東京〜大阪550kmを24時間以内で走りきる!“キャノンボール”に初挑戦してみたが…長距離ライドのコツと楽しみ方<5>

2025/08/01    

 東京〜大阪間およそ550kmを24時間以内で駆け抜ける、通称「キャノンボール」。これは公式な大会ではなく、個人でルートを設定して挑戦する“ロングライド界の試練”です。今回は筆者が実際に初挑戦してみたレポートをお届けします。結果は残念ながら“24時間切り”はならず…。ですが、このチャレンジから得られた学びは非常に多く、これからロングライドに挑戦したい方にもきっと役立つはずです。

夜7時に東京・日本橋をスタート

スタートは東京・日本橋、ゴールは大阪・梅田

 今回のルートは東京・日本橋を出発し、大阪・梅田までを目指す設定に。スタート時刻は夜7時。これは夜間を走る時間帯を東京周辺の走り慣れたエリアにするため、また、ゴール時間が翌夜になればホテルチェックインや食事にも困らないと考えたからです。

 しかし、出発前からトラブルの兆しはありました。チャレンジ当日の2025年3月18日、天気予報はまさかの雨と気温急降下。さらに山間部では雪の可能性もあり、急遽、山を避けるルートに変更しました。これが、思わぬ落とし穴となったのです。

スタート!…しかし、雨と寒さが牙をむく

 仲間たちに見送られながら、反射ベストと前後ライトを装備して出発。都内は信号も多く、焦らずスムーズに走ることを意識しました。

 順調に思えた序盤ですが、神奈川県厚木付近でまさかのルートミス。事前にGoogleマップで綿密に確認していたにもかかわらず、ナビを見ながらでもミスは起こるものだと痛感しました。

山間部では大雪のため通行止めに。事前にルート変更したことが功を奏す

 そして足柄に差しかかる頃、予報どおり雨が本格化。気温はスタート時の15℃から一気に2℃まで低下。濡れた体はみるみる冷え、手がかじかんでコンビニで買い物をするのも一苦労。霜焼けのように腫れ上がった手にグローブがはまらず、再スタートも困難な状況に。

 雨は予想をはるかに超え、6時間も降り続きました。リアライトが浸水で故障するアクシデントも発生しましたが、予備を持っていたことが功を奏しました。ナイトライドでは特に、ライトの装備は万全にしておきたいところです。

霜焼けで手が腫れ上がり、かじかんで動かずグローブの脱着も困難に

眠気と戦い、浜名湖からは爆風の向かい風…

 深夜、睡魔が襲ってきたため、道の駅のベンチで10分ほど仮眠。たとえ短時間でも仮眠は効果的で、安全のためにも必要だと実感しました。

 夜が明けると雨は止み、静岡県へ。しかし安堵も束の間、今度は浜名湖付近から猛烈な向かい風が。速度を落とすこの風は、三重県・鈴鹿まで150km以上続き、精神的にも大きなダメージに。平均速度を上げることが求められるキャノンボールにおいて、向かい風は天敵です。風の強さや向きを予測するサイトの活用も、事前準備の重要なポイントだと感じました。

トラブル続出、でも学びも多かった

 途中、パンクも経験。筆者は今回チューブ交換が可能なクリンチャータイヤを使用。シーラントが効くチューブレスも選択肢ですが、確実性を求めるならクリンチャーも安心材料です。

パンクは1回発生。スムーズな作業ができるよう練習しておきましょう

 ここまで悪天候やトラブルが続いてしまったため、三重県に入る頃には24時間切りの達成が微妙であることが残り距離から分かってきます。この時点で無理はせず、完走することに目標を切り替えました。さらに疲労が蓄積する時間帯に無理をすることは良くありません。少し足を緩めて、確実に走りきれる速度で巡航していきます。

 そして夜は再びやってきます。今回、伊賀を抜ける国道25号線と国道163号線をルートに選択したのですが、道中は山を進むルートで、民家はおろか街灯すらないワインディングロードが続きます。ライトがなければ本当に真っ暗な道で、しかも気温は−1℃まで降下。

 心が折れそうになりましたが、前へ進むしかありません。バッテリー交換タイプの強力に明るいフロントライトがとても頼りになりました。途中、小熊のような影が目の前を通り過ぎ肝を冷やしましたが、明るさに驚いて逃げていってくれたのが幸いでした。

結果と教訓:キャノンボールは「準備と判断力」が重要

 最終的に大阪・梅田には29時間50分(ネットタイム21時間25分)で到着。キャノンボールとしては“失敗”ですが、命を守りながら走り切れたことは“成功”だったと感じています。

24時間切りは出来ずとも無事完走

この挑戦から得られた教訓は以下のとおりです

  • 好天を選ぶ勇気:雨・低気温・向かい風はパフォーマンスと安全に大きく影響。
  • 引き返す判断も勇気:完走よりも自分の命と体を最優先に。
  • 応援は力になるが、プレッシャーにもなる:SNSなどで発信する際は冷静さも大切。
  • 機材トラブルに備える:ライトやチューブ、バッテリーは予備を必ず。
  • 睡眠と補給の計画を立てる:眠気やハンガーノック対策も準備のうち。

 今回の記事だけでなく、先人の方々のブログや記事はロングライドを楽しみたいサイクリストにとって参考になることばかりだと思います。たとえ50kmでも100kmの距離であっても引用することで有意義なものとなります。

 まとめになりますが、キャノンボールは知識、スキル、実力、運のどれかが欠けても成功し得ない大チャレンジです。達成した暁には日常生活では得られない充実感を得られるでしょう。ぜひ準備を万全にして、安全に実施していただければと思います。

復路は新幹線輪行で。3時間以内に戻れる文明の利器に感涙
松尾修作(まつお・しゅうさく)

10代からスイスのサイクルロードレースチームに所属し、アジアや欧州のレースを転戦。帰国後はJプロツアーへ参戦。引退後は産経デジタルが運営した自転車専門媒体『Cyclist』の記者、編集者として自転車やアイテムのインプレッション記事を担当した。現在は自治体の自転車施策プロデュース業務等を担当。

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