2024.8.23
前回の記事ではグラベルロードの特徴について解説しましたが、今回はグラベルロードを購入した後のこと、購入後にやってほしいことについて説明します。それは自分の走り方に対して「ギヤ比を最適化する」ということです。
まず、ギヤ比とは、フロントのギヤ(クランクに付くチェーンリングの歯数と枚数)と、リヤのギヤ(リヤホイールに付くスプロケットの枚数と歯数)の比率のこと。『変速機の心臓部、「ディレイラー」の仕組み』という記事でも解説していますが、フロントギヤは歯数が大きくなればなるほどギヤが重くなり、逆にリヤのギヤは歯数が大きくなると軽くなります。スポーツ用自転車の性格を決定付ける要素の一つが、この「ギヤ比」です。
少し前のロードバイクは、フロントギヤが2枚で、歯数は53と39くらい、リヤのギヤは9~10枚で歯数は11~25というのが標準でした(それぞれ53-39T、11-25Tと表記します)。このギヤ構成であれば、最も重いギヤの組み合わせは53-11T、最も軽いギヤの組み合わせは39-25Tとなります。ケイデンス(1分間のペダル回転数)を80とすると、53-11Tでは約50km/h、39-25Tでは約16km/hとなります。ざっくりとした計算ですが、それくらいの速度域をカバーするギヤ比だということです。
ロードレースをするなら、このくらいのギヤ比が最適だったのですが、斜度のきつい坂だと、早歩きくらいのスピードになってしまうことも多く、このギヤ比では激坂は上れないことになります(プロ選手ほどの脚力があれば激坂でも高速で上れるので大丈夫なのですが…)。
翻って現代のグラベルロードは、もちろん車種によりますが、フロント48-31T、リヤ11-34Tくらいが標準でしょうか。計算すると、最も重いギヤは48-11T、最も軽いギヤは31-34T。同じくケイデンスを80とすると、約9km/hから約45km/hまでの速度域をカバーするギヤ比となります。
このギヤ比なら、低速になってしまうキツい坂でも上れるようになります。高速は出なくなりますが、そもそも一般のサイクリストはそんなにスピードを出さないので問題ありません。つまり、「一般サイクリストにも使いやすいギヤ比になっている」ことが、グラベルロードの特徴でもあります。以上のことを頭に入れたうえで、チェーンリング(フロントギヤ)やスプロケット(リヤギヤ)を交換して、自分の走り方にギヤ比を最適化するというチューンナップをしてみてください。
自分の走り方やいつも走るコースが決まってくると、それに合ったギヤ比が決まってきます。例えば、「坂を上るときにもっと軽いギヤにしたいから、スプロケットを11-34T から11-36Tに交換しよう」とか、「下りでもっとスピードを出したいからチェーンリングをもう少し大きいのにしてみよう」といった感じです。そうすれば、「坂を上りたいのに軽いギヤがない」、「スピードを出したいのに重いギヤがない」などのもどかしさを解消できます。
もう一つの選択肢が「フロントシングル」です。通常のロードバイクはフロントのチェーンリングが2枚ですが(フロントダブルといいます)、フロントシングルはその名の通りチェーンリングが1枚となります。グラベルロードを中心にトレンドとなっているドライブトレインです。フロントシングルのメリット・デメリットは以下の通りです。
▽フロントシングルのメリット
▽フロントシングルのデメリット
フロントシングルのギヤ比は、フロントが40~42T、リヤが10-45T~10-51Tあたりが標準です。ケイデンス80で計算すると、8km/h強から40km/h強までの速度域をカバーするギヤ比です。
チェーンリングが2枚から1枚になるということは、選択できるギヤのパターンが半分になるということですが、フロントダブルは「アウター×ロー」(一番重いギヤ)と「インナー×トップ」(一番軽いギヤ)でギヤ比が重複するので、実際にはフロントダブル→フロントシングル化によるギヤ比の選択肢の減少は7割程度といったところです。
とはいえ、ギヤ比の幅が減ってしまううえに、ギヤとギヤの落差が大きくなるので、フロントダブルほどの幅の広さと細やかさはありません。しかし「走るのは砂利道がメインだから、40km/h以上の速度域は捨てても問題ない」などの判断ができるなら、フロントシングルは魅力的な選択肢となります。
このように、ギヤ比のメカニズムを理解して、自分の使い方に合わせて最適化すれば、愛車がもっと使いやすくなり、気持ちよく走れるようになります。
ただし、ギヤ比の変更はパーツをただ交換すればいいというわけではありません。各パーツの互換性、ギヤ比の計算、チェーンの長さ、リヤディレーラーの対応能力など、専門知識が必要になります。最初のうちはショップに相談し、アドバイスをもらいながら進めるようにしてください。
自転車ライター。大学在学中にメッセンジャーになり、都内で4年間の配送生活を送る。現在は様々な媒体でニューモデルの試乗記事、自転車関連の技術解説、自転車に関するエッセイなどを執筆し、信頼性と独自の視点が多くの自転車ファンからの支持を集める。「今まで稼いだ原稿料の大半をロードバイクにつぎ込んできた」という自称、自転車大好き人間。
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