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Q, なぜ自転車の違反はいきなり「赤切符」が切られるの?

News / Column弁護士に聞く、自転車のルールの素朴な疑問

弁護士に聞く自転車のルールの素朴な疑問<26>
Q, なぜ自転車の違反はいきなり「赤切符」が切られるの?

刑事処罰の対象となる道路交通法違反の行為を行った被疑者に対して交付される「告知票・免許証保管証」、通称「赤切符」

Q なぜ自転車の違反はいきなり「赤切符」が切られるの?

記事の内容

そもそも自転車には「青切符」がない

A:自転車で公道を走る際には、様々なルールを守らなければなりません。道路交通法では、信号遵守(道交法7条)、歩道での徐行義務(同法63条の4)、一時停止(同法43条)、酒気帯び運転の禁止(同法65条1項)、左側又は左側端通行(同法18条1項)、二人乗りの禁止(同法57条2項、都道府県道路交通規則)などなど、多くのルールが罰則付きで定められており、違反をすると罰金刑や懲役刑と言った刑事罰が科せられます。

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 自転車の違反の場合、刑事事件となりますので、現場の警察官から赤色をした紙「赤切符」が交付されます。自動車や二輪車などの場合、違反をすると、比較的軽微な違反は反則金を納めて済ませることができる交通反則通告制度(いわゆる反則金制度)があるため、青色なので「青切符」と呼ばれる反則金通告書が交付されますが、自転車の場合、反則金制度がないため、「青切符」が交付されることはありません。

クルマに「青切符」が導入された理由

 この反則金制度は、1960年代、モータリゼーション(自動車産業の発展に伴い、クルマを利用することが社会的に一般化した状態)の進展とともに、多く発生する道路交通法違反事案に対応するために生まれた制度です。違反事案すべてを「刑事処罰」の対象として立件する(「赤切符」を切る)と、著しく刑事事件の件数が多くなり刑事司法手続の事務量が膨大となって対応が困難となる等の問題が生じていました。そこで、道路交通事犯は、軽微なものから重大なものまで多種多様であることから、そのうち軽微な事案については反則金を納付すれば刑事事件としない取扱いを認めることとして、これらの問題の解決を図り、1968年に導入されました。

 反則金制度では刑事手続を経て刑罰を科すのではなく、反則金の納付という簡易な手続とすることで、国民は刑事手続から解放される一方、国としても反則金収入により財政への寄与が期待でき、双方にとってメリットがある制度となったのです。なお、この反則金は、制裁的な要素はありますが、行政から強制的に徴収されるものではないので、単純な意味での行政罰とも異なります。

 ただ、反則金制度の対象となる交通違反は、軽微なものに限られており、より重大な違反は「赤切符」の対象となり刑事手続に進みます。そのため、軽微な違反の際に交付される「青切符」は反則金制度のため、警察官が交付する告知書(道交法126条1項)の機能を果たしているのに対して、重大な違反の際に交付される「赤切符」は、刑事手続や運転免許証に対する行政処分の事務のために用いるので「告知票・免許証保管証」(※)と表記されます(「青切符」も「赤切符」もいずれも刑事手続や行政処分そのものではなく、事務手続のための書面です)。

※検挙の際に警察が運転免許証を預かることもあるため、赤切符には「免許証保管証」としての機能もあります。

「反則金=免許制度必須」ではない

 この反則金制度ですが、原則として軽車両の運転者はその対象から除外されています。自転車は軽車両ですから、対象外です。その理由としては、クルマに比べて自転車は違反が少なくその必要性が薄いこと、また自転車による交通違反が多種多様で定型処理になじまないことなどが挙げられています。

 しかし、これらの理由からすると、自転車違反の件数が多く、違反が類型化され定型処理になじむ場合には、自転車の交通違反にも反則金制度を導入することが可能とも考えられます。すでに自転車への反則金制度の導入をめぐる議論が始まる一方で、その導入の前提として自転車にも免許制度を導入しなければならないという誤解もあるようですが、反則金制度と免許制度は必ずしも両者必然の関係にあるわけではありません。

 実際に、「自転車講習制度」(道交法108条の3の5)の導入とともに、自転車による危険運転には「自転車違反警告カード」が交付され、2回警告を受けると講習受講義務が生じるようになっており、反則金の納付が求められていないものの、それ以外は、よく似た制度がすでに自転車にも導入されているといえます。

 また、免許制度がない自転車の運転者は道路交通法のルールを教育される機会が少ないことから、反則金制度を導入すべきではないという声も聞かれますが、法令が定めるルールを遵守すべきことは当然で、ルールの周知徹底を図る必要はあるものの、免許制でないことをもって自転車に対する反則金制度の導入が不適切とはいうことはできないでしょう。

本田聡(ほんだ・さとし)

2009年弁護士登録。会社関係法務、独占禁止法関係対応、税務対応を中心に取り扱う傍ら、2台のロードバイクを使い分けながら都内往復20kmの自転車通勤を日課とする。久留米大学附設高校卒・東京大学法学部卒・早稲田大学法務研究科卒。

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