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転倒してからMTBが怖いです。恐怖を克服する方法はありますか?

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転倒してからMTBが怖いです。恐怖を克服する方法はありますか?

 マウンテンバイク(MTB)のプロフェッショナルがMTBにまつわる素朴な疑問に答えていく本コーナー。今回は「転倒してからMTBが怖いです。恐怖を克服する方法はありますか?」という質問にプロライダーの井手川直樹氏が答えていきます。

今回の回答者 井手川直樹(いでがわ なおき) 1980年4月22日生まれ。1996年に日本最高峰のクラス、エリートクラスへ特別昇格。今も破られていない最年少記録である16歳で全日本チャンピオンに。2002年から2年間は海外のチームへ移籍しワールドカップを転戦。その活躍からホンダ・レーシング(HRC)のMTBチームの設立当初からメンバーとして活動した。在籍中、2年連続のナショナルチャンピオンやアジアチャンピオンなどを獲得し、数多くの功績を残した。現在も現役にこだわり、2021年度発足の「TEAM A&F」では選手兼監督としてレース活動を続けながら、チーム運営やMTBの普及活動に努めている。

 皆さん、こんにちは。プロマウンテンバイクライダーの井手川直樹(いでがわ なおき)です。

 今回はMTBを乗るうえで、どうしてもつきまとう転倒のリスクについてです。僕はMTBに乗り始めて約30年が経ちますが、これまでに転倒した回数は…覚えていないですね! それくらい転倒しています(笑)。

 「そんなに転倒しているのに怖くて辞めようと思ったりしないのですか?」と突っ込まれそうですが、僕が続けているのは「転倒した痛みよりも、MTBに乗る楽しさや魅力のほうが勝るから」です。

 僕の解釈ですが、人間は自分にとって都合の悪いことは忘れやすいようにできていると思います。転倒して痛かった…という都合の悪いことは忘れ、楽しいことや喜びといった都合の良いことを求めていく。少なくとも僕自身にはこの解釈が当てはまっています。

転倒に関するプロライダーの本音

 では、質問に回答しましょう。答えは「はい。転倒もしますし、怪我もします。そうするともちろん恐怖心も生まれます」。

 プロライダーも皆さんと同じ人間なので転倒すると痛いし、大きな怪我をすると恐怖心も出てきます。ですが、10代や20代の若かった頃は恐怖心よりも勢いが勝って、あまり恐怖を感じた記憶がありません。

 ただ、痛みも経験なので何度か繰り返すうちに「痛い思いをしたくない」と思い、無意識に転倒しないよう気をつけた走り方をしていると感じます。もしかすると、これがベテランになったときに言われる“安定感”ということなのかもしれません。

ダウンヒルでは下りながらこんなロックセクションにスピード全開で突っ込んでいきますので、恐怖心とは常に向き合っています

恐怖心の克服法は?

 魔法のように効果がすぐに出る解決方法はありませんが、僕が考える克服方法は「徐々に慣れていく」だと思っています。

 MTBに乗っていてどんなときに恐怖を感じるのかを考えてみました。

  • 恐怖を感じるシーン
  • ①やったことがないことへチャレンジするとき(大きなジャンプを初めて飛ぶときなど)
  • ②痛みや不快を感じるかもしれないと思いつつも、やらなければいけないとき(1度チャレンジをして、失敗して、痛い思いをしたにもかかわらず、再度チャレンジするときなど)
  • ③成功するイメージができないセクションを目にしたとき(他人ができていることでも、自分ができるイメージが持てないときなど)

 これらは僕が実際にMTBに乗っていて恐怖や不安を感じることでもあります。ご自身の恐怖心と照らし合わせていかがですか?

 では、僕がこれらの恐怖心をどうやって克服していくのか。それは、やったことのないことや、怖いと感じるセクションなどにいきなりチャレンジするのではなく、1、2段階レベルを落とし、類似したセクションで確実に走れるように何度も走って慣れていくという方法です。

 若くて勢いがあった頃は、反射神経でリカバリーできたので、多少の恐怖心があっても勢いでチャレンジすればだいたい成功していましたが、今はそんなことをしたら選手生命に関わってくるので、少しずつ成功を重ねて慣れていくことがゴールへの近道だと思っています。

 もちろん僕はプロライダーなので恐怖を感じるレベルが一般とはかけ離れているかもしれませんが、感じる恐怖心は皆さんと同じなんです。

 “かけ離れている”というのは、これまでの経験で難しいセクションに皆さんよりも“慣れている”という意味でもあるので、何事も少しずつ慣れていくのが重要だということですね。

子供には嫌な思いをさせないようにする

 ちなみに、親の立場から、子供の転倒についてどう考えておくべきでしょうか。一度転倒してしまうと乗らなくなってしまうかもしれませんね。

 もちろん、「子供」といっても色んなタイプの子供たちがいますので一概に答えるのは難しいですが、僕がこれまでたくさんの子供たちに指導してきた経験からすると、冒頭でもお話ししたように、まったく転倒しないで自転車に乗れる人は少ないと思います。

子供の場合は一度転倒してしまうと乗らなくなってしまうこともありますか?

 だから子供たちにも“必ず転倒はする”ということを前提に、転倒しないようにするのではなく、転倒しても“嫌な思いをしない”ように気をつけてあげることが必要だと思います。

  • 子供に嫌な思いをさせないように注意すべきこと
  • ・転倒しても痛くないような場所で乗る
  • ・プロテクターやヘルメットを必ず着ける
  • ・嫌がるときに無理やり乗せない
  •  など

 僕は、小さいうちにたくさん転んで、色んなことを身体で経験したほうが良いと考えています。そのなかでたくさんのことを学んで吸収して、運動神経や身体が作られていくのではないかと思っています。

 小さいうちから楽しい経験や思い出をたくさん作って、大きくなっても自転車を楽しんでもらえたら僕も嬉しいですね!! 最後までご覧いただき、ありがとうございました。