グラベルでノックアウト! 補給、おろそかにしてませんか?しくじりサイクリスト<6>
『サイクルスポーツ』(以下サイスポ)副編集長のエリグチです。しくじりだらけの自転車人生を歩んできました。趣味としてスポーツバイクで遊び始めて10年以上。いつしかサイスポ編集部員となり、仕事もこなしつつ楽しくライドを重ねるほどに、失敗の数もまた重なっていきました。今回は、そんな僕の“しくじり”のなかでも、補給の大切さを身にしみて学んだ出来事を振り返ってみたいと思います。

グラベル林道の奥で、体がガス欠!?
皆さん、自転車に乗るときの「補給」、どれくらい意識していますか?
成人男性の1日の基礎代謝は約2000〜2400kcalとされており、1食あたりに換算すれば約600〜800kcalほどのエネルギーが必要です。そして、ロードバイクでの走行は、1時間あたり300〜500kcalの消費が目安(体重やペースによって異なりますが)。たとえば6時間のサイクリングを想定すれば、補給として最低でも2000kcal前後のエネルギーを摂る必要がある、というわけです。
だからこそサイクルジャージのバックポケットは補給食でぱんぱんにするし、ロードレース選手は食べながら走るし、ロングライドでも補給は超重要な要素。
そう、わかっているつもりだったんです。でも僕がやらかした“しくじり”は、まさにこの「補給」でした。
あれは6年ほど前、僕は長野・白馬を出発して、グラベル林道を越えて新潟の妙高側へ出るツーリングを企てました。朝露に濡れた林道を、ザクザクと音を立てながら上っていく。山の冷たい空気が心地よく、車も通らないガレた道のなかを一人進む気分は、まさに高揚感そのもの。しかし、その最高は突如として終わります。
陽は高くなり始め、活動時間は3時間を超えた頃。標高を上げ、だんだん傾斜がきつくなってきたあたりで、体の違和感が強まっていきました。視界がフワフワと揺らぎ、呼吸が浅くなり、脚も回らない。――あれ、おかしいな。朝ご飯はきちんと食べたし、さっきエナジーバーも食べたし、水は飲んでるし熱中症になる気温でもない。いや、これは。
「これ、ハンガーノックやん……」
立ち止まり、木陰に大の字に寝転がった瞬間、視界がぐるりと回る感覚に襲われました。ただ脱力感が酷い。こういう時ってただ、ひたすらにぼんやりするんですね。
“しくじり”の原因は前夜の宴会にあり
思い返せば、そもそものしくじりは前日から始まっていました。
前日は松本から白馬までをサイクリング。白馬には友人が住んでおり、到着して温泉に入って、そのまま彼の家で宴会が始まります。クラフトビールや地酒をアテに話は尽きず、夜は更けるばかり。いつも通りしっかり飲み過ぎ、気づけば深夜に。しかも僕はお酒を飲み出すと酒ばかり飲んであまり食べなくなるタイプ。つまり前夜の時点で、すでにエネルギーが枯渇していたのです。
そうしてこれまたいつも通りに二日酔いで朝を迎えたのです。その状態で上り基調の未舗装林道と突入したのですから、そりゃ体も通常とは異なって当然ですよね……。
問題は、水分もエネルギーもその時用意が足りていなかったということ。前日のライドでほとんど食べ尽くしたまま補充していなかったんです。二日酔いで起床が遅れた僕は、「お腹が空いてないし行けるだろう」と謎の自信を持って、出発地のコンビニをスルーしていたのです。そして今ここは山奥の未舗装林道。コンビニも自動販売機もなければ、人もクルマも通ることはほぼありません。
水を汲んで……走れる。行こう。
そんなとき、ふと目線の先に捉えたのは、岩の間から染み出す清水。藁にもすがる思いで、ボトルに水を汲み、バッグにくしゃくしゃに詰め込んでいた塩分タブレットを一つずつ溶かして飲み干し、一袋分をゆっくりと流し込んでいきました。少し呼吸が整い、指先の痺れが引いていくのを感じながら、そのまま木陰で体を休めます。
その後、少しだけ引き返した場所にある雨飾山荘の小さな売店でチョコ入り菓子パンを手に入れ、かぶりつきました。あれはおいしかったなあ……。胃に固形物が入っただけで、体はゆっくりと蘇っていきます。あのパンの甘さは今でも忘れられません。
そんなしくじりから僕は学んだのです。
「装備も整えずにグラベルに入るな。そして補給はサイクリングの絶対生命線だ」と。
あれから5年。取材と称して再び同じグラベルルートを走る機会が巡ってきました。
今度は準備万端。トップチューブバッグやハンドルバッグにはたっぷりの補給食はもちろん、ちょっとした機材も追加しておきました。かつて僕を救ってくれたあの清水の場所で、今度は自ら進んで水を汲み、そして林道を上り続けます。

少し汗ばむ程度の心地良い疲労感とともに、絶景ポイントにたどり着いた僕は自転車を脇に寝かせて、ハンドルバッグからバーナーとクッカーセットを取り出します。青空の下、妙高高原を覆う木々が静かに揺れていました。
湯を沸かし、インスタントの袋麺を取り出して湯がきます。何の変哲もないはずの味噌ラーメンは、信じられないほど美味しかった。 「うめえ……」とひとりつぶやいたその声は、誰もいない山の中に吸い込まれていきました。

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1991年大阪生まれ大阪育ち。学生時代よりサイクリング部でスポーツバイクに親しみ、2016年より八重洲出版『サイクルスポーツ』編集部へ。2025年より現職となり、月刊誌のメイン編集を担当しつつ、「編集長リレー」企画や新しい連載など誌面リニューアルを進行中!ワイルドな温泉が好き。
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