TOP HOW TO ヒヤリハット事例集トラブルを未然に防ぐためのヒヤリハット事例集<1>
ロングライドには多様なリスクが潜む、疲労した後半は要注意

News / Columnヒヤリハット事例集

トラブルを未然に防ぐためのヒヤリハット事例集<1>
ロングライドには多様なリスクが潜む、疲労した後半は要注意

 スポーツ自転車に乗っていて、絶対に避けたいのが事故です。しかし、こちらがいかに交通ルールを遵守していても、事故に巻き込まれてしまうことがあります。想定外の出来事への対処は難しいものですが、最悪の事態を避けるには、そうした事態を想定していくことが大切です。本連載では、自転車ライターの安井行生氏が、事故には至らないまでも、危険な出来事に遭遇してしまったヒヤリハット事例を3回に分け、シーンごとに紹介します。事故発生を未然に防ぐための糧にしていただければと思います。初回はロングライドのヒヤリハットを取り上げます。ロングライドには、晴天、曇天、雨天、雪などの様々な天気、あらゆる時間帯、上りに平坦路に下りと、多くの要素が含まれます。ライドが長時間になるので、疲れやストレスも蓄積し、いわゆる”ヒヤリハット”の発生率も高くなります。

ヒルクライムのヒヤリハット

 日本は国土の7割が山です。山がちな日本でロングライドをすると、上りが含まれることが多くなります。速度が低いため安全だと思われがちなヒルクライムですが、実は意外な落とし穴があります。

 サイクリストに人気の某峠を休日に上っていたときのことです。勇ましいエンジン音が聞こえてきました。速度の速いクルマが峠を下ってきているなと思い、できるだけキープレフトで右コーナーを曲がったところ、突然センターラインを大きくはみ出したスポーツカーが目の前に。こちらは急ブレーキ。向こうも急ブレーキ&急旋回。すんでのところ正面衝突は回避しましたが、こちらのハンドルと向こうのサイドミラーがかするくらいギリギリの状態でした。

ヒルクライムでのヒヤリハットもあり得ます。対向車がセンターラインからはみ出してくるかもしれません Photo: Yukio YASUI

 その峠はいわゆる走り屋にも有名なスポットで、アウトインアウトのラインを取ってセンターラインをはみ出すクルマも多かったのです。しかも、小さな自転車はカーブミラーで視認しづらいうえに無音なので、ドライバーは直前まで認識できないこともあるでしょう。安全に思えるヒルクライムでも油断は禁物だと学んだヒヤリハットでした。

ダウンヒルのヒヤリハット

 上りがあれば下りもあります。下りは自然にスピードが出てしまうので、誰もが気を引き締める場面ではありますが、それでも多くの人がヒヤリハットを経験しています。

 こちらも、有名な峠を下っていたときのことです。タイトな左コーナーで、下から上ってきた大きなトレーラーとすれ違いましたが、長い荷台が思いっきりセンターラインをはみ出してきて、あわやトレーラーの荷台に突っ込みそうになりました。峠道で大型車とすれ違うときは、長い荷台が進路をふさぐものだと思っておいたほうが良いです。

 他にも、オーバースピードで膨らんでしまったり、コーナーで浮いていた砂利に乗って滑ったりと、ダウンヒルでのヒヤリハットは数知れずあります。スピードが2倍になれば運動エネルギーは4倍になります。要するに、危険も4倍になるということです。ダウンヒルでは、注意しすぎということはありません。

路面に砂が浮いているかもしれません。ダウンヒルのコーナーは細心の注意が求められます Photo: Yukio YASUI

疲労によるヒヤリハット

 ロングライドも後半になってくると、疲労が蓄積してきます。脚が疲れてもペースを落とせばいいだけですが、上半身が疲れてくると下を向いてしまいがちです。集中力の低下も重なるタイミングなので、前走者が止まったことに気づかず突っ込んでしまったり、信号を見落としてしまったりと、非常に危険です。

 また、肩や腕が疲れてくると、腕をつっかえ棒のようにして上半身を支えるフォームに逃げてしまうことがあります。そうなると、路面からの振動を吸収できず、凹凸の衝撃でハンドルから手が離れてしまうこともあります。

 筆者もロングライドの後半で、凹凸で衝撃で弾かれてハンドルから手が落ちてしまったことがあります。幸い速度が低かったので落車には至りませんでしたが、ヒヤリとした瞬間でした。根本的に解決するには上半身を支えるための体幹を付け、正しいフォームで乗ることしかないのですが、「疲れてちょっと危ない走り方になっているな」と自覚することもヒヤリハットの防止策になります。

夜間走行でのヒヤリハット

 夜を通して走るロングライドをしていたときのことです。暗い田舎道を通る予定だったので、当時はまだ珍しかったバッテリー式のライトを装備して挑みました。もちろん充電はばっちりです。

 ライトを頼りに真っ暗の道を快調に走っていたら、いきなりライトがフッと消えてしまいました。突然、真っ暗です。自分の手も見えないほどの漆黒の闇。詳しい人に聞くと、低温と振動が原因の故障ではないかとのことでした。幸い直線だったので、急ブレーキで止まって大事には至りませんでしたが、ナイトライドで「目」の役割を果たすライトには、明るさだけでなく信頼性も必要だと再認識しました。コストパフォーマンスも魅力ですが、信頼できるメーカーのものを選ぶべきだと痛感した出来事です。

夜間走行をする際はライトは必須。路面を照らし周囲からも認識してもらえます。適度な明るさを持ち、信頼できるメーカーのものを選びたいところです

冬の凍結でのヒヤリハット

 澄み渡る景色。キリリと引き締まる冷たい空気。筆者は冬の峠が大好きです。しかし、冬の峠で痛い目を見たことがあります。上りで気持ちのいい汗をかいた後、下りに入って左コーナーを曲がった瞬間、前方の道路が完全に凍結しているのが見えました。当然、前輪と後輪がほぼ同時にスリップダウンして、路面に叩き付けられました。

 幸いだったのは、凍結していたのでツーッと滑って擦過傷にはならなかったことと、滑って行った先が崖側ではなく山側で、積もっていた雪にボスッと刺さっただけで済んだこと。

 冬の山は怖いところです。日が当たるところと当たらないところでは別世界。それまで路面が完全ドライだったのに、コーナーを一つ曲がると全面凍結しているというケースは多々あります。ウエアの進化によって、冬でも快適に走れるようになりましたが、自然の脅威はいつの時代も変わりません。

安井行生(やすい・ゆきお)
大学在学中にメッセンジャーになり、都内で4年間の配送生活を送る。ひょんなことから自転車ライターへと転身し、現在は様々な媒体でニューモデルの試乗記事、自転車関連の技術解説、自転車に関するエッセイなどを執筆する。今まで稼いだ原稿料の大半をロードバイクにつぎ込んできた自転車大好き人間。