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峠に愛称道路にアニメ坂、中級以上向け阪神間ヒルクライム巡り(兵庫)

 美しい観光名所に、美味しいグルメ。いまや自転車で地域を巡る理由は、数えきれないほど存在している。エントリーユーザーにとっても充実したルートが当サイトで多数紹介されているが、今回は視点を変えて阪神間を巡る中級~玄人向けのコースをご紹介したい。地元の熟練ライダーが通う峠道の登場だ。(Text & Photo by Masahiro KOSHIYAMA )

阪神間の中級~玄人向けのコースご紹介する

西宮と芦屋を回るルート

 舞台は六甲山と大阪湾が共存する阪神エリア。序盤は大阪湾を望む湾岸線を走り足慣らし。5つの埋立地をあとにし、向かうは芦有ドライブウェイゲート。長めで急勾配の峠を登った後には、さらにインターバルの掛かる細かい急坂を駆け上がる。西宮~芦屋をぐるりと回る走りごたえのあるルートとなっている。

 スタートは国道沿いの武庫大橋。昭和2年、武庫川に架けられたこの橋は、阪神間のモダニズム文化の面影を強く残す。河川敷へと降りて武庫川サイクリングロードを南下し、1つ目の登坂セグメントへと向かう。

スタート地の武庫大橋は昭和初期の雰囲気を色濃く残している

 たどり着いたのは鳴尾浜と呼ばれる人口の埋め立て地。1つ目のセグメントはそこから繋がる大きな橋だ。鳴尾浜も位置する大阪湾のほとんどは埋立地として土地開発され、人工島化したエリアは湾岸線と呼ばれる道路で概ね繋がっている。各湾には大型の貨物船が出入りすることから、どの橋もかなり勾配のある作りとなっており、 特に最初の鳴尾大橋と最後の東灘芦屋大橋は、かなりの高さで山海の絶景を眺められる。

鳴尾大橋から西側を望む。阪神間は背に山、正面に海を見渡せる

 いずれも勢いで登れるものでは決してなく、じわじわペースを考えながら脚を温めていく。4つの橋を渡り切った先の深江浜から北上し、本日のメインディッシュ、「芦有ゲート」を目指す。

急勾配が待ち構える芦有ゲート

 ここ阪神間には背後にそびえ立つ六甲山へと通じる道がいくつか存在し、そのひとつひとつが名ヒルクライムスポットとして地元のライダーから親しまれている。表六甲、東六甲、西六甲など。その中でも芦有(ろゆう)ゲートは少し変わったプロフィールを持つ。

 全長3.6kmで獲得標高340m、勾配は9.4%を上回る。芦屋川平野部の最北、開森橋をスタート地点とするこの峠だが、走り始めたライダーを待ちうけるのは13%を超える急勾配。いきなりローへのシフトを余儀なくされ、それでもジワジワとダンシングで登ることがほとんどだ。ほどなく斜度も緩むが、それでも平均は9%以上と難易度は高く、顔をしかめたライダーが必死に登る姿を目にするのも珍しくない。

手前の開森橋から奥へと続く、通称「芦有ゲート」
峠道が始まって早々13%の激坂が待ち受ける

 先に述べた “変わったプロフィール” というのはこの勾配だけにあらず。実はこの峠、自転車で “越える” ことができないのだ。

行き止まりの峠

 そもそも私が峠と呼んでいるこの道は、芦屋~有馬間を繋ぐ「芦有ドライブウェイ」という自動車専用道路への唯一の通り道で、料金所から先は自動車しか進めない。つまり自転車は行き止まりだ。六甲山頂を目指せる他の峠に対して、この峠は登りきることそのものが理由であり、足を運ぶ層もそれなりに慣れた顔ぶれになるのだ。

 とは言え、週末の明るい時間ともなれば誰かしらとすれ違い、追い越したり追い越されたりする人気の峠とも言える。そうこう述べている間にも道は進み、遂に住民が暮らすマンションエリアを越える。走行路は車道の左端となるが、芦屋川が長い年月を掛けて拵えた渓谷は美しく、時期によっては桜や新緑、紅葉が楽しめる。

この峠は芦有(ろゆう)ドライブウェイへと続く道だ
途中ほんの少しだけ勾配が緩むが、左奥のガードレールがある位置まで更に登る

 途中いくつか平坦になる箇所やグッと斜度が上がる箇所もあるが、勾配は平均的でトルクを掛けて登りやすい。タイムを稼ぐという意味では、あまり最初の急坂で消耗しすぎず、ペースを考えながら最後にジワジワ上げていく走りがオススメだ。そういう私もこの峠でペース展開などを覚えられたのも事実で、フィジカルの向上やタイムだけに拘らず、走るリズムのマネージメントを学べるのも良い。

 さて峠はつづら折れを越えて終盤に差し掛かる。大きなカーブで一度勾配が緩んだら、あとは200m、10%の直線を目一杯で駆け上がろう。料金所手前の橋を越えるとゴールとなる。ゲート前からは渓谷を挟んで芦屋浜を望むことができ、冬は澄んで見晴らしが良い。夏の花火大会はここから眺めることも楽しみのひとつだ。

 また、ゲートから脇道に逸れた道を進むと、途中からハイカー道に入るが、小さな渓谷では真夏に水遊びを楽しむ方も多い。炎天下の芦有ゲートを登り、そのまま冷たい水の流れる小川へドボンするのは峠に登った者だけが知る愉楽と言えよう。

ゲートの奥にはこんな川遊びスポットが。川底は深く、夏場は飛び込みスポットとして賑わう

愛称道路からハルヒ坂へ

 前述の通り、この峠は越えることができないため、来た道を折り返す。勾配がきついためスピードには充分気をつけよう。

 1つ目の信号がある芦屋浄水場前まで降り左折、「山麓線」を抜ける。芦屋市では市民からの公募で道路に愛称がつけられており、現在22の愛称道路が市内に存在している。この山麓線は芦屋~西宮の街並みを見下ろすことができ、建物などの外観からも異国の土地へ迷い込んだような雰囲気を感じる。

 愛称道路はそのあとも続き、「日の出坂」へと道を進める。ここは全国的にも有数の高級住宅街として知られる六麓荘町を通る道であり、昭和初期からライフラインの地下埋設や街路の完全舗装がなされている。当然大豪邸とも言える建物も多いが、勾配も急にアップするのがポイント。先の芦有ゲートで疲労した脚には堪える坂が多く待ち受ける。

高級住宅街として有名な六麓荘町。このエリアは電線など地中に埋まっているそうだ

 休む間もなく先へ進めば西宮市。続く苦楽園町も斜度が厳しい。見るからに自動車がなければ移動が難しく、他地域からのアクセスの悪さそのものが、この高級住宅地の安全面を補完していると言えよう。

 更に今回一番キツイ坂が最後に待ち受けている。苦楽園神社の横を抜ける道は最大で18%を超え、ダンシングでなければ登ることさえ許されない。交差点を曲がっても勾配は緩まず、懸命に坂を駆け上がった先には地元の高等学校が待っている。

 界隈でもあまりに過酷な通学路として知られる県立西宮北高等学校は、 京都アニメーション作品『涼宮ハルヒの憂鬱』 で主人公たちが通う高校としても知られる、いわゆるアニメの聖地である。先ほどの激坂も含め、このあたり一帯は聖地巡礼の定番コースであり、坂を登り切った交差点を曲がれば「ハルヒ坂」と呼ばれる名所が待っている。

アニメの1シーンにも登場するハルヒ坂

バイクラック併設の人気店

 とは言え激坂を終えてひと段落したいところ。休憩も兼ねて近隣のカフェをご紹介しよう。

 昨年暮れにオープンした「TAOCA COFFEE 鷲林寺ロースタリー」さんは、この阪神間でほか2店舗スペシャリティコーヒーを提供する人気店。焙煎所とゆったりくつろげるスペースが共存した空間に、テラス席からは宝塚~大阪を望むことができる。天気の良い日には京都の山々まで見ることができる。

2019年末にオープンした「TAOCA COFFEE 鷲林寺ロース タリー」さんへ
販売されている豆はここで焙煎され、全て試飲も可能

 オーダーしたのは、定番のカフェラテとトースト。この日はエチオピア・エルガチェフ産の豆を使った見た目も美しいラテと、まるでデニッシュのように甘くふっくらしたトーストをいただいた。セットでも700円と大変お得な値段設定もありがたい。

カフェラテとトーストのセット、ラテの豆は浅煎りで酸味があって美味しかった

 この場所、正確には湯元町という住所になるが、このエリアは地元で知られたお寺に因んで鷲林寺と呼ばれる。六甲山では山頂までたどり着ける東六甲や、裏六甲へ抜ける道への導線となっており、自転車乗りにも大変フレンドリーな場所と言える。店内から見える位置にサイクルラックが設けられているなど、サイクリストへの気遣いも嬉しいところ。取材させていただいたこの日も、多くのサイクリストが集まっていた。

お店から目が届く位置にバイクラックが設置されている

■TAOCA COFFEE 鷲林寺ロースタリー(タオカコーヒー ジュウリンジロースタリー)

所在地:兵庫県西宮市湯元町1-8
TEL:0798-56-8282
営業時間:10:00-19:00
定休日:年始
「TAOCA COFFEE」ウェブサイトhttp://www.taocacoffee.jp/

 温かいドリンクで身体が温もったところで、下山。右手に貯水池、左手に甲山を望み安全に道を進む。途中の五ヶ池ピクニックロードと呼ばれる道は、甲山森林公園を抜ける森の道。日祝は終日に渡って自動車・オートバイの通行が禁止されていて安全に通過できるが、ブラインドコーナーも多いので歩行者には注意いただきたい。

住宅地が続く急坂から、右手奥が武庫川へと続く仁川だ

 ピクニックロードから住宅地を抜け、急坂を降りた先は西宮の仁川。川沿いを進めばあっという間に武庫川へ合流し、河川敷を安全に進むことができる。芦屋にせよ西宮にせよ、このあたりは大阪や神戸に近い市街地だ。しかし上手くルートさえ繋げられれば、信号や交通量の少ない道を選ぶことも充分に可能である。今回は深江浜~芦有ゲートを除けば数えるほどしか信号がないルートを選択することができた。山と海が共存し、自転車フレンドリーな街ならではと言える。

ライドの食事は地元の名店で

 さて、しっかりとライドを楽しんだ最後は地元の名店へご案内したい。発着点からもほど近い洋食店、JR甲子園口ほんわか商店街内の「ひのや」さんだ。昔ながらの店構え、メニューには豊富な種類の定食が並ぶ。この日は霧島山麓豚を使った豚バラ角煮定食をいただいた。

JR甲子園口ほんわか商店街の一角、昔ながらの店構えが特徴的な「ひのや」さんへお邪魔した

 煮物の小鉢、自家製ソースのサラダ、お味噌汁、どれも丁寧な手作りの味を楽しめるが、メインの豚バラ角煮はどの部分も口に入れれば溶けてしまうほど柔らかく、しっかり煮込まれてとても美味しい。餡の味付けも濃すぎず薄すぎず良い塩梅。脂身も決してくどくなく、艶の良いお米と一緒にペロリと平らげた。

豚バラ角煮定食。メインから小鉢に至るまで丁寧な仕事を味わうことができ

 店内は落ち着いたBGMが流れていて、ゆったりと御馳走をいただくことができる。どのメニューを頼んでもはずれ知らずで、小麦粉不使用のカレーはネット界隈でもレビューが多く評価が高い。

■ひのや

所在地:兵庫県西宮市甲子園口3丁目21-6
TEL:0798-65-6139
営業時間:11:30-14:30 / 17:30-21:30
定休日:火曜日 / 木曜 お昼

 大変腰の低いマスターにお礼を言いながら、この日最後の訪問地を後にした。50kmに満たないルートながら約800m近い獲得標高を有する当ルート。サイクリングなどで少し走り慣れたライダーにぜひオススメをしたい。