TOP HOW TO 海外サイクリストもびっくり!日本の自転車事情海外サイクリストもびっくり!日本の自転車事情<2>
⽇本の車道は自転車で⾛りにくい? イタリアの都市環境づくりとの比較

News / Column海外サイクリストもびっくり!日本の自転車事情

海外サイクリストもびっくり!日本の自転車事情<2>
⽇本の車道は自転車で⾛りにくい? イタリアの都市環境づくりとの比較

 戦後以降、公道での自転車とクルマの共存は⼤きな課題であり、まだ解決の⽷⼝は⾒つからないと考えています。クルマを⽇常的に使⽤する⼈の中にはサイクリストの存在を⽬障りに感じている人もいるようで、インターネット上では「近頃は⾃転⾞のマナーもモラルも低下していて、とても迷惑している」といったような書き込みを⽬にします。果たして⽇本⼈サイクリストのマナーはそんなに⾔うほど悪いのでしょうか。答えは「NO」です。⾃転⾞を利⽤する⽇本⼈のマナーは決して悪くないと思います。

 それではなぜ⽇本⼈サイクリストのマナーは悪く⾒えることがあるのでしょうか。その答えはアップデートできていないインフラ整備と、交通法規に関する知識や遵守意識が低いことに原因があると考えます。今回は日本の現状とイタリアで進んでいる都市環境作りを紹介したいと思います。

この記事の内容

⾃動⾞産業優遇政策の影響?

 前回のコラムでは、⽇本は世界各国と比べて⽇常的に⾃転⾞がよく利⽤されている状況をデータで紹介しました。しかし北欧やベルギー、オランダなどに⽐べ、⽇本国内の⾃転⾞利⽤者にとって街が「⾛りやすい環境である」とは決して⾔えないのが現状だと感じています。戦後の経済活動の活性化に伴うモータリゼーションの進展に合わせ、街づくりはクルマを中心に進められてきました。近年、自転車の利用が広まっており、自転車専用通行帯の整備なども進められる中で様々な課題が明らかになってきています。その一つが道幅です。

「1.5m」の壁

 クルマが⾃転⾞を追い越す時に安全とされている間隔は1.5mといわれています。しかし日本の道路は自転車専用通行帯のスペースを確保するためには幅が狭い。建築基準法でいう「道路」とは、公道・私道を問わず幅員4m以上とされていますが、⼀般的なワゴン⾞の幅は1.8m以上であるため、⾃転⾞を追い越すたびに反対⾞線に⼤きくはみ出さなければなりません。追い越し禁⽌区域(※)の多さを考えると、⾃転⾞の後ろでゆっくり⾛らなくてはならず、ドライバーにとってはストレスになるでしょう。

(※)センターラインが⻩⾊の実線の場合は「追い越しのために」⾞線の右側へはみ出して通⾏することが禁⽌されているが、⼯事や駐⾞⾞両などの障害物がある場合、追い越しではないのでウインカーを出して右側部分にはみ出して通⾏することが可能。

歩道は誰のため?

 ⻑年日本では、⾃転⾞は「自転車歩道通行可」の標識がある場合や車道を安全に走行できない場合などに歩道走行が可能になっていますが、歩道走行が多いのが実情です。⽇本の歩道は歩⾏者にとって狭い場所が多く、そこにさらに⾃転⾞が加わると身の危険を感じることがあります。

⾃転⾞は⾞道へ

 ただ、⾃転⾞は道路の⼀番左側を⾛⾏しなければならないのに、その場所はクルマが駐⾞していることも多く、道の中心寄りを⾛らざるを得ないことがあります。また、陸橋やアンダーパスなど、幹線道路が交わる交差点などの標識は複雑でわかりにくく、真っ直ぐに進めない場所も多く、迷ってしまうことも多いと思います。さらに近年は簡単に速度が出るe-BIKEが普及し、追い越しの際に⾞間距離が取りにくくなるなど危険を感じているドライバーも少なくないでしょう。

⾃転⾞専⽤通⾏帯?⾃転⾞⾛⾏指導帯?

 道路交通法の第20条第2項に定められている「⾃転⾞専⽤通⾏帯」は⾃転⾞が⾛らなくてはいけない⾞両通⾏帯で、多くは⻘色です。また自転車以外の車両も通行できる青い矢羽根が描かれた「⾃転⾞⾛⾏指導帯」というものもあります。しかし、こういった通⾏帯は駐停車のクルマにふさがれている光景をよく目にします。驚いたことに駐停⾞中の⾞は駐停車禁止の道路でなければ「違反」にならないため、警察も取り締まることができないそうです。

⾃転⾞専⽤通⾏帯への駐停車の様子(Google Street viewより)

 とにかく⽇本は海外と比較し、クルマと⾃転⾞の共存はまだ遠いのが実情であると感じます。

イタリアの場合

 ⽇本と同様に戦後から「モータリゼーション」を進めてきたイタリアでも⾃転⾞とクルマの共存は難しく、やっと2020年に交通法規が⼤幅に改定されました。⾃転⾞にとって⾛りやすい街づくりが始まったのです。新しく追加されたのが次の点です。

1)⾃転⾞専⽤レーン(corsia ciclabile): ⾃転⾞専⽤通⾏帯でクルマの侵⼊も停⾞も禁⽌。⾚⾊または⻘⾊で区分されます。
2)サイクルロード(strada ciclabile): ⾃転⾞優先の⼀般道。最⾼時速 30km に制定。
3)対⾯通⾏レーン(doppio senso ciclabile) : ⼀⽅通⾏道路における⾃転⾞専⽤の対⾯⾛⾏レーン。イタリアでは⼀⽅通⾏は⾃転⾞にも適応されますが、対⾯通⾏レーンによって「逆⾛」が可能になりました。
4)⾃転⾞停⽌ゾーン(casa avanzata per le biciclette): ヨーロッパで普及しつつある新しい道路作り。信号機のある交差点の停⽌線の先頭に引かれた⻑さ3mの待機ゾーンを指します。その役割は⼤きく、⾃転⾞が⾒やすくなるだけでなく、排気ガスを浴びることもありません。右折も左折も⾃転⾞は優先です。この⾃転⾞停⽌ゾーンにクルマが侵⼊した場合、罰則⾦42ユーロ、運転免許証から2点が引かれます。
5)スクールゾーン(zona scolastica): ⽇本にも存在する学校周辺地域の⾃転⾞通⾏専⽤ゾーン。時間帯でクルマが通⾏⽌めになる場合もありますが、多くの場合は道路や広場を完全に封鎖します。

イタリアで実験的に作られた⾃転⾞専用通⾏帯(=2019年撮影) Photo: Marco Favaro

いかにして必要なスペースを確保したのか?

 イタリアの街は古く、道路幅は狭い上に道路の拡張はほとんど無理。果たしてどのようにして⾃転⾞通⾏専⽤レーンの設置は可能になったのか。イタリアが選んだ道は⼆つ。1)全⾯的に市内へのクルマの乗り⼊れを制限する。結果として交通量を減らす。2)対⾯通⾏道路を⼤幅に減らし、⼀⽅通⾏化にする。

 例えば、4⾞線の対⾯通⾏道路を⼀⽅通⾏化することで⾃転⾞専⽤レーンのスペースを確保するだけでなく、駐⾞スペースも確保できて荷物の引き下ろしもストレスなしでできるようになりました。

変わりつつある街の⾵景

 この10年でヨーロッパの街並みは⼤きく変わりました。どの⾃治体も暮らしやすい街づくりを⽬指し、⾃転⾞はその⼀つの要です。

 ⾃転⾞の利便性を⾼めることで事故や騒⾳を減らし、 運動をすることによって無意識に健康促進にもつながります。⽇本でも実現可能な政策ばかりなので、ぜひ導⼊してほしいと思います。

文: FAVARO Marco(ファヴァロ・マルコ)

イタリア外務省認定教育団体ダンテ・アリギエーリ協会東京支部を経て、現在スポーツジャーナリスト及び伊豆市地域おこし協力隊。サイクリングイベント主催、来日プロ選手通訳など、地元自治体と文化交流プログラムも行う。

この人の記事一覧へ