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Q 自転車乗車時のヘルメット着用「努力義務」がもつ本当の影響力とは?

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弁護士に聞く自転車のルールの素朴な疑問<23>
Q 自転車乗車時のヘルメット着用「努力義務」がもつ本当の影響力とは?

(Getty Images)

Q 自転車乗車時のヘルメット着用「努力義務」がもつ本当の影響力とは?

 本連載の「Q ロードバイクに乗る時、ヘルメットを被るのは義務ですか?」でも掲載した通り、2023年4月からすべての自転車利用者がヘルメットを着用することが努力義務となりました。道交法では、「自転車の運転者は、乗車用ヘルメットをかぶるよう努めなければならない。」(道交法63条の11第1項)と定めており、「努めなければならない」という書きぶりになっています。このような定め方を「努力義務」といい、ヘルメット着用をしなかった場合に、それがただちに違法になるということはなく、また、ヘルメット着用をしなくても罰せられたり処分を受けたりすることはありません。

 このような「努力義務」は、政策目的を達成したいが、その政策を国民に強制するほど社会的に浸透していなかったり、行政機関に行って欲しい施策ではあるが、予算上の裏付けがないなどの理由でただちに確実な実現を期しがたい場合などに用いられる法令上の慣用表現です。

 このような努力義務は、道交法では、10条3項「(略)歩道を通行する歩行者等は、(略)普通自転車通行指定部分があるときは、当該普通自転車通行指定部分をできるだけ避けて通行するように努めなければならない。」、4条3項「公安委員会は、(中略)交通の頻繁な交差点その他交通の危険を防止するために必要と認められる場所には、信号機を設置するように努めなければならない。」などと、いくつか置かれています。

事故時にヘルメット非着用で不利になる可能性も

 このような努力義務は、守らなくても違法でも罰則処分の対象にもならないということであれば、守らなくてもよいということにならないか、確かに気になるところです。しかし、努力義務があるのに、ヘルメットを着用していないまま自転車運転中に事故に遭った場合で、ヘルメットを着用していなかったことが原因で傷害を負ってしまったり、傷害が拡大してしまったりしたときには、ヘルメットの非着用を自転車の運転者の過失として評価し、過失割合の算定で自転車運転者の不利に計算することがあり得ます。

(Getty Images)※画像はイメージです

 実際に自動車の例ですが、シートベルトを着用していなかったことが原因で、傷害が拡大した場合に、過失割合を加算する考え方が裁判でも採用されています。シートベルトの着用は、努力義務を超えた罰則付きの法的義務ですので、自転車のヘルメット着用と同列には語ることはできませんが、ヘルメット着用が今後浸透していけばいくほど、非着用の際に事故の過失割合の加算が行われる傾向が強まるものと思われます。

 なお、道交法の規定からもわかるように、着用の努力義務があるヘルメットは、「乗車用のヘルメット」です。工事現場用や、クライミング用などのヘルメットでは、努力義務を果たしたことになりませんので注意が必要です。

本田聡(ほんだ・さとし)

2009年弁護士登録。会社関係法務、独占禁止法関係対応、税務対応を中心に取り扱う傍ら、2台のロードバイクを使い分けながら都内往復20kmの自転車通勤を日課とする。久留米大学附設高校卒・東京大学法学部卒・早稲田大学法務研究科卒。

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