2016.12.19
ボクらの世代が海外に行くのは、筏で大海原に出るようなものでした。18歳のときに、用意した活動費を現金で握りしめてヨーロッパに向かったときは、リスクを受け入れるというか、「頑張らないとまずいな」と覚悟が決まりましたね。普段の生活のなかで、どれだけ自分のために何かをしてくれる人がいて、どれだけお金がかかっているのかはわからないと思いますし、自分以外の人が払ってくれて当たり前だと思っている人もいるでしょう。でも、その活動費を用意するのにどれだけ大変だったかを理解して、“筏”に乗ると、生き延びないといけないなと思いますよ。
古い考えと言われるかもしれないけど、そういうところは今の若い選手に足りないのかもしれない。少なからず、今ヨーロッパで活動している人たちは、そういうことを受け入れてきたし、今も受け入れていると思う。ボク自身も長い選手生活で、良かったことなんて数えるくらいしかなく、ヨーロッパで生き残る選手たちは皆、ずっと歯を食いしばって長くて苦しい時間を過ごしています。今、輝いて見える選手たちも皆そうですよ。
海外では本当に頭をひねらないと勝てないんですよね。投資してくれているスポンサーさんのためにもいい報告がしたかったし、なんとかして雲の上のような存在の選手たちに勝ちたい。だから勝つためにはどうしたら良いかを常に考え続けていました。そう考えさせてもらえる環境の日本のチームにいたことには感謝しています。その頃は週に3レース、年間110レースくらいを走っていて、シーズン中は練習よりもレースだけ。大きなチームが空をびゅんと移動するところを、ボクらは車で何時間もかけて次のレースに移動していました。機材だけではなく、スタート地点に向かうだけでも格差がありました。
サクソバンクに入ってからは、また違う大変さはあるものの、生活は変わりました。まず、チームの活動スケジュールが英語で届いて、それに合わせて住まいを準備したり、最寄りの空港までの移動方法や時間を調べてチームに報告しなければならないのですが、それだけでも日本人選手によっては大変に感じるでしょうね。選手に必要な生きる力が試されますよ。どこでも生きられる力がないと、選手としては残れません。
海外で活動を続けられるようになって、必要なものを提供してくれる、自分に投資してくれるチーム、スポンサーに対して、感謝をしていましたし、なんとか恩返しがしたいと思い続けていました。
サクソバンクに所属してからは、目標としていたところでどれだけのことができるか、そして結果が必要だと考えていました。ボクは平坦が得意なタイプだったんですが、背が小さかったので、小さいなら上れないと戦術上、監督は使いづらいんですね。だから結果をなんとしても出さなければという気持ちでした。「ツール・ド・ピカルディ」(A.S.O主催)というレースで初日2位になり、スプリントジャージを獲得したときは、チームメイトもスタッフもみんなすごく喜んでくれたし、リスペクトしてくれました。「強いチームに入ったから、とりあえず自分のできることを頑張ろう」みたいなことではなく、結果が大事なんです。
5カ国語でコミュニケーションを取れるものの、英語はそれほど得意ではなかったんですが、それからはレース中の会話もそうだし、練習のときも会話に入りやすくなりました。会話に入るコツは、もし相手がなにを言っているか少しわからなくても、今自分がなにを考えているかを伝えること。それがイチバン大事です。逆に、会話に入らないと、「コイツなに考えてるのかわからないな」となるのは、ボクも同じですからね。
2016年はほとんど休みがなく、毎週末のように自転車イベントなどに出かけていました。今、自転車に乗る人は様々で、それまでまったく運動経験がなく始めた人が、乗ってみたら速くて、1年後にはトライアスロンのアイアンマンに挑戦していたり、会社経営をする傍ら、ロードレースを趣味にしていたり、またボクと同じくらいの歳か、少し上くらいの人がサイクリングを趣味として楽しんでいたりと、ボクの周りで考えても、年齢も目的も幅広いですよね。「速くなりたい」とか、「ラクに速く」とかは、なにを基準にするかによって違いますから、どんな目標に向かっているかを明確にして、具体的にその人にあったことをアドバイスしたいと思っています。
実際、よく相談を受けるのは、「仲間と一緒に走るときに自分のペースが遅くて、もっとついていけるようになりたい」という悩み。自分のペースで走るのが一番楽しいとは思いますが、誰かと一緒に楽しむためにもう少し頑張りたいという気持ちもよくわかります。とりあえず、走らないと上達はしませんので、週に1日しか走らないのであれば、2,3日に増やしてみましょうとか、そういうところからスタートですよね。ポジションをこうした方がいいとかペダリングがどうとかは最低限必要です。しかし、もっと自転車に触れる時間が増えるだけで、変わることがあるので、なるべく、まずはそういうことを伝えるようにしています。また、180km乗れるようになりたいという人には、まずはゆっくり長く乗ることを勧めます。淡々と、30km、50kmから始めていくことです。
自転車協会では(フレーム強度やブレーキの制動性能などについて)スポーツ用自転車安全基準を設け、これに適合したバイクには「SBAAマーク」が貼られています。この基準は、ボクから見ても、乗っていて「負担がかかっているな」と感じる箇所をケアできていると思います。だから、検査をクリアしているバイクは乗り手にとって安心につながると思います。
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