりだし」と諦めてしまう。
ミドルグレード以下がおすすめな理由
そんな彼らに、「ちょっとお待ちを」と言わせていただきます。まず、昔“良い自転車”に乗っていたからといって、今回も“良い自転車”を買わなければいけないわけではありません。「昔はプロ仕様のバイクに乗っていたから今回も……」という気持ちも分かりますが、現在のハイエンドバイクはスピード向上著しいプロのレースで活躍するよう設計されています。
かつてのプロ仕様のバイクは一般サイクリストにも乗りこなせるものが多くありましたが、現在のプロ仕様のバイクは一般人にはオーバースペックどころか、ポジション自由度の低下、過剰な剛性、空力性能特化によるメンテナンス性の低下等、デメリットとなる点も多いのです。

乗りやすさを考慮すると、現在のバイクはむしろミドルグレード以下を選んだ方がよく、乗る目的に合ったものになるケースも多いと感じます。本格的なレースに出ないのであれば、空力や軽さなどのスペックはそこまで重視する必要はありません。ですから、まず「グレード」という概念を捨て去りましょう。
それに、今は荷物を積載するツーリングから砂利道まで多目的に使える「オールロード」や、本格的なオフロードまで走れる「グラベルロード」などの新種のロードバイクが出現しました。一言で「ロードバイク」と言っても多様化しているため、目的に合ったものが選びやすくなっています。
乗っていたバイクを再利用
かつて乗っていたバイクを活用するというのも手です。オーバーホールをして消耗品を取り換えて手を入れてあげれば、軽快に走るようになるでしょう。筆者も20年ほど前のロードバイクにまだ乗ってます。ただし、古いバイクはショップでしっかりと点検を受けて安全性を担保してから乗るようにしてください。
とはいえ、昔のロードバイクには太いタイヤが入りません。現在はロードバイクで28Cが主流で、オールロードやグラベルロードでは35Cや40C以上のタイヤが使われています。また、ブレーキシステムがリムブレーキからディスクブレーキになっているので、「太いタイヤとディスクブレーキ」という最新のロードバイクの技術プラットフォームに乗せるなら、フレームを新調するしかありません。
とはいっても、完成車を買わなければいけないわけではありません。フレームセットとホイールを買って、かつて使っていたパーツ(コンポーネントやハンドルやサドルなど)を移植すればコストを抑えつつ、最初から自分のポジションに合ったバイクを組むことができます。
昔を知っている人にこそ乗ってほしい最新モデル
10年前20年前に比べて、スポーツバイクは大きく変化しました。ディスクブレーキの安心感やワイドタイヤの安定感はかつてとは比べ物になりません。楽しみ方も多様になりました。自転車の楽しさを知っている人にこそ、今の新しいスポーツ用自転車に乗ってほしいと思います。

まずは最近のスポーツ用自転車が実際にどう変化しているのか、近所のショップを覗いてみましょう。ディスクブレーキを装備し、太いタイヤを履いた最新バイクたちがこちらを向いて、「おかえりなさい」と迎えてくれるはずです。

自転車ライター。大学在学中にメッセンジャーになり、都内で4年間の配送生活を送る。現在は様々な媒体でニューモデルの試乗記事、自転車関連の技術解説、自転車に関するエッセイなどを執筆し、信頼性と独自の視点が多くの自転車ファンからの支持を集める。「今まで稼いだ原稿料の大半をロードバイクにつぎ込んできた」という自称、自転車大好き人間。
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