じわり雨粒が命取りに 600km走るより過酷だった「充電コネクタ」との攻防戦しくじりサイクリスト<12>

2026/03/04    

 自転車乗りなら「あるある」と苦笑してしまうエピソードからプロの失敗談まで、人の振り見て我が振り直す連載『しくじりサイクリスト』。今回は“坂バカ俳優”、猪野学さんの失敗談です。自転車のトラブルといえばパンクや機械の故障等を思い浮かべますが、いまの時代、致命的ともいえるトラブルの一つが、地図アプリを搭載したスマートフォンの電池切れではないでしょうか。充電器をもっていたのに充電できないという悲劇に見舞われた猪野さん。その原因はたった一粒の水滴という、あまりに繊細なしくじりでした。

猪野学さん

 坂バカ俳優を14年も続けていれば当然しくじりの1つや2つはあるものだ。そもそもNHK『チャリダー★』の番組の企画で「ヒルクライムで表彰台に乗る」という目標を未だに達成していない私は現在進行形でしくじり続けているのである。

 今回は具体的にサイクリストの皆様の“ためになるしくじりエピソード”という事で、実際にあったら困るしくじりエピソードをご紹介させていただこうと思う。

「防水」の盲点

 あれは忘れもしない番組の「ブルベ」(※)企画でのことであった。「四国1000km」という超長距離ブルベに出場するために「SR」の称号を取得しなければならなかった。「SR」とは「Super Randonneur」の略で、フランス語で「すごい旅人」を意味する。ブルベでは200km、300km、400 km、600 kmのすべての距離を完走したサイクリストに与えられる称号だ。

(※200km~1,000km以上の距離を制限時間内に走る、速さや順位を競わない自転車の長距離認定イベント。超長距離に挑戦するには過去の走行実績が必要となる)

 順調に完走を重ね、大一番の600kmの時に事件は起こった。東京の多摩川を出発し、栃木県の鬼怒川温泉を折り返して帰って来るコース。順調に300 kmほど走り、群馬県に入って日没を迎えた頃であった。

 ポツポツと雨が降って来たのだ。とはいえ雨は想定内である。コンビニで雨対策をする。 ブルベの場合、雨対策で一番大事なのはスマホを死守することだ。何故なら地図アプリのナビゲーションを頼りに走るからである。大容量のモバイルバッテリーで充電しながらナビゲーションの地図を頼りに走るわけだ。

 読者の皆様は「スマホやサイコンはそもそも防水ではないか?」とお思いだろう。もちろん防水である。 しかし…しかしだ! 充電ケーブルを刺すソケット部分は水分に弱かったのだ…。そんな事を知らない私はコンビニで買い物をする時にほんの一瞬雨のなかスマホを充電ケーブルから外してしまったのだ。再び充電ケーブルを差し込むが「充電中」の点灯が反応しない。「マズイ…」。しかしまだ充電に余裕があるので宿泊先のホテルまで先を急ぐことにした。

些細なトラブルが命取りになるブルべ

 やがて雨は土砂降りとなり、ホテルに到着した時はずぶ濡れであった。チェックインして部屋の暖房を全開にして雨具を乾かす。そしてスマホの充電スケットの部分もドライヤーで乾かしたが…スマホの画面に表示されるのは「液体が検出されたため充電出来ません」という文字。

充電ソケットに液体が検出されるとこの様な表示が出てフリーズする

 これはいよいよマズイことになった…。残り300km、ナビゲーションがないと何処を走って良いか分からずリタイアとなってしまう。とりあえず仮眠を取り再スタートするも、一向に充電されないスマホどんどん減って行く電池残量。

 何とか日光東照宮に設定されているチェックポイントまで到達した。ここで私は試しに新しい充電ケーブルを買ってみることにした。まだ雨は降っているので屋根があるバス停で 濡れない様に慎重に新しい充電ケーブルを挿す…。すると、なんとスマホが息を吹き返し、「充電中」と点灯されたのである!

 「ぬぉぉぉぉぉぉっ!!」─。初老の歓喜の雄叫びが東照宮に鳴り響いた。スマホの充電が出来てこんなに喜ぶことがあるだろうか? 普段できて当たり前と思っている些細なことがトラブルの素になり、それが解決されるだけでとても嬉しい…そう、その喜怒哀楽こそが過酷さを極めるブルベなのだ。

  今回はブルベ中の出来事だったが、普段の生活の中でもスマホが充電出来なくなると意外と困るものだ。いったんソケット部分に液体が検出されてしまうとiPhoneが再び心を開くまでにかなりの時間を要してしまう。読者の皆様も気を付けていただきたい。

“しくじり”どころではなかった可能性にヒヤリ

 無事にブルベ600 kmを完走し、見事SRの称号を取得し帰宅してテレビを観ていると 「日光東照宮付近に熊出没!」というニュースが飛び込んで来た。私が歓喜の雄叫びをしたまさにその時…近くに熊がいたのだ…。温暖化のおり、熊と人間、とくにサイクリストの接点はかなり近い距離になっているのだと感じた。

激しい雷雨のなか完走したブルベ600,。熊と雷としくじりと隣り合わせのライドであった

 熊との遭遇、なんてしくじり…いや事故だけは何としても避けたいものである。

文・写真:猪野学(いの・まなぶ)

俳優として舞台や映画、テレビドラマに出演する他、アニメ・映画の吹き替えなどの声優としても活躍。ヒルクライム好きの俳優を意味する「坂バカ俳優」という愛称で、NHKBS1『チャリダー★快汗サイクルクリニック』(4月から隔週金曜21時30分に放送日時変更)のレギュラーメンバーとして人気を博す。

この人の記事一覧へ
  • HOME
  • HOW TO
  • じわり雨粒が命取りに 600km走るより過酷だった「充電コネクタ」との攻防戦 しくじりサイクリスト<12>
  • HOME
  • ロードバイク
  • じわり雨粒が命取りに 600km走るより過酷だった「充電コネクタ」との攻防戦 しくじりサイクリスト<12>
  • HOME
  • 初心者
  • じわり雨粒が命取りに 600km走るより過酷だった「充電コネクタ」との攻防戦 しくじりサイクリスト<12>
  • HOME
  • しくじりサイクリスト
  • じわり雨粒が命取りに 600km走るより過酷だった「充電コネクタ」との攻防戦 しくじりサイクリスト<12>

編集部おすすめ記事

新着記事

新着記事一覧

ランキング

  • 週間
  • 月間
ランキング一覧

ロードバイクの人気記事

マウンテンバイクの人気記事

おすすめのタグ