2021.12.6
一般社団法人 自転車協会が主催する「SBAAオフロードバイクディーラーサミット 2021-22」が11月17日に栃木県宇都宮市のろまんちっく村で開催され、SBAA PLUS 認定者をはじめとする自転車販売店のスタッフを対象に、プロライダーによるライディングスクールや、座学講習などが行われた。ここでは、e-BIKEに詳しい自転車ジャーナリストの難波賢二氏が行ったセミナー「流行中のいま必要な学習 日本で成功するためのe-BIKEビジネス」の模様をリポートする。(Text by Masahiro OSAWA, Photo by Shusaku MATSUO)
e-BIKEを販売し、ビジネスとして成功させるために、難波氏は最初に「e-BIKEとは何か」を知ることが必要であると話した。誰が、どのような目的でe-BIKEを楽しんでいるのか。それを理解しやすくするために「"歩く"アクティビティ」を例にとりだし説明を始めた。
「"歩く"アクティビティ」も様々で、いくつにも分類することができる。誰もが手軽に楽しめてハードルが低いのが、低山ハイキングや遊歩道トレッキングだ。ターゲットとなる人口は大きく、お金がかからず、楽しむための予算も少なくて済む。対して、高山縦走となると、話は変わる。3000m級の山を走ろうと、東京から九州へなどと遠方を訪れる機会は頻繁に生じる。その分かかる予算は大きくなる。一方で高山縦走を楽しむ人口は低山ハイキングに比べて断然、少ない。
そして、これらの中間に位置するのが、ロープウェイハイキングだ。ロープウェイに乗ってハイキングをするために東京から地方に行くのは普通のこととなる。それなりに予算もかかるが、楽しむ人も多い。
こうした3階層の分類は、自転車にもあてはまるというのが、難波氏の伝えたいことだ。ロードレースやMTB、トライアスロンは、高山縦走と同様に、予算がかかり、楽しむ人は限られる。対して、クロスバイクは、低山ハイキングに該当し、かかる予算はロードレース等に比べて少なくて済み、楽しむ人口は多い。
その中間に位置するのが、e-BIKEとなる。楽しむために予算はかかるが、スポーツをやっている人もやっていない人も誰もが楽しめるので、ターゲット人口も大きい。ターゲット人口が大きいほど、ビジネスとしては魅力的であり、e-BIKEは面白い存在になるというわけだ。
加えて、e-BIKEはグループアクティビティとしてとらえるべきだという。e-BIKEであれば、上り坂でも息が上がってしまうことはなく、普段からスポーツをしている人も、そうでない人でも、一緒になって会話を楽しめる乗り物になる。仲間との会話を楽しみ、美しい景色を見て…といった優雅な時間を過ごすせるのがe-BIKEの醍醐味。「大人の時間を楽しめる乗り物。1台売れば5台売れる。友達を誘って乗ってもらえるのがe-BIKE」と難波氏は話す。1台の販売単価も高く、1人に売れば複数人を顧客として見込めるe-BIKEは、販売店にとって高いポテンシャルを持つ存在といえるだろう。
ただし、目先には懸念もある。それは在庫をどう確保するかだ。スポーツ用自転車は、全般的に供給不足に悩まされている。新型コロナウイルスの影響を受けて供給サイドが従来のようにうまく機能していないからだ。
しかし、e-BIKEについては、他と比べて受ける影響は少ないと想定されるという。メーカーの立場になって考えると、販売価格が高いものを優先して生産せざるを得なくなる。特に海外ではe-MTBが販売の中心であり、今後も大手メーカーになればなるほど、e-MTBに注力することが想定され、なかでも販売単価の高いフルサスペンションモデルに特化してくると思われると話す。
もうひとつの懸念として、景気が良くない今、売る相手がいるかだ。この点についても、今現在、景気が良いとは言えないが、それでも首都圏の住宅価格がバブルを越えたり、4桁を越える高級車が今年売れていたりもする。健康寿命への関心も高まっており、リタイア健康層、独身文化人、夫婦で高収入なパワーカップルといった、金銭的な余裕を持ち、e-BIKEに興味を示しそうなターゲットを探せば、相当のボリュームがあるとみるべきだと話す。
このようにe-BIKEの販売環境は悪くはない。あとはいかにe-BIKEを販売していくかだ。販売の肝について難波氏は、e-BIKEに乗った際の楽しさを情報発信していくことだと強調する。「楽しそうにしていれば人が集まってくる。アンテナ感度の高い人なら近寄ってくるはずだ」とし、店員自らe-BIKEの楽しみを体感すべきだと話す。
とにかくe-BIKEに乗るというのが手段ではあるが、どこで乗ればいいか、というのも非常に重要だ。難波氏がオススメとして「昔から名のある場所は、e-BIKEに乗ってみて楽しいことがわかってきました」と、自身の経験から教えてくれた。裏磐梯、赤城山、軽井沢など、昔から全国に知れ渡っている場所は、アップダウンが激しい場所だったり、山岳地帯であったり、e-BIKEを楽しむ場所として向いているという。こうした場所を探しつつ、「店員自らe-BIKEの良さ、楽しさを体感し、自分が本当に素晴らしいと思うことを顧客伝えていくことが販売結果に結び付く」として、セミナーを締めくくった。
最後に主だった質疑応答の内容をピックアップする。まず最初に、e-BIKEの耐久性やメンテナンスについて。耐久性について難波氏は「個体差もあるが、自分が乗っていてシマノのドライブユニットは壊れたことはない。バッテリーの劣化もほぼない」とした。メンテナンスという面では「スポーツバイクでは、ユーザー自身がメンテナンスできてしまうが、e-BIKEの場合、そうはいかない。少なくともドライブユニットとバッテリーのメンテナンスは店舗に依頼することになる。顧客と長く付き合っていくのがe-BIKEであり、モーターサイクルとの関係性と似ている」と、顧客との長い関係性を築けるのがe-BIKEだと話す。
次にe-BIKEの販売価格が高く、商談がまとまらないという悩みについて。「顧客の要望を聞いたうえで、販売価格20-30万円程度のe-BIKEが欲しい」という意見に対して、難波氏はそれを認めたうえで「日本で入手できるe-BIKEは実は安い。欧州では50万円するものが日本では40万円で購入できる。日本の方が安いといった言い方はできると思う」とアドバイスをした。
最後に走行する場所について。「オフロードバイクが走行禁止のハイキングコースもあるが、MTBはどこを走ったらいいか」という質問に対して、「公道であっても斜度が20%以上あるような場所がある。山中に入らなくとも、同様の経験ができる。e-BIKEならば上りは苦労せずに上れてしまう。下りで楽しさを取り返そうとしない分、下りでスピードを出そうという気にもならない、下りも笑顔で下っていくようになるのがe-BIKEのいいところ」と話した。
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