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ご褒美“マシマシ”ヒルクライム 乗鞍岳(長野)

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速く上るだけじゃもったいない
ご褒美“マシマシ”ヒルクライム 乗鞍岳(長野)

 数あるヒルクライムレースの中でも最強ヒルクライマーの決戦の場として名高い「乗鞍ヒルクライム」。その舞台となる乗鞍岳は長野県と岐阜県の県境に位置し、選手たちはゴールの畳平(たたみだいら)までの全長20.5㎞、標高差1,260mを一気に駆け上ります。ただ、それはレースの話。実は、ただ速く上るだけではもったいない、魅力に溢れた山なのです。新しくオープンした話題の立ち寄りスポットも含め、一味違った乗鞍ヒルクライムの楽しみ方を紹介します。

オススメポイント 「森林限界」を超えるダイナミックなコースで、高度を上げるにつれて山の表情が大きく変化します。平均斜度6%強とそれほどきつい上りではないので、上級者でなくてもゆっくり上れば登頂できるレベルです。アクセスしづらい山奥にあるのが難点ですが、その分、ただ上るだけでなく休憩して眺めを楽しんだり、登頂後のプチ登山を組み合わせたりしてじっくりと乗鞍を堪能しましょう。
レベル ★★(中級者向け)
距離 41.4km
獲得標高 1,289m
発着地 乗鞍観光センター
立ち寄りスポット 冷泉小屋、乗鞍岳畳平バスターミナル軽食コーナー、GiFT NORiKURA Gelato & Cafe

国内最高地点を走る「乗鞍エコーライン」

 毎年7月1日から10月31日(※道路状況により変動あり)の約4カ月間のみ通行解除される「乗鞍エコーライン」。標高2,702mの畳平へとつながる国内最高地点を走る舗装道路で、しかもマイカーの通行が規制されていることから、涼しく安全に走れる夏に人気のヒルクライムスポットとなっています。

乗鞍観光センター。入口に乗鞍の「深層地下水」による無料給水サービス(ウォーターサーバー)がある

 ヒルクライムの拠点となるのは長野県側の麓にある「乗鞍観光センター」。クルマでアクセスし、そこからスタートするのが一番手っ取り速い方法ですが、シーズン中は登山客も多いので駐車場が早い時間に埋まってしまう可能性もあります。当日入りの場合は遅くとも午前8時頃までに乗鞍観光センターに到着するよう出発することをおすすめします。

午前9時の時点で第2駐車場もほぼ満車状態に

 輪行で鉄道を利用する場合は上高地線の新島々駅が最寄りですが、乗鞍観光センターへの道路は幅が狭い上に路面の状態もあまり良くなく、クルマの交通量も多いので、安全上あまりおすすめしません。首都圏方面から輪行で来る場合はJR松本駅から乗鞍観光センターまでのバスを使う方法もありますが、当日入りの場合、到着時間が昼近くになったり、荷物の積載状況によっては断られたりするケースもあるため、可能ならばクルマでのアクセスがおすすめです。

 トイレ等をすまし、身支度を整えたら出発です。乗鞍観光センターを出て右に曲がり、150mほど進んだところが「乗鞍ヒルクライム」のスタート地点。そこを過ぎたらヒルクライムスタートです。

例年、先の駐車スペース(赤い矢印)周辺に乗鞍ヒルクライムのスタートゲートが設けられる

 マイカーの通行が規制されるのは約7km先の「三本滝ゲート」からで、そこまでの区間は観光バス以外の一般車両も走ります。

 この辺で注意すべきポイントとしては、三本滝ゲートを挟んで2カ所、隙間が大きめのグレーチングがあります。一見、その見た目におののきますが、ハンドルの向きをまっすぐ維持し、スピードを緩めることなく乗り越えれば通常通りに通過することができます。

三本滝の前後に2カ所あるグレーチング

 ダウンヒル時もこの辺にグレーチングがあることに注意し、突然の出現に慌てることなく対処しましょう。

三本滝ゲート。ここからは観光バスや許可車両以外、マイカーの通行は規制される

新たな休憩スポット「冷泉小屋」

 三本滝ゲートから6kmほど、九十九折れ区間の途中にいま注目のホットスポット「冷泉小屋」が現れます。新スポットといっても、もともとあった古い小屋を改装したもので、実に16年ぶりのリニューアルオープン。再建のためにクラウドファンディングを通じて寄付を募ったところ、乗鞍を愛するサイクリストたちからも多く寄せられたそうで、サイクリストの間でも話題になっている山小屋です。

外壁の最終仕上げを行いつつ今季は7月1日よりオープン。たくさんのサイクリストが中腹での休憩に利用
昭和6年創業の歴史ある山小屋「冷泉小屋」

 小屋本来の建材を生かしつつ、改築された内装は空間が広く、お洒落でシンプルな家具で統一されており、山なのにカフェにいるような居心地の良さ。宿泊施設も旧態依然とした山小屋の古さはなく、まるで欧州にある快適な山小屋を思わせます。

広々とした居心地の良い空間
カフェのような空間だが、窓からの眺望はしっかり山
カフェは9時から営業開始
ランチは11時~16時まで。おにぎりセット(500円)の他、チキンカレー(1300円)も 

 脚力にまだ自信のない人や、ゆっくり楽しみながら上りたい人の休憩スポットとしてはもちろん、1泊2日でトレーニングを頑張りたいという人など、ニーズによってさまざまな使い方を楽しめそうです。エコーラインが開通している10月22日までの毎週金土日のみの営業です。

冷泉小屋からさらに2kmほど上った先にある位ヶ原(くらいがはら)山荘。こちらでも休憩可能

大雪渓を越えたらゴールは間近

 位ヶ原山荘を過ぎた時点で標高2,300m超の世界。陽を遮っていた周囲の木々もなくなり、空が開けてゴールへと向かう道路を視界に捉えます。下界のような暑さがなくなったと思ったら、前方には夏でも解けない「乗鞍大雪渓」が登場。ひんやりとした風が発熱した体を気持ちよく冷やしてくれます。

視界が開けた先に見える乗鞍大雪渓。雪渓周辺は夏スキーを楽しむスキーヤーで賑わう

 まるで夏から秋へ季節が移り変わったかのような体感温度の変化。それだけ一気に標高差を駆け上ってきたということですが、一方で気圧が急変する区間でもあります。人によっては息苦しさを覚える場合もあるので、初めて上る場合は自身の体調の変化を確かめながら、またビギナーに同行する場合は相手を気遣いながら上るようにしましょう。

ゴールへと向かう直線コース

 大雪渓を過ぎたら頂上まで残り約2km。ヒルクライムレースではゴールを目掛けて徐々にアタック(スピードを上げる)を開始する区間。毎夏、繰り広げられている激闘に思いを馳せながら、たくさんのクライマーの汗が沁み込んだ道を走ります。

体調に問題なければ、自分なりのラストスパートにチャレンジを!
畳平に登頂。ゴールの先は岐阜県高山市

ご褒美の絶景ポイントへ

 ゴール後すぐに引き返す人も多いのですが、畳平まで来てそれはもったいない。ここには、サイクリスト以外の人々が求めて集まるもう一つの魅力があります。それは登山です。

 登山客の多くが目指すのは乗鞍岳の最高峰・剣ヶ峰(3,026m)ですが、そこまで行くには片道1時間半ほどかかり、登山仕様の装備も必要となります。そこまで装備を用意しなくても上れるのが、ヒルクライムのゴールを挟むように両脇にある、大黒岳(2,772m)と富士見岳(2,817m)です。

大黒岳から眺める畳平全景。晴れた日は北アルプスの山並みも見える

 どちらもコースタイムは片道20~25分程度。サイクリングシューズでもクリートが露出していない「SPD」シューズであれば上れるレベルです。ただ、下山時に足元が少し不安定になるので、心配な人は軽量な運動靴を携行すると良いでしょう。さらに標高が高くなり、徒歩では風も冷たく感じるのでウィンドブレーカーは必携です。

ここまで上って来たコースも一望

 下山後、小腹が空いたら畳平のバスターミナルへ。1階にある軽食コーナーでは「飛騨牛コロッケ」や「牛まん」など温かい軽食が食べられるほか、しっかり補給したい場合は2階の展望レストランでカレーライスや牛丼等のメニューを取り扱っています。

地元の「飛騨牛」を使った牛まん

 最後はバスターミナルに隣接する乗鞍本宮の中ノ宮へ。無事登頂のお礼と、このあとのダウンヒルの安全を祈願してお参りをしましょう。「お守り朱印授与所」では自転車に貼れるサイズのお守りステッカーも取り扱っています。

乗鞍本宮の中ノ宮
1階にあるお守朱印授与所

 ちなみに、畳平を挟んで岐阜県側の平湯温泉側へと続く「乗鞍スカイライン」は、2022年9月の大雨被害によって起点から1.3km付近で大規模な崩落が発生したため全面通行止となっており、現時点では復旧の目途が立っていないそうです。

〆は“乗鞍産”の絶品ジェラートで!

 下山後は、さっきまでの秋のような涼しい世界から一変して再び猛暑の世界へ。うだるような暑さに「帰ってきてしまった…」とストレス指数があがりますが、そんな暑さに似合う新名物が乗鞍観光センター内に登場しました。「GiFT NORiKURA Gelato & Cafe」の、地元・乗鞍をはじめとする信州産の素材にこだわった優しい甘さのジェラートです。

「GiFT NORiKURA Gelato & Cafe」のジェラートを求める長蛇の列

 一番人気は地元産の「乗鞍ヤギミルク」と「ブルーベリー」。テイクアウト用のワッフルコーンは、添加物を一切使わず、長野県産の小麦粉を使って一つ一つ手焼きしているそう。シナモンが効いた自家製ワッフルコーンがジェラートの美味しさを引き立てます

「乗鞍ヤギミルク」と「ブルーベリー」のダブル(750円)

 下山後のご褒美を堪能したら最後は温泉でフィニッシュ。乗鞍観光センター付近にある「湯けむり館」が駐車場からのアクセスも良く、便利です。

 クルマなら少し脚をのばして白骨温泉に立ち寄るのも良いでしょう。あるいは、周辺には宿泊施設も多いので、1泊して翌日早起きし、もう一度乗鞍を上ってみるのも良いでしょう。同じコースでも時間帯や天気によって表情ががらりと変わるのが自然の絶景。運が良ければ、頂上から眼下に広がる素晴らしい雲海を眺められるかもしれません。

ヒルクライムコースのゴール付近から眺める朝の雲海
文: 後藤恭子(ごとう・きょうこ)

アウトドアメーカーの広報担当を経て、2015年に産経デジタルに入社。5年間にわたって自転車専門webメディア『Cyclist』編集部の記者として活動。主に自転車旅やスポーツ・アクティビティとして自転車の魅力を発信する取材・企画提案に従事。私生活でもロードバイクを趣味とし、社会における自転車活用の推進拡大をライフワークとしている。

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