2024.2.22
ロードバイクなどスポーツ用自転車でのサイクリングは、風と一体になる爽快感に加えて、全身の筋肉を使った有酸素運動であることから、健康にも役立つスポーツとして人気を博しています。しかしスポーツサイクリングは一般的に買い物などの日常使用より乗車時間が長くなることから、サイクリング中やその後で体の痛みを訴える人も少なくありません。なぜ痛みが生じるのか? 痛みを和らげたり防止したりする方法は?この記事では理学療法士でもある自転車系YouTuber、tom's cyclingのTOMI氏に聞いた、スポーツ用自転車乗車時の痛みの原因と対策について紹介します。
スポーツ用自転車は、サドルなどのセッティングをわずかに変更するだけでも、体に痛みが生じることがあります。今抱えている痛みばかり目を向けて対処しようとすると別の部位が痛む可能性もありますから、様々な部位に生じる痛みの原因を知っておくと良いでしょう。
※本記事はあくまで参考として紹介するものであり、痛みが強い場合などは医療機関の受診をオススメします。
夫(TOMI)と妻(YOPI)のユニット。2017年より、ロードバイクをはじめとして、自転車関連の動画を配信。ポタリング・レース・ロングライド・機材紹介などから、本職である理学療法士の知識を生かしたフィジカルセミナーなど、様々な情報を発信している。
スポーツ用自転車のビギナーは、スポーツ用自転車特有の乗り方にまだ慣れておらず、体の各所に余計な負担がかかり、痛みを生じてしまう場合が少なくありません。痛みが出てしまった場合、その原因と対策を意識することで、乗り方の上達にもつなげてみましょう。
スポーツ用自転車にまたがり続けた際のお尻の痛みは、多くの場合、サドルに体重が過剰にかかることが原因です。バランスよく腹筋・背筋を使い、ハンドル、サドル、ペダルの3点に荷重を分散させることが重要です。初心者は特にサドルに体重をかけがちで、これが時間とともにお尻へのストレスとなり痛みを引き起こすことがあります。逆に言うとサドルへの荷重を減らすことが、お尻の痛み軽減に役立ちます。
乗り方のコツとしては、上半身は腕ではなく、腹筋・背筋をはじめとした「体幹」を使って支えつつ、ハンドル、サドル、ペダルの3点に荷重をかけて乗るようにしましょう。体幹を使うという感覚がわかりにくい場合は、サドルにまたがり、上半身をゆっくりと前に倒しつつ、ハンドルを手に添える一歩手前の状態をキープしてみてください。この状態が、体幹を使って上半身を支えている状態になります。常に体幹を使って上半身を支えている状態が正しい乗り方です。
また、サドルの高さが原因となる場合も考えられます。体幹を使った乗車をしてもお尻に痛みが生じる場合、サドルが低い可能性があります。ただし逆にサドルを上げすぎると、また別の痛みが生じることになります。適切なポジションを求めるのであれば、プロのフィッティングサービスを受けることをおすすめします。
別の種類のお尻の痛みとして、尿道を圧迫した痛みや、サドルとの擦れにより生じる痛みがあります。これらはサドル角度の調節や、穴あきサドルの使用、座骨幅に合ったサドルへの交換などで軽減・解決することが期待できます。近年はサドルのフィッティング技術が向上しており、座骨幅を測定して適切なサドルを選べるショップもあるので、こうしたサービスを利用してみるのも良いでしょう。
ロードバイクにまたがった際、体との接点は、通常、ハンドル、サドル、ペダルの3点になります。この3点のうち、ハンドルとサドルの2点にかかる負担が多くなれば、それがストレスとなり、お尻や腕の痛みにつながっていきます。
前項にある通り、自転車はハンドル、ペダル、サドルの3点にバランスよく荷重かけた状態が、体に痛みを生じさせない基本となります。これが崩れて手の平に負荷がかかり続けると、痛みが生じてきます。
乗車時は体幹を活用して上半身を支えるのが基本ですが、ロードバイクのように前傾が深いポジション(乗車姿勢)をとる場合、ビギナーは時間が経過すると上半身を支えきれず、背骨を反らせてハンドルにもたれかかったり、腕を伸ばして腕でハンドルを押し付けたりして乗ってしまい、ハンドルへ必要以上に荷重をかけた状態に陥りがちです。これが手の平の痛みにもつながります。
手の平の痛みを緩和するための手軽な対処法として、厚手のパッドが付いたグローブを利用したり、クッション性の高いバーテープの利用といった方法もあります。しかしアイテムでの痛みの緩和は補助的なもので、乗り方に問題があると考えたほうがいいでしょう。ハンドルにもたれかかるような乗り方は、安全面からもオススメできませんし、無理のないポジションにしたうえで、上半身を支えられるように体幹を鍛えていくのが一番の近道です。
また手首の痛みは、ハンドルの握り方に原因があることが考えられます。腕の痛みに関しては、上腕三頭筋(二の腕の下側の筋肉)は自転車乗車時に疲れやすい部分で、ビギナーは筋力が付くまで我慢するしかない部分かもしれません。ストレッチで労ってあげましょう。
ロードバイクユーザーを悩ます体の痛み。手、首、肩、腰、尻、膝など、痛みを覚える箇所は人様々です。あまりに苦痛で乗るのが嫌になってしまう人もいます。なぜ、ロードバイクに乗っているうちに痛みが生じるのでしょうか。
スポーツ用自転車に乗車して生じる腰の痛みは、主に2つの原因があると考えられます。1つは、お尻の筋肉(大殿筋)を使ったペダリングができていないケース。もう1つは、サドルの高さが合っていないというケースです。
大殿筋を使わずにペダリングを続けていくと、代償動作によって腰の筋肉にストレスがかかってしまい、次第に腰に痛みが発生します。大殿筋が使えていても、筋力が足りなかったり、酷使した場合も、次第に代償動作によって腰が痛くなっていくことがあります。
特にビギナーの場合、自転車は太もも(大腿四頭筋)でこぐものと考えている方が多くいますが、腰痛防止には大殿筋を使うことを考えたほうがよいです。大殿筋を使ったペダリングをするには、下腹部(腹筋)に力を入れた状態で、脚の付け根(股関節)から脚を動かしたペダリングを意識すると大殿筋を使っている感覚を得やすくなります。
サドルの高さに関しては、サドルが高すぎる場合、低すぎる場合、いずれも背筋を無駄に使うことになり、腰の痛みにつながってしまします。サドルの高さの目安は数式で求められますが、より正確に合わせたい場合は、プロのフィッティングサービスを受けることをおすすめします。
乗車時以外の対策としては、腰痛予防や改善につながる腹横筋の筋力トレーニングや、体幹トレーニングのハンドニーがおすすめです。このほかにも背骨を曲げる練習、各種ストレッチ、フォームローラーを使ったセルフマッサージなどを組み合わせることで、腰の痛みの予防・解消が期待できます。
ロードバイクに乗っていて腰に生じる痛みの原因は主に2つあると考えられます。ひとつは、お尻の筋肉(大殿筋)を使ったペダリングができていないケースです。
首の痛みと肩凝りの原因は僧帽筋という、首の下から、肩、背中にかけて広がった筋肉の疲労で生じます。ロードバイクの場合は、前傾姿勢をとり続けながら、前方を見ていると、首を筋肉で支え続ける必要が出てくるので、次第に首や肩に痛みが生じてきます。
猫背の人は首が前に出ているので、僧帽筋が常に頭の重さを支えているような状態になっているので、通常よりも首や肩にストレスがかかります。また、背骨を大きく曲げてロードバイクに乗っているような人も首を上げた姿勢になりがちなので、首や肩に痛みを覚えやすくなります。
対策としては、乗車ポジションを前傾しすぎないよう変えたり、前方確認する際に顔全体を上げるのではなく、あごを引いた状態で前方を見るようにすると、負担は少なくなります。また、ヘルメットも選び方を間違えると首や肩の痛みにつながる場合があります。サイズが大きなものは、余分に後ろに荷重がかかってしまう場合があるので、ジャストサイズのヘルメットを選ぶことも、首や肩の痛み防止には必須です。
首の痛みと肩凝りの原因は僧帽筋という筋肉の疲労で生じます。首の下から、肩、背中にかけて広がった筋肉の酷使によるものです。
自転車でエンジンの役割を果たすのが人間の脚。その中央で屈曲を繰り返す膝は、長時間のサイクリングで痛みを生じやすい部分です。一口に「膝の痛み」といっても、膝のどの部分が痛むかによって、その原因と対策は異なってきます。オーバーワーク(漕ぎすぎ)というだけではなく、ちょっとした乗り方のバランスの違いでも、痛みを生じやすくなる場合があります。
スポーツ用自転車に乗って生じる膝の表側の痛みは、膝蓋骨と呼ばれる膝のお皿の下の部分とお皿の斜め上の部分に生じます。
これらの部分に痛みを生じるのは、膝の筋肉を伸ばす、太ももの筋肉(大腿四頭筋)を使いすぎてしまっていることが可能性として考えられます。大腿四頭筋の膝の表側の筋肉はつながっており、大腿四頭筋の使い過ぎによってストレスが蓄積、痛みにつながります。ロードバイクビギナーであれば、重いギアでガシガシ踏むようなペダリングを続けていると痛みが生じやすくなります。
また、サドルの高さが低い場合でも、大腿四頭筋への負荷が大きくなりますから、痛みが生じる可能性があります。
対策として、まずはサドルの高さが低すぎないかを確認することが必須です。2点目としては、大腿四頭筋を使ったペダリングではなく、お尻の筋肉(大殿筋)を使ったペダリングにすることです。大腿四頭筋の酷使により、膝の表に痛みが生じるわけですから、大殿筋を使ったペダリングに変えましょう。
膝の前側の痛みが生じた場合、直立した姿勢から、膝下を曲げるストレッチがおすすめです。ストレッチはすでに筋疲労を起こしている筋肉に対しての回復効果は持ちませんが、縮んでしまった筋肉に対しては伸ばしたほうがいいです。大腿四頭筋は縮みやすい筋肉ですので、ストレッチはそれなりに有効なものとなります。
ロードバイクに乗って生じる膝の表側の痛みは、膝蓋骨と呼ばれる膝のお皿の下の部分とお皿の斜め上の部分に生じます。
膝の裏側が痛くなる人は、サドル高が高すぎることが原因と考えられます。ペダルを回転させる下死点付近で脚が伸び切ってしまい、脚を引き上げるときに負荷が生じていると思われ、高すぎるサドルでペダリングを続けることで次第に痛みを伴ってきます。
サドル高が高すぎることで、腰痛を誘発したり、ハンドルとの落差が大きければ手の平の痛みにもつながったりもします。逆にサドル高が低ければ、膝ばかりかお尻の痛みにもつながりやすくなりますから、いずれにせよ適切な高さにサドルを合わせることが大切です。
膝裏に痛みがあった場合のストレッチ方法として、ハムストリングスを伸ばす方法があります。地面にお尻を付けたまま脚を伸ばして前屈を行いましょう。また、立った姿勢から体を前に倒して、両手で自分の太ももを抱きかかえる方法もあります。膝裏が痛くなったときは、膝裏上下の筋肉を伸ばすのがいいので、アキレス腱伸ばしも有効です。
また、痛みを緩和するには、ストレッチよりもマッサージのほうが効果が高いとされています。出先ではストレッチで対処し、帰宅後にマッサージを行うとよいでしょう。膝裏の痛みのマッサージにはフォームローラーが役立ちます。フォームローラーを活用したマッサージとしては、足裏にフォームローラーを敷き、体重をかけて前後にころころと転がして、圧迫を加える方法が効果的です。
膝の裏側が痛くなる人は、サドル高が高すぎることが原因と考えられます。下死点付近で脚が伸び切ってしまい、脚を引き上げるときに負荷が生じていると思われ…
膝の外側の痛みはランナー膝とも呼ばれる腸脛靭帯炎が疑われます。腸脛靭帯とは股関節から膝まで伸びた靭帯で、膝の曲げ伸ばしの繰り返しによって生じたストレスによって痛みが出るとされています。サイクリストにあてはめると、ガニ股の人やO脚の人がなりやすいと思われます。また、サドルが低すぎることでも、ペダリング時に股関節が詰まって、ガニ股ペダリングになることがあります。
一方で膝の内側の痛みは鵞足炎と呼ばれる症状が疑われます。膝のお皿の骨から見て、内側下の鵞足と呼ばれる部分にストレスが生じて痛みが出る症状です。サイクリストにあてはめると、内股の人がなりやすいと思われます。
いずれの場合も、ペダリングの際に、(足先ではなく)膝の向きが外側を向いてしまったり、内側を向いてしまったりすることで、膝の外側・内側にストレスがかかるものと思われます。膝の関節は股関節や足関節と違い、左右に動かしたりできない自由度の低い関節です。このため、内側と外側は痛みの出やすいところです。
ペダリングをする際は、適切なサドルの高さで、真っ直ぐに踏み下ろすことが大切です。股関節の向きは多少、内側にずれても問題はありませんが、膝と足首が真っ直ぐ下りる状態が望ましいです。クリートのセッティングによって、膝と足首が真っ直ぐ下りるように調節するのも一つの手となります。
膝の外側の痛みはランナー膝とも呼ばれる腸脛靭帯炎が疑われます。腸脛靭帯とは股関節から膝まで伸びた靭帯で、膝の曲げ伸ばしの繰り返しによって生じたストレスによって痛みが出るとされています。
スポーツ用自転車に乗った際の体の痛みの原因と対策には、いくつか共通のポイントがあることに気付かれたかもしれません。まとめとして、乗車時の痛みを防止するために、心がけたいポイントを改めて紹介します。痛みの発生を完全に防ぐのは難しいですが、下記の3つのポイントを押さえるだけで、自ら招いてしまう痛みは減らせるはずです。
1点目が、ロードバイクに乗車する際は、サドル、ペダル、ハンドルの3点に荷重をかけることを意識することです。ビギナーの場合はサドル、ハンドルの2点に荷重をかけがちです。そのような状態が続けば、お尻や手の平などにストレスがかかり痛みが生じてしまいます。体幹を使って荷重を分散した乗り方を意識して身に付けましょう。
また時折、ペダルに体重をかけてペダリングをする、立ちこぎ(ダンシング)を取り入れる、乗車中に姿勢をこまめに変えるなどして、特定の部位に継続してストレスがかかることを防止できます。工夫をして痛みの発生を防ぎましょう。
2点目が、大前提として、サドルが高すぎたり、低すぎたりしていないことです。極端な乗車ポジションになると、ビギナーであろうと上級者であろうと、様々な部位が痛んできます。適切でないサドル高は、下表のように様々な痛みを誘発する原因となります。
サドルが高すぎる | サドルが低すぎる |
---|---|
・腰 ・膝の裏側 ・手の平、腕(ハンドルとの落差が大きい場合) ・肩、首(ハンドルとの落差が大きい場合) | ・腰 ・膝の表側 ・お尻 |
サドルの高さは適切でも、ビギナーの場合、ハンドルとサドルの落差が大きすぎると、体幹が足りず、ハンドルにもたれかかるように乗ってしまうことがありますから、その場合も腕に痛みが生じてしまいます。適切な乗車姿勢に近づくには、ロードバイクに乗り慣れて体幹をつける、筋肉トレーニングで補うなどが必要になるということも知っておきましょう。ロードバイク乗車時に必要な筋肉が十分に備わって初めて、プロロードレーサーのようなポジションでも乗りこなせるのです。
3点目が筋肉を有効活用することです。上記に示した体幹をつけることもその一環ですが、それに加えて、疲れにくいお尻の筋肉(大臀筋)を主体に使ったペダリングを覚えて実践することが効果的です。ビギナーにありがちな太もも(大腿四頭筋)を主体に使ったペダリングを続けると、腰や膝の表側に痛みを生じる場合があります。もちろん、ペダリング時には、膝が外側を向いてガニ股ペダリングになったり、内側に向いてしまわずに、真っ直ぐに踏み下ろすペダリングをすることが基本となります。
ロードバイクに乗って生じる体の痛みは、サドルを少し上げた、下げたといったように、わずかな差で生じることもあり、様々な痛みを経験する人もいます。
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