舗装された街中で、あえてオフロード仕様のマウンテンバイク(MTB)に乗る。一見するとオーバースペックに思えるかもしれませんが、実はこれ、段差が多かったり側道の状態が良くない日本の道路事情において「最も理にかなった乗りもの」として注目されています。ロードバイクやクロスバイクにはない、MTBならではの街乗りのメリットを解説します。

MTBとは? 街乗り用としてのメリット
MTBとは、その名の通り荒れた山道などオフロード(未舗装路)を走るために設計されたスポーツ用自転車です。見た目の最大の特徴は、①極太のタイヤ(表面がボコボコしており、圧倒的なグリップ力とクッション性を持つ)②サスペンション(主に前輪に備わった衝撃吸収装置。地面からの衝撃を打ち消す)③強力なブレーキ(悪路でも確実に止まるためのディスクブレーキが主流)─の3点です。

「街中でそんな重装備が必要?」と思うかもしれません。しかし、実は日本の都市部は、MTBのポテンシャルを存分に発揮できる「隠れたオフロード」の宝庫なのです。
ガタガタになった側道、歩道への乗り上げ、アスファルトの亀裂、排水溝の金属格子など、これらは細いタイヤにとってパンクや転倒の要因となりますが、MTBの太いタイヤとサスペンションにとっては、ただの「ちょっとした凹凸」に過ぎません。

そしてMTBに搭載されているディスクブレーキは、雨の日でも制動力が落ちません。また、低速でのバランスが取りやすいため、信号待ちの多い街中や、歩行者の多い場所での徐行が非常に楽です。またMTBは上半身が起きた姿勢で乗ることができ、視界を遠く広く保てるため周囲の状況にも気づきやすく、安全性に直結します。
ハンドル幅は60cm以下にカット
MTBといえば特徴の一つに幅広なハンドルがあります。最近のMTBは操作性を安定させるためにハンドル幅が70〜80cmあるものが主流ですが、日本の法律ではハンドル幅が60cmを超えると「普通自転車」の枠から外れます。つまり、購入時のMTBの多くは、法律上「普通自転車」の扱いではなくなり、たとえ「自転車通行可」の標識があっても歩道を走ることはルール上できません。車道走行であれば法律上問題はありませんが、クルマと接触する危険性も。街乗りに使用する場合は、購入時にショップでハンドルの左右を数センチずつ切り落として調整してもらうことをおすすめします。


街乗りMTB選びのポイント
最初の一台を選ぶ場合、以下の3点を基準にすると良いでしょう。
① 「ハードテイル」または「フルリジット」を選ぶ
前輪にだけサスペンションがあるモデルを「ハードテイル」といいます。後輪にもある「フルサス」はよりクッション性が高いですが、街中では漕ぐパワーをロスするデメリットの方が大きいです。
サスペンションを搭載していない「フルリジット」はペダルを踏む力がよりダイレクトに伝わるため、より舗装路を走りやすいという特徴があります。街乗り以外の用途(トレイル走行の可能性等)も勘案し、自分にあったタイプを選ぶと良いでしょう。
② ブレーキは「油圧式ディスク」を
「機械式」よりも軽い力で止まれる「油圧式」がおすすめです。長距離のライドでも手が疲れず、安全性が格段に違います。
③ タイヤのカスタマイズを検討する
もし「やっぱり漕ぎが重いな」と感じたら、表面がツルッとした「スリックタイヤ」に交換してみましょう。MTBのクッション性はそのままにスイスイ進むようになります。
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ロードバイクが速さを競う「スポーツカー」なら、MTBはどこへでも行ける「SUV」です。確かにスピードでは劣りますが、街中を走るならばスポーツカーのような性能はそれほど重要ではありません。それよりも路面の状況を気にせず、段差もヒョイと乗り越えられる。そんなMTBの無敵感、自由さ、安全性は、実は街乗りにこそ向いているのかもしれません。

10代からスイスのサイクルロードレースチームに所属し、アジアや欧州のレースを転戦。帰国後はJプロツアーへ参戦。引退後は産経デジタルが運営した自転車専門媒体『Cyclist』の記者、編集者として自転車やアイテムのインプレッション記事を担当した。現在は自治体の自転車施策プロデュース業務等を担当。
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