ロードバイクは思っているほどお金をかけなくても楽しめるお金で見るスポーツ用自転車<1>
昨今の自転車業界で話題になるのは、もっぱら「自転車の価格が高くなった」ということ。確かにスポーツ用自転車は高くなりました。10年前、20年前は、ハイエンドモデルの完成車が100万円以下、ミドルグレードも20万円台後半で買えましたが、今やハイエンドは200万円オーバーが珍しくなくなり、ミドルグレードは50~60万円ほどが相場です。ざっくり2倍になってしまったわけですね。巷でよくいう「クルマ1台買える」という冗談が笑えなくなってきました。

ロードバイクの価格高騰の理由
価格高騰の理由は、もちろん為替や新型コロナの流行など世界情勢の影響も大きいですが、それだけではなく、昨今の自転車特有の事情もあります。ロードバイクに「空力性能」(※)が必須となり、ミドルグレード以上のコンポーネントが従来の機械式から電動・油圧式へと変わったことが高価格化を後押ししています。
(※走行風による影響を受けにくく高速安定性や俊敏なハンドリングを実現する性能)
フレームやホイールの空力性能を高めるには流体解析や風洞実験などが必要になり、それには多大なコストがかかります。コンポの電子部品は機械式に比べてかなり高価です。当然、それらは売価に反映されます。スポーツ用自転車の高騰は、世界情勢と機材の変化のダブルパンチの結果なのです。
ロードバイクの価格は「レース機材」としての価値
では、現在のスポーツ用自転車は高額なお金を払わなければ楽しめなくなってしまったのでしょうか。自転車はお金持ちのスポーツになってしまったのでしょうか。様々な意見があるとは思いますが、私はそう思いません。
ハイエンドバイクにはハイエンドバイクにしかない突き抜けた性能があり、低価格で手に入れることはできません。しかし、「100万円、200万円出さないと楽しめない」というのは誤解です。
個人的な話になりますが、昨年(2024年)新車を買いました。13万円ほどのスチール製のフレームセットに、好みのパーツを組み合わせて総額35万円ほど。現在の市場ではミドルグレード以下の価格帯です。
ではそれが楽しさでハイエンドに劣るかというと、そんなことは全くありませんでした。低価格ながらフレームの素性が非常によく、自分の好みのパーツで組んだということもあって、軽さこそハイエンドに劣りますが、走行性能や楽しさという点では全く負けてない。むしろ、「ハイエンドバイクより楽しい」と思うことさえありました。
一般的には「価格が高いもの=高級・高機能・高性能」といわれます。自動車も家電もスマホもカメラも、価格と機能・性能はたいてい比例関係にあります。もちろんそれは自転車にもいえることですが、ロードバイクの場合、それは“レース機材”としての価値であり、レースを目的としているのでなければその“高性能”ゆえの価格を基準にする必要はないのです。
自分の目的と好みに合った機材を選んで、自分の体にフィットしたパーツで組めば、ときとして「ハイエンドより楽しい自転車」が安価に入手できることだってあります。機能・性能はある程度価格に比例しますが、楽しさと価格は必ずしも比例しないのです。
10万円前半の“戦略モデル”も登場
では、どんなものを買えばいいのか。ネット通販等で見かけるような、数万円の「なんちゃってロードバイク」はお勧めしません。品質が悪く、重量や走行性能云々の前に安全性に問題がある可能性があります。
様々なモデルを数多く乗ってきた経験から感じる値段感ですが、できるだけ低価格でロードバイクの性能を味わってみたいなら20万円、「将来的にレースやイベント参加も視野に入れて本格的に始めたい」という場合は35万円が最低ラインでしょう。いわゆるシティサイクルを基準とすると、自転車の価格として高いと感じるかもしれませんが、ロードバイクの価格としてはこの価格帯が一定の目安と捉えて良いと思います。
ただ、最近は「高価格化によるロードバイクユーザーの減少をどうにかしたい」という企業努力から、10万円前半でよく走るモデルも出てきました。そういう“戦略モデル”でロードバイクライフのスタートを切るというのも一つの手です。
あとは購入する際の大切なポイントとして、スポーツ用自転車を扱っているプロショップに行くこと。そこでスタッフに目的や予算、好みを伝えて相談しましょう。もしかしたら、昨年モデルゆえの「特価車」や、「目立たない場所に小さな傷があるため20%オフ!」といった、あなたを待っている“運命の一台”に出会えるかもしれません。

自転車ライター。大学在学中にメッセンジャーになり、都内で4年間の配送生活を送る。現在は様々な媒体でニューモデルの試乗記事、自転車関連の技術解説、自転車に関するエッセイなどを執筆し、信頼性と独自の視点が多くの自転車ファンからの支持を集める。「今まで稼いだ原稿料の大半をロードバイクにつぎ込んできた」という自称、自転車大好き人間。
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