2023.5.25
東京近郊在住の坂好きサイクリストにとって、自然発生的に「ヒルクライムの聖地」と呼ばれるようになった神奈川県秦野市のヤビツ峠(標高761m)。都心から最もアクセスしやすい本格的な峠で、速い人では1時間未満、中級者でも1時間半ほどで上れることから、タイムアタックに臨む熱心なヒルクライマーが多く訪れます。─というのはヤビツ峠の“表”ルートの話。もう一方の“裏ヤビツ”と呼ばれる宮ケ瀬湖方面から上るルートは表より距離は長いですが、その分斜度が緩く、四季折々の自然を楽しみながら上れる森林コースになっています。「挑戦の場」となっている表に対し、穏やかでヒルクライムデビューにも最適な裏ヤビツのルートを紹介します。
オススメポイント | 斜度が緩めの森林コースをのんびりと上る通称“裏ヤビツ”。獲得標高は1300mほどになりますが、途中で補給スポットに立ち寄ったり山の景観を楽しんだりできる、達成感と楽しさのバランスがとれたヒルクライムコースです。頂上から秦野方面に少し下ったところにある菜の花展望台からは、天気が良ければ富士山の絶景を間近に眺めることができます。 |
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レベル | ★★(中級者向け) |
距離 | 54.8km |
獲得標高 | 1,345m |
出発地 | 橋本駅(JR、京王線) |
終着地 | 小田急秦野駅 |
立ち寄りスポット | オギノパン、護摩屋敷の水、ヤビツ峠レストハウス 丹沢MON、菜の花台、丹沢工房 |
秦野市側から上る表ルートに対して、相模原市を経由してアプローチする裏ルート。東京都心方面から直接自走してくる健脚サイクリストもいたりとアクセス方法は様々ですが、今回はとある“目的地”に立ち寄るため、最寄りでかつ各方面からの輪行(※)に便利な橋本駅をスタート地点としました。
※自転車を専用の袋等に収納し公共交通機関に載せて移動すること
その目的地とは「オギノパン」の工場直売所。焼き立てパンの販売や学校給食のパンの製造販売などを行っている、地元の人々からも愛されているご当地パン屋です。
お目当ては一番人気の「あげぱん」。神奈川県内のご当地B級グルメNo1を決める「神奈川フードバトル」で過去に2年連続で金賞に輝いた揚げパンで、店頭にフライヤーを設置している工場直売店ではその場で揚げたての状態を味わうことができます。
砂糖をたっぷりとまぶしたきつね色の揚げパンは、外はカリカリで中はふわふわ。軽い触感で、揚げパン好きなら2個は行けるかも? 普段はカロリーや糖質が気になって躊躇してしまいそうな揚げパンですが、ライド中、しかもヒルクライム中ですから、気兼ねすることなく補給食として思い切り頬張りましょう。
エネルギーをチャージしたら次は宮ケ瀬湖に向かって走ります。この辺りはトンネルが断続的に続くので、安全確保のため、トンネルの長短に関係なく予め前後のライトを点灯して走るようにしましょう。
宮ケ瀬湖は遊覧船やカヌーなども楽しめる人気の観光エリアで、湖畔には「水の郷商店街」という飲食店が立ち並ぶエリアがあります。定食や蕎麦などといったしっかりランチから、ご当地精肉店の直営店が販売する串焼きやもつ煮などの軽食まで豊富なラインナップを楽しめます。「座ってゆっくりランチを楽しみたい」「軽くもう少し食べたい」という様々なニーズに応えてくれます。
宮ケ瀬湖をあとにして、いよいよ山へと足を踏み入れます。赤い色が印象的な釜田川橋を渡ると徐々に上りが始まるのを感じます。
漕ぎ進めると、どんどん景色が山深くなっていきます。秋も良いですが、なんといっても新緑が芽吹く春は裏ヤビツが最も美しい季節でしょう。前半は平均斜度2%程度のこまかなアップダウンを繰り返す道が続くので、ヒルクライムというよりはサイクリングのような感覚で景色を楽しむことができます。
実はここ数年、相次ぐ異常気象によってヤビツ界隈もたびたび被害を受けており、峠へと続く県道が通行止めとなっていましたが、補修工事を終え、ようやく2023年3月末に解除となりました。ただ、通れるようになったものの、至るところに当時の痕跡や工事中の場所が残っており、「またいつ通行止めになるかわからない…」といった思いが頭をよぎります。
もともと道幅が狭い上に工事が行われている箇所ではさらに狭くなっている場所も。表コースほどではありませんがクルマの交通量もそれなりにあるので、見通しが効かないカーブが続く場所ではスピードを落とし、注意して走行するようにしましょう。
標高が上がるにつれ、少しずつ斜度が増していきます。といっても5%ほどですが、ここまでゆるゆるとでも上って来た脚に刺激が入り始めます。尾根筋に出る直前には短い区間ながら10%前後ほどの斜度が出現。傾斜の強調するかのように「グルービング」という滑り止めの溝が路面に刻まれており、坂に不慣れ方は“圧”を感じてしまうかもしれませんが、ここが裏ヤビツ唯一のふんばりどころですので頑張って乗り切りましょう。
その坂の途中に、まるで頑張ったご褒美のような湧き水スポット「護摩屋敷の水」が現れます。
かつて修行に訪れた僧たちがここの水で身を清めたと伝えられることから、この名前がついたそうです。いまは全国名水100選に認定され、丹沢名水として遠方からも水を求めて多くの人が訪れるそうです。そもそもの美味しさに加えて、ここまで上って来て飲む水は本当に格別です。
ここで給水したら、頂上まであと1.6km。ゴールは間近です。
護摩屋敷の水の付近には、三ノ塔・塔ノ岳へ至る表尾根の登山口があります。ヤビツ峠はサイクリストだけでなく登山客も多く訪れる場所です。ヤビツ峠にあるバス停を目指す登山客の姿も増えるので、クルマだけでなく歩行者にも注意して走りましょう。
「護摩屋敷の水」から1.6km、ヤビツ峠頂上に到着です。ゴール後は「ヤビツ峠」と大きく書かれた看板の前で記念撮影を撮影するのがお約束。ビギナーの方は、その画像をSNSに投稿すれば自他ともに「脱ビギナー」として認められる…かもしれません。
下山は表側の秦野市方面へと下ります。その前に2021年の3月、頂上付近にオープンした「ヤビツ峠レストハウス 丹沢MON」に立ち寄ってみました。
木の香りが漂う明るい店内にはカフェスペースと、そして暖炉。春先や秋口のヤビツ峠は想像以上に気温が低く、すぐ下山しないと汗冷えする危険もあるので、暖かく休憩できる環境はとてもありがたいものです。ソフトクリームやケーキなどのスイーツの他、カレーライスや具だくさん豚汁など秦野産の食材を使ったここでしか味わえないメニューが並びます。
ダウンヒル(下山)といってもただ下るだけでなく、ヒルクライムの辛さとはまた違う集中力やバイクコントール力が必要です。ビギナーの方を連れてきたときなど、上りで疲労困憊になっているようなときは、下山前にここで一息入れるのも良いかもしれません。
一休みしたら、ウインドブレーカーを着るなど下山用に身支度を整えて出発です。表ヤビツは裏と比べて距離はさほど長くありませんが、その分斜度が強めです。ついスピードが出てしまいますが、上ってくるクルマも少なくないので、しっかりとブレーキコントロールしながらスピードを調整しましょう。
途中、3kmほど下ったところに「菜の花台」という絶景スポットがあります。秦野市を眼下に一望できるのはもちろん、右を向くと、そこにはなんと富士山が! 裾野の広がりまで見える雄大な姿は、隣の県という至近距離ならではの絶景です。
そこからさらに4kmほど下っていくと、「蓑毛」(みのげ)のバス停が見えてきます。山のコースはそこで終わり。そこから先は住宅エリアを下っていきます。
この住宅エリアは斜度が強く、かつまっすぐの坂が続くため、下山時にスピードが出やすくなります。中には危険なスピードで駆け下りるサイクリストも少なくなく、そんな状況に地元住民からもたびたび自転車の危険性を指摘する声が寄せられています。
そんなダウンヒルの勢いを、蓑毛バス停付近でいったんリセットしてくれるのが「丹沢講房」。土日祝日のみ開店(7:30~16:30)するスイーツショップで、シフォンケーキやプリンなどの定番のお菓子の他、ヨーロッパの地方菓子をアレンジした焼き菓子など、店主手作りの洋菓子を取り揃えています。
カフェではありませんが、店の外にあるベンチで休憩がてら味わうことができます。ダウンヒルの休憩スポットとなる一方、表から上る場合は山に入る手前の貴重な補給スポットに。気持ちと体力に余裕を与えてくれる美味しいスイーツスポットは、峠には欠かせない存在です。
ゴールの小田急秦野駅に到着。ここから輪行して帰ります。下り終えた後、電車で帰路につきやすいのもヤビツ峠の嬉しいポイントです。
スタート地点の橋本駅から通算約55kmの道のりですが、その中に上りの楽しさ・達成感、グルメ、絶景といった要素が凝縮されています。タイムアタックだけじゃない、ヤビツ峠のもう一つの顔「裏ヤビツ」。自然の中でのんびりヒルクライムを楽しみたい人や、ヒルクライムを始めてみたいというビギナーの方におすすめです。
アウトドアメーカーの広報担当を経て、2015年に産経デジタルに入社。5年間にわたって自転車専門webメディア『Cyclist』編集部の記者として活動。主に自転車旅やスポーツ・アクティビティとして自転車の魅力を発信する取材・企画提案に従事。私生活でもロードバイクを趣味とし、社会における自転車活用の推進拡大をライフワークとしている。
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