2021.4.13
これまで9回にわたってヒルクライムを楽しむ上での知識やテクニックなどを紹介してきた本連載も今回で最終回。最後はヒルクライムに挑戦する上で持っておくと便利なアイテム、意識すると楽になるヒントなどを紹介していきます。
「日常的にヒルクライムに繋がる運動を少しでも取り入れたい」と思う方も多いはずです。実はヒルクライムの体力作りは通勤やデスクワーク中の時間でできます。
まず初めに駅や会社ではエスカレーターではなく階段を選んで移動してみましょう。階段はももを上げた状態から踏み出すロードバイクの力の掛け方と筋肉の使い方が非常に似ています。ゆっくりと足裏全体で階段を上っていくと、裏ももや前ももなどの大きな筋肉が効果的に鍛えられます。下りでは少しリズミカルに膝をクッションにして降りていくと、膝まわりのバネを利かせた走りに繋がります。
坂道を歩くと足腰を鍛えることができます。踵から着地するように少し大きく足を開き、ももの左右の交差を意識して身体を前へ進めていくと裏ももや臀部、股関節周りの筋肉を強化できます。これはヒルクライムでトルクが掛かったときに活用できる動きです。
イスに座って作業するシーンでは、つい姿勢を崩して背もたれに寄りかかってしまいますが、身体をシャキンとまっすぐに起こしてあげると、体幹の保持に必要な腹筋群がしっかりと働くのがすぐに分かります。これは前傾姿勢が深いロードバイクのフォームには必須の姿勢です。ロードバイクに乗って腰が痛い…と悩む方にもおすすめの日常的にできるエクササイズとなります。
エネルギー消費が高いヒルクライムの補給の重要性と補給のタイミングについては既に紹介しました。さらに体のコンディションを整えるなら、アミノ酸を摂取したり、ハイポトニックドリンクを飲むといいでしょう。
コンビニや薬局などで手軽に手に入る”必須アミノ酸BCAA”。バリン・ロイシン・イソロイシンが含まれたアミノ酸は、運動時に起こる筋損傷の軽減、 乳酸の産生を抑制、疲労感を軽減したり集中力を高めたりする効果があると言われます。筆者の場合、運動前の15分~30分に3000mg程度のBCAAを摂取すると、走りの質が変わるのがとても分かります。
ヒルクライムをするときのハンガーノックに備え、補給はしっかりとったというライダーにも一つ落とし穴があります。糖分を摂取して急激に上がった血糖値がピークに達すると、急激に下がってしまうインスリンショック(血糖値スパイク)という現象です。急に冷や汗をかいたり、意識が少し朦朧とし力が抜けてしまうといった症状が現れることがあります。ヒルクライム中にお腹がすいて補給食を慌ててとるよりも、ドリンクボトルにハイポトニック飲料を入れておくといいでしょう。糖が穏やかに摂取されるので血糖値の安定に役立ちます。また浸透圧が低く、体内への吸収が速いため、熱中症予防に効果的です。コンビニでも簡単に手に入るため、ライド中に飲む飲料として活用してみましょう。
ヒルクライムに挑戦する際、「とにかく頑張って上りたい」という想いも大きな原動力になりますが、スタートから山頂までの間に小さな目標を立てておくとより効率的に走れます。
例えば「4km先の料金所で補給食をひとつとっておこう」「30分に一度休憩を入れよう」「中間地点にも目標タイムを設定しよう」「つづら折れはダンシングを入れよう」など、小さな目標を道中の刺激にすることで長い道のりもメリハリがつくことでしょう。こうした経験が増えることで、新たなヒルクライムに挑戦する際に活用できるスキルも増えてくることでしょう。
ライドの準備に必ずチェックしておきたいのがサイクルコンピューターやライトの充電です。いまやライドを安全に、快適にしてくれるアイテムのほとんどが充電が必要なアイテムです。各種電子機器の充電をしっかりとしておきましょう。
目的地までのペーシングに役立つのがサイクルコンピューターです。ほとんどの製品の電池消耗は早いです。前回のライドからロードバイクに付いたままになっていないでしょうか!?
自身の安全を守るライトは、点灯中に充電がいつの間にか切れていることが多いのでライド前に必ず充電したかをチェックしておきたいものです。暗いトンネルに侵入してライトが点火しなかったら…と想像するだけでぞっとしますよね…。
生活必需品である携帯電話の充電は習慣化しているものですが、地図アプリなどを起動したままにしていると、想像以上に電池の消耗が激しくなります。携帯用バッテリーを持参すれば、ライド中の不安をひとつ解消してくれるでしょう。
電動変速機の充電も万全にしておきましょう。変速機が動かないロードバイクでヒルクライムに挑むのは無謀な挑戦となってしまいます。
せっかくのサイクリングは体調万全で臨みたいもの。前日の食事や日頃のケアで改善できることも多いです。体調に異変を感じた場合はライドを中止することも念頭におきましょう。
しっかりとエネルギーを補充しようと前日に食べ過ぎてしまい、夜、眠れなくなってしまったり、朝、腹痛に見舞われてしまうことがあります。また前日の夜にライドの仲間と盛り上がってしまいついつい飲み過ぎてしまった…というのもよくある話です。飲酒の量も翌日に残らない程度にコントロールする必要があります。また緊張して身体が敏感になる体質の方は整腸剤などの医薬品でケアするのもおすすめです。
せっかくの週末ライドなのにハードワークで身体が重い…。ストレッチや睡眠をとっても身体の重さが抜けない場合は、コンビニや薬局で手軽に手に入る栄養ドリンクを飲んでおくのもいいでしょう。
特にこれらの飲料に含まれているタウリンは、イカやタコ、貝類、甲殻類及び魚類に多く含まれてる水溶性の含硫アミノ酸で筋肉の回復に大きな効果が期待できます。
ヒルクライムに向けて体重を減らそうと過度の食事制限や、日常の生活リズムが大きく変わってしまうような過度の運動は貧血や体調不良を逆に引き起こしてしまうこともしばしば…。減量やトレーニングの経験値を少しずつ増やしていく中で、ボリュームを調整していきましょう。
ヒルクライムをする場合、携帯電話の電波が圏外になってしまうような環境もあります。あらかじめ走るルートやその先の情報を把握しておくと、不安は少なくなります。また、事前に現地の天気予報を細かくチェックしておくことも重要です。
下ることも考えた装備でヒルクライムに臨みましょう。いざというときのために、事前に身内や仲間にヒルクライムに行く旨を伝えたり、なるべく仲間を誘ったりエマージェンシーカードや身分証明書を携帯しておくこともいざというときに役立ちます。
ライド中は常に危険予測をする意識をもちましょう。ヒルクライム時のスピードは平坦に比べれば安全なスピードですが、対向車線から山道を下って来る車やオートバイのスピードは自転車よりも速いです。常に下って来る車のことを意識して走行には気をつけましょう。
ロードバイクのフロントライトは日中に点灯していても対向車に自分の存在を認識させるのに有効です。狭い山道は木々のコントラストが強く、陰に入ってしまうとドライバーの視界からも隠れてしまう場合もあるのでライトを点灯をしておくといいでしょう。
暖かくなると出てくるのがアブやハチなどの刺されると厄介な虫達。特にアブは、種類によって温度が高いものに付いて回る習性があり、夏場のヒルクライムの天敵となりえます。そして、どちらの虫も黒い色に反応しやすいという特徴があります。夏場でも肌の露出を抑えるため薄手のアーム・レッグカバーを付けましょう。
また、これらの虫はハッカ油の香りを苦手としているので、携帯スプレーボトルに入れて持ち運び、自分に吹きかけておくと対策になるでしょう。刺されたときはまずは停止してどこを刺されたのか状況を把握しましょう。無理にヒルクライムを続行するのは危険です。患部を水で洗いながら指でつまみ、血と共に毒を絞り出しましょう。下山して虫さされ薬を塗り、患部を冷やしておくことも必要です。
ヒルクライムはハンドルの引きやすさやペダルの踏みやすさに敏感になるものです。ここではほんの少しのポジションの変化でヒルクライム用に向いたポジションに変わるポイントをいくつか紹介していきます。
ペダルを高回転で回すのが苦手なライダーにおすすめなのがクリートセッティングの変更です。足裏の力点がかかと側に寄ることで裏ももや臀部の筋肉を大きく動かせます。
これは日常生活での階段をイメージすると分かりやすく、1段飛ばしの階段を上るときに拇指球を力点に身体を持ち上げるより、足裏全体が着地した方が大きな力を出しやすくなるという身体の使い方に類似しています。上りではペダルの回転数が落ちるので、かかと寄りにクリートをセッティングすると踏みやすくなります。
ややキツい上りはハンドルを脇で引き寄せて踏み込みます。このときにブラケットが地面と水平にセットしてあると人差し指と親指で構えてしまうことになり、上りで重心が後退しているフォームにはややアンバランスなリーチを感じるはずです。
ほんの少しブラケットを上げると小指と薬指側にブラケットの支点を構えやすくなり、脇でハンドルを引きつけやすくなります。これは綱引きをイメージすると分かりやすいです。綱引きは綱を懐に寄せるときは小指と薬指を中心に縄を持ち脇で引きます。リズムよく引き寄せ続けることができるのもこのフォームの特徴です。
また、サドルの先端をほんの少し前上がりにセットするとハンドルを脇で引き寄せたときに、サドル前方に恥骨を引っ掛けて引き寄せることができます。時々サドルの先端に乗ると膝が少し伸びてリフレッシュできます。
よくハンドルにもたれるように頭を下げての上るライダーを見かけますが、前が見えないですし、膝で押し込むようなペダリングは持久力の高いフォームとは言えません。前項で取り上げたフォームで腹筋に力をいれると、より駆動力を増したフォームを意識することができるので紹介します
まずはブラケットに手を構え、胸を上げるのがポイントです。胸が上がることで適度に腹筋が伸びて意識しやすくなります。次にその状態をキープしながらほんの少しアゴを引いてみましょう。腹筋群に力を加えやすくなり、足の踏ん張りが利きやすくなります。腰痛対策にも効果があるので意識してみましょう。
スポーツ自転車の中でもロードバイクはホイールやタイヤが数多く販売され、カスタマイズの種類が豊富です。「ヒルクライムで速くなりたい! イベントに出てみたい!」となれば、この2つをカスタマイズすると、とても走りが変わります。
特にホイールは剛性が高く軽量なものに変えるとギアが1枚軽くなったかのように感じられます。また足回りが軽くなるとハンドルの操作も軽くなります。スペックや性能の高いホイールほど、価格は高くなりますが、自転車ショップの店員に相談すると、予算にあったホイールを手に入れられるでしょう。
管洋介(SUGA YOSUKE) AVENTURA CYCLING代表、有限会社デボ代表取締役社長。競技歴22年のベテランロード選手。国内外で50ステージレースを経験。近年は長い経験を生かしてメディア出演も多く、自転車専門誌のレギュラーキャストとして、モデル、インプレッション、ライディングレクチャー、好評の連載を持つ。自転車ライディング講師として イベント他、様々なコミュニティでのテクニ カルコーチ務める。2017年よりAVENTURA CYCLING を立ち上げ、 自転車界の明るい未来をリードしていく。
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