埼玉県にある東秩父・奥武蔵エリアは、首都圏のサイクリストにとって「ヒルクライムの聖地」として知られています。その最大の理由は、コンパクトな範囲の中にバリエーション豊かな峠が密集していることにあります。初心者でも挑戦しやすい緩やかな坂から、アスリートがシーズン中の脚を作るために追い込む本格的な難所まで、このエリアには「本物」のコースが揃っています。ここで大切なのは、一つひとつの峠を独立したスポットとして見るのではなく、エリア全体を面で捉え、自分の走力に合わせて「繋いで走る」視点を持つことです。ルートの組み合わせ次第で、練習にも、ゆるポタにも、過酷なロングライドにも姿を変える。そんな東秩父の走り方を整理してご紹介します。

自走かトランポか、2つのアプローチ
東秩父エリアへの入り方は、その日の目的や体力に合わせて2つのスタイルから選ぶのが一般的です。
■荒川から自走で向かう「持久力重視」スタイル
東京東部や埼玉県南部からアクセスする場合、荒川サイクリングロードを北上するのが王道です。平坦な道で脚を回しながら、徐々に住宅街から緑深い景色へと移り変わっていく過程は、ロングライドの醍醐味。物見山を経て東秩父の峠へ向かうこのルートは、往復トータルの走行距離が150kmを超えることも多く、持久力を高めたいサイクリストに選ばれています。

■物見山をベースに車で向かう「トランポ」スタイル
「坂道の区間に体力と時間を集中させたい」というビギナーの方におすすめなのが、車に自転車を積んで向かうトランポ(トランスポート)です。エリアの入り口にあたる物見山公園周辺には駐車場があり、ここをスタート地点にすれば、重い荷物を車に置いたまま、最も美味しいヒルクライム区間を身軽に楽しめます。帰りに地元の特産品をたくさん買っても安心という、車ならではの利点もあります。

まずはここから「物見山周回コース」
本格的な山岳地帯へ足を踏み入れる前に、まずは東松山市にある「物見山」でウォーミングアップを行いましょう。ここは「峠」というよりは「小高い丘」が連続する周回コースとして親しまれています。

信号が少なく路面も綺麗なため、一定のペースで登り、下りで呼吸を整えるというヒルクライムの基本動作を確認するのに最適です。ここを2〜3周して余裕を感じられるようなら、いよいよ東秩父の本格的な峠への準備は万端です。
コース詳細:東秩父へ続く東松山の“超定番”ルート「物見山周回コース」
景色と達成感の「二本木峠」
東秩父村の東側に位置する二本木峠は、眺望の良さと「登った感」のバランスが非常に良いルートです。

適度な勾配が続く道中には、春の山つつじをはじめとした豊かな自然が広がっています。このコースの最大のハイライトは、登り切った先にある「秩父高原牧場(彩の国ふれあい牧場)」です。視界がパッと開け、眼下に広がる秩父の街並みを眺めながら食べる濃厚なソフトクリームは、ヒルクライムの達成感を何倍にも高めてくれるはず。坂を登る「ご褒美」を実感したい日にぴったりのステップです。
コース詳細:山つつじを楽しみながらヒルクライム「二本木峠」
レベル問わず親しまれる定番「定峰峠」
東秩父エリアでも特に多くのサイクリストが集まるのが、この定峰峠です。

人気の秘密は、急勾配が少なく、九十九折(つづらおり)のカーブをリズム良くクリアしていける走りやすさにあります。頂上には昔ながらの「峠の茶屋」があり、うどんやそばを囲んでサイクリスト同士が交流する光景も見られます。エリアの雰囲気を感じるなら、まずはここを目指しましょう。
コース詳細:有名車漫画にも登場!秩父エリアの定番「定峰峠」
一度は挑戦したい難所「白石峠」
もし「今の自分の走力を試したい」と思うなら、白石峠への挑戦は避けて通れません。

平均勾配が8%を超え、10%以上の激坂が次々と現れるこの峠は、多くのサイクリストがタイムを競い合う指標の場所です。厳しいコースではありますが、国内トップクラスのプロ選手も練習で使用する「本物」の環境。一気に登り切る必要はありません。途中で休憩を挟みながらでも、自分の力で頂上の看板まで辿り着いたときの自信は、その後のサイクルライフにおいて大きな財産になるはずです。
コース詳細:一度はトライしたい埼玉のヒルクライムスポット「白石峠」
ルート作りを加速させる「奥武蔵グリーンライン」
白石峠や定峰峠、二本木峠といった各スポットを攻略したら、それらを一本の線で繋いでみましょう。尾根沿いに延びる林道の総称である「奥武蔵グリーンライン」は、これら全ての峠を結ぶ天空のメインストリートです。

この道を知ることで、東秩父での遊び方は劇的に進化します。例えば、「白石峠を登った後、グリーンラインを伝って定峰峠へ移動し、茶屋で休憩してから下る」という周回ルート。あるいは、「複数の峠を組み合わせて獲得標高を稼ぐ」といったストイックなプランも。各峠が「点」から「線」で繋がることで、その日の体調や残された時間に合わせて、ルートを自由自在にカスタマイズできるようになるのです。
コース詳細:数多くの峠を通過!達成感抜群の「奥武蔵グリーンライン」
自分なりのコースを設計しよう
東秩父・奥武蔵エリアは、一度訪れただけではその全貌を知ることはできません。物見山から少しずつ足を伸ばし、いつかはお気に入りの峠を繋いでグリーンラインを走破する。そんな自分自身のステップアップが、そのままルートの広がりに直結するのがこのエリアの面白いところです。
「今日はどの峠を繋いで、どんな景色を見ようか」。そんな風に、自分だけのオリジナルコースを設計する楽しさを、ぜひこの聖地で体験してみてください。

10代からスイスのサイクルロードレースチームに所属し、アジアや欧州のレースを転戦。帰国後はJプロツアーへ参戦。引退後は産経デジタルが運営した自転車専門媒体『Cyclist』の記者、編集者として自転車やアイテムのインプレッション記事を担当した。現在は自治体の自転車施策プロデュース業務等を担当。
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