2011年3月11日に発生した、東日本大震災。その後、復旧・復興事業の一環として防潮堤(※)が建てられました。福島県いわき市に整備された復興ロード「いわき七浜海道」は、この防潮堤の上をサイクリングすることができる、国内でもここでしか体験できない唯一無二のサイクリングロードです。今回は「いわき七浜海道」を中心に、レンタサイクルで気軽に楽しめるサイクリングコースを紹介します。
※高潮や津波を防ぐ陸上の堤防。防波堤とは異なる

オススメポイント | 震災後に建てられた防潮堤の上を走ることができる唯一無二のサイクリングルート「いわき七浜海道」を中心としたコース。全体的に起伏が少ないので、クロスバイクで楽しくサイクリングができます。初めてスポーツ用自転車でサイクリングする方にも最適な、走りごたえと見どころ満載のコースです。 |
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レベル | ★(初心者向け) |
距離 | 36.6km |
獲得標高 | 316m |
出着地 | いわき新舞子ハイツ |
立ち寄りスポット | いわき新舞子ハイツ、塩屋埼灯台、三崎公園、いわき・ら・ら・ミュウ、光西寺、シーフードレストラン メヒコいわきフラミンゴ館 |
レンタサイクルでお手軽サイクリング
出発地点は、いわき駅からバスで約25分に位置する「いわき新舞子ハイツ」です。宿泊施設や多目的運動場、サイクルステーション、レンタサイクル拠点などを併設しており、広い無料駐車場を完備しています。今回はここでクロスバイクをレンタルしました。筆者の身長は150cmと小柄ですが、Mサイズで快適に乗ることができました。クロスバイクはロードバイクよりも楽な姿勢で乗れるので、スポーツ用自転車が初めてという方にも安心。それでいて軽快車よりもスイスイ進むので「楽しく乗れる一台」といった印象です。


スタート地点から少し北上し、新舞子海岸からいわき七浜海道を走ります。防潮堤からは太平洋と防潮林の松並木を一望できます。防潮提は、とても走りやすく、津波から街を守る役目があるため地面に亀裂が入っているなんてことはありません。ここから小名浜港までしばらく、いわき七浜海道海岸線ルートに沿って走ります。

震災の教訓を後世へつなぐ 「いわき震災伝承みらい館」
スタートから海沿いを走り、8km地点にあるのが最初の立ち寄りスポット「いわき震災伝承みらい館」です。地震と津波被害に加え、原発事故が重なるという未曾有の災害に見舞われた、いわき市の震災経験を改めて捉え、記憶や教訓を風化させず後世に伝えていくことを目的とした施設です。入館料は無料ですので、ぜひ立ち寄ってみてください。

120年以上いわきの海を見守る 塩屋埼灯台
いわき震災伝承みらい館から500mほど進んだところにある「塩屋埼(しおやさき)灯台」が2ヶ所目の立ち寄りスポットです。駐車場にサイクルラックがありますが、灯台までは駐車場から階段を上ります。

参観寄付金の300円を支払い、103段の螺旋階段を上がると、眼前にオーシャンビューが広がります。怖いくらいの絶景です。青く透き通った穏やかな海を上から見ることができます。

塩屋埼灯台は、1899(明治32)年に設置・点灯されました。2011年の東日本大震災では、灯りの元であるレンズを設置しているレンズ室のガラスがすべて割れ、レンズ室にかかる梯子も外れていたそうです。人的被害は免れたものの、灯台が立つ断崖や通路は大きな被害を受け、被災から9ヶ月後に灯台は点灯したものの、修復や灯台参観までは3年かかったそうです。資料展示室には、塩屋埼灯台の歴史や震災当時に職員が経験したリアルな体験談などを見ることができます。
丘からせり出た展望台⁉ スリル満点な「潮見台」
3カ所目の立ち寄りスポットは、ちょうどコースの折り返し地点にある「三崎公園」です。三崎公園のシンボルといえば「ふくしまマリンタワー」。1985(昭和60)年にオープンし、太平洋やいわきを一望できるスカイデッキが有名です。

しかし、今回訪れたのは同じ公園内にある「潮見台」です。丘から海にせり出した展望台は、まるで海の上を歩いているかのように感じられます。柵に覆われているので海へ落ちる心配はありませんが、スマホなどを落とさないように注意してください。下を覗くと、海が透き通っているので魚が見えることもあるそうです。

カツオだけじゃない 小名浜港産マグロを堪能
サイクリングロードの名前にも入っている「七浜」の所以は、いわき市の海岸線沿いに連なっている「7つの浜」にあるそうで、それぞれの浜には漁港があります。七浜の中でもっとも大きな漁港、小名浜港に立ち寄ります。小名浜港はカツオの水揚げ高が全国トップクラスと有名で、マイワシやサバ類、サンマなどの漁獲も盛んです。意外と知られていないのですが、実はマグロの水揚げもあるそうです。
そんな鮮魚を小名浜魚港内にある「いわき・ら・ら・ミュウ」で堪能できます。いわき市や福島県のお土産から小名浜港で獲れた新鮮な鮮魚を購入することができるほか、飲食店も多くあり、海鮮丼や定食、ハンバーガーなど、どの店も美味しそうで目移りしてしまいます。


2階にある「レストラン ふぇにっくす」は、地産地消をモットーに小名浜港で水揚げされた新鮮な魚介類を使った海鮮丼や定食など様々なメニューを提供しています。

同じく施設の2階にある「ライブいわきミュウじあむ」では、「2011.3.11いわきの東日本大震災展」が開催されています。被災当時のいわき市の状況などが展示されており、避難所での生活の様子が再現されているコーナーでは、実体験を基に忠実に再現されています。震災の記憶や教訓を忘れてはいけない、と改めて感じさせられました。


いわき市指定文化財「御代の大仏」
小名浜からは県道26号線を進んでいきます。少し通行量が多いので、十分注意しながら走行しましょう。
県道沿いに気になる看板を発見。「御代の大仏 光西寺」(みよのだいぶつ こうさいじ)に立ち寄ってみました。御代の大仏こと「銅造阿弥陀如来坐像(どうぞうあみだにょらいざぞう)」は1778(安永7)年に建立されましたが、建立から今日に至るまで多難の連続だったそうです。東日本大震災では頭の部分が取れてしまったそうですが、地域住民の協力を得て修復されました。多くの困難を乗り越えた御代の大仏は、かすかに微笑み迷える人たちを導いてくれているように感じます。

いわき市発祥のユニークなレストラン メヒコいわきフラミンゴ館
最後の立ち寄りスポットは道沿いにある「シーフードレストラン メヒコいわきフラミンゴ館」です。いわき市発祥のシーフードレストランで、創業当時から人気のある名物「カニピラフ」などカニ料理を中心としたメニューが充実しています。しかし、いわきフラミンゴ館が人気な理由はそれだけではありません。実はこのレストラン、目の前にフラミンゴがいるのです。

創業者がメキシコに滞在していたとき、フラミンゴの群れを見て感動したそうで、その様子が頭から離れず、レストランをオープンする際に「フラミンゴがいればお客様もきっと喜ぶだろう」と考案したのだそうです。現在は繁殖もしており、タイミングが良ければ赤ちゃんフラミンゴを見ることができます。赤ちゃんが生まれたときには「フラミンゴが生まれました!」というのぼりを立てているそうです。

フラミンゴを見ながらの小休止。目も味覚も楽しみながら休憩できるおすすめのスイーツスポットです。

シメは「いわき新舞子温泉」
「メヒコ いわきフラミンゴ館」をあとにし、県道378号線へ。自転車歩行者道があるので、歩行者に注意しながら走ることも可能です。
さて、ラストスパートは田んぼに囲まれた自然豊かな道をスタート地点の「いわき新舞子ハイツ」に向かって走ります。初夏には青々とした稲が、秋には金色に輝く稲穂を楽しむことができます。
いわき新舞子ハイツに戻り、クロスバイクを返却。ここでは、サイクリングを楽しむ方へのおもてなし特典として、日帰り温泉が200円引きで入浴できます。タオルレンタルもあるので、手ぶらでも大丈夫です。太平洋を一望しながら新舞子温泉を堪能し、サイクリングの疲れを癒しましょう。他にもサイクリストに嬉しい特典や、フロントでチューブやワイヤーなどの備品も販売しているので、”もしものとき”にも頼りになります。

チューブ、ブレーキワイヤー、ブレーキシュー、クリートを購入することができます。工具の貸し出しも行っています
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徒歩より広範囲に、クルマよりゆっくり巡れるスポーツ用自転車は、観光をより楽しくするアイテムになること間違いなしです。普段は軽快車しか乗ったことがないというスポーツ用自転車のビギナーの方は、その走りやすさに驚くかもしれません。レンタサイクルで走る快適なサイクリング、ぜひご家族やご友人と楽しんでみてください。

父親の影響で自転車競技に出会い、高校入学と同時に自転車競技部に所属。高校在学時に全国大会へ出場、入賞を果たす。大学ではサイクルツーリズムを学びながら、実業団チームに所属しJBCFに参戦。選手活動だけでは飽き足りず自転車レースの審判資格を取得し西日本を飛び回る。大学卒業後、産経デジタルへ入社し競技活動は一時お休み中。自称・自転車に生かされている自転車オタク。
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