ハンガーノックでまさかの落車! 集団走行のコミュニケーションとエネルギー補給は積極的にしくじりサイクリスト<3>

2025/05/16    

 自転車乗りなら「あるある」と苦笑してしまうエピソードからプロの失敗談まで、人の振り見て我が振り直す連載『しくじりサイクリスト』。今回は、高校時代の部活動で自転車競技部に所属し、毎日男子選手に交ざってハードなトレーニングを積んでいたという『ENJOY SPORTS BICYCLE』の新人編集部員・片山葉月の話。日々の鍛錬の成果もあり、自転車競技を始めて1年半ほどで全国入賞をすることができたそうですが、そんな栄光には影もつきもの。シーズンオフになった高校時代の冬、翌年3月から始まるシーズンに向けて地味で辛いトレーニングを積んでいたときに「我慢の末に意識が飛んで落車してしまった」という失敗談です。

冬場のトレーニングでは基礎体力向上のため山間部方面への長距離ライドが多かった

補給食を食べられるか否かが命取り

 あれは自転車競技を始めて1年半が過ぎた高校2年生の冬のことでした。当時の私は、春の選抜大会での上位3位以内を目標に毎日ハードなメニューを遂行していました。その日は高校をスタート/ゴール地点として150km程を走る「街道トレーニング」の日でした。コース自体は全体を通して平坦基調。市街地から川沿いを抜けて山間を通り、折り返し地点で一度休息を取り、また同じ道で帰るといったものでした。冬場のトレーニングコースとしては定番で、よく通っている慣れた道でもありました。

 その日も男子選手3人と私を含む4人が同じチームとなり走行していました。部内で唯一の女子選手だったのでトレーニング内容は男子選手と同じ。そのため、男子選手のハイペースに付いていくことに必死になっていました。平坦基調の緩やかな上りだと男子選手は時速40kmで走行できてしまいます。しかし私はそのスピードに必死に食らいつき、なんとか耐えている状況でした。

 折り返し地点での休憩で補給食や軽食をしっかり食べられる時間が設けられていましたが、あまりの辛さに食欲が湧かなかった私。2口サイズの小さめおにぎりを2つだけ食べてトレーニング後半戦に挑みました。この判断がのちに、悲惨な事態を引き起こすことになるのでした。

天国から地獄へ・・・ランナーズハイからのエネルギー切れ

 トレーニング後半戦、走行距離が100kmを超えた頃、辛く、限界を感じていたはずの脚と呼吸が突然軽くなりました。いわゆる「ランナーズハイ」(※)と同じ状況です。信じられないほどの調子の良さに男子選手のハイペースに余裕で付くことができ、男子選手達も驚くほどでした。まるで天国のような調子の良さに気分はウキウキ。元々中長距離を得意としていたため、長距離のライドでも後半での粘り強さには自信がありました。そんな自分の力を過信したのか、「あと50kmなんて余裕だな〜」とかなり呑気に考えていました。

(※長時間のランニングなどの際に経験される陶酔状態のこと)

 しかも休憩の時に小さめのおにぎりを2個しか食べていないのに、お腹も空いていませんでした。100kmを超えるライドであれば、おそらく消費カロリーは3000kcalを超えているはずです。これは成人男性の1日の消費カロリー(2000〜2700kcal)以上に相当します。消費カロリー量に反して私は、おそらく300kcal程度の摂取カロリーだったでしょう。

 「ハンガーノック」と言われるエネルギー不足によるガス欠状態になる条件が揃ったところで学校まで残り20km、今まで信じられないくらい調子が良かったのが一気にペースダウン。ランナーズハイが終わり、案の定ハンガーノックに陥りました。まさに天国から地獄へ突き落された気分でした。

 なんとか必死にくらいついていきましたが、じりじりと離されます。下り基調だったため、信号待ちのタイミングでなんとか追いつくもすぐに離される、そんな状態がしばらく続きました。学校まで残り15kmになると、川沿いの堤防上を走ることになるのですが、ここにきて急に強烈な睡魔と疲労感が襲いかかりました。

 この身体の異常に同じチームの男子選手は気づかず、私も遠慮してしまい、身体の異常を訴えることができませんでした。必死に耐えていると突然、「プツン」と意識が途切れました。

 気づいた時には堤防上から土手に落ち、落車していました。土手に落ちた衝撃で意識は戻りましたが、身体のあちこちに痛みがあり「身体を打ったんだ」とすぐに分かりました。自転車は幸いにも地面の草が衝撃吸収をしてくれたおかげで、フレームにヒビ割れはありませんでした。しかし、ブラケットカバーとバーテープはボロボロ。フロントライトは無事でしたが、テールライトは粉砕していました。

 私はというと、一瞬何が起きたか分からず呆然と座り込んでいました。すぐに男子選手が駆け寄ってくれて「大丈夫か!?」と声をかけてくれましたが、私は「はい、大丈夫です。すみません。」としか言うことができませんでした。落車した経緯を話し、すぐに補給食を食べることで少し回復。その後、スローペースで高校まで帰りました。

当時のロードバイクではなく筆者所有のトラック競技用ハンドルだが、このようにバーテープがぱっくり割れた

食べることもコミュニケーションも自己管理

 落車の原因はハンガーノックによる血糖値の低下であると思われます。後に調べたところ、ハンガーノックは3段階に分けられるそうで、初期症状は空腹感、中期症状は倦怠感やのどの渇き、後期症状は体の痺れや強い倦怠感などの症状が起きるそうです。今思えば、当時は後期症状まで進んでしまっていたのだと思います。高校へ戻った後、残っていたおにぎりと補給食を全て食べきり症状は緩和。部活の顧問の先生からは、「なぜ補給食を食べなかったんだ!」とこっぴどく叱られ、両親からは「自転車を大切にできないのか!」と叱られました。

仲間に自分の体調や走力を伝えることも自己管理につながる

 この出来事以降、自分の体調の変化を無視せずに体調が悪ければ「ちょっと体調悪いから自分のペースを守る」と伝えるようにしています。トレーニングのライドだけでなく、サイクリングで初めてご一緒する方とも、予め「私はこのくらいのペースでしか走れないと思います」と必ず伝えるようにしています。最初から消極的なことを伝えるのは少し戸惑いを感じるかもしれませんが、伝えることで自己管理ができ、無理をして周囲に迷惑をかける心配もありません。

 また、少しでもお腹が空いたと感じたら、エネルギー補給ができるゼリーやようかんなど、エネルギー変換の早い補給食を食べるようにしています。この出来事から5年ほど経ちましたが、あれからハンガーノックで落車するまでに至っていないので、‘‘しくじり’’が教訓になっていると思います。

片山葉月(かたやま・はづき)

父親の影響で自転車競技に出会い、高校入学と同時に自転車競技部に所属。高校在学時に全国大会へ出場、入賞を果たす。大学ではサイクルツーリズムを学びながら、実業団チームに所属しJBCFに参戦。選手活動だけでは飽き足りず自転車レースの審判資格を取得し西日本を飛び回る。大学卒業後、産経デジタルへ入社し競技活動は一時お休み中。自称・自転車に生かされている自転車オタク。

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