2022.9.20
ある場所をぐるりと自転車で一周する「〇〇イチ」。琵琶湖を一周する「ビワイチ」、霞ケ浦を一周する「カスイチ」などがありますが、今回紹介するのは兵庫県の淡路島を一周する、通称「アワイチ」です。東京を拠点とする1泊2日の旅は一見弾丸ツアーのようにも思えますが、一周約150kmのアワイチを堪能するには実にちょうど良い旅程が組めるんです。急がずじっくり、時々頑張る。淡路島ならではのグルメも絶景も満喫できる、週末自転車旅プランをご紹介します。
オススメポイント | 島一周というわかりやすいコースながら、獲得標高1600mという走り応えのあるプロファイル。そして我々サイクリストを引きつけて止まないのが、淡路島産の甘~い玉ねぎを始めとする地元グルメの数々。青い海を眺めながら、行く先々に現れる補給スポットを堪能しつつ摂取カロリーも相殺できる(?)、「走・食・景」の3拍子が揃った定番の「アワイチ」ルートです。 |
---|---|
レベル | ★★★(上級者向け) |
距離 | 153km |
獲得標高 | 1607m |
出発・終着地 | 岩屋港 |
立ち寄りグルメスポット | タコステ、いづも庵、アイスアップ、万代、海峡楼 |
立ち寄りスポット | ホテル&リゾーツ南淡路、道の駅うずしお、松帆の湯、道の駅あわじ |
淡路島一周、すなわち「アワイチ」は関西圏はもちろん、それ以外の地域に住むサイクリストにとっても一度は達成しておきたい定番のルートです。一周ですからルートは至って明快。しかし侮るなかれ。湖畔を一周するビワイチ等と違い、島一周は高低差が大きいのが特徴。150kmを走り切る頃には獲得標高は約1600mに達します。淡路島周辺在住のサイクリストの中には、1日で島を一周する方も多いようですが、東京から向かうとなるとそれはさすがに難しい…。
しかし、それが逆に良いのです。一周目当てでスピードを上げるのではなく、島内で1泊するプランをたてることで、コース上にあるさまざまな魅力をたっぷりと楽しむことができます。何よりも2日に分けることで体力的にも敷居は低くなるので、初めての自転車旅に挑戦してみたいという方にもおすすめです。
東京から淡路島まで輪行する場合は、鉄道でJR明石駅まで移動し、明石港から出ている高速船「淡路ジェノバライン」で淡路島の岩屋港へ渡る行程が一般的です。鉄道は時間帯等によっていくつか乗り換えパターンがありますが、今回は新幹線輪行でJR新大阪駅まで移動し、在来線に乗り換えてJR明石駅へと向かいました。
いよいよ乗船。普段体験する機会が少ない船輪行は、ぐっと旅感が増します。といっても淡路島の岩屋港まではわずか10分間ほどの航行。せっかくなので、天気が良ければ外の座席で世界最大級のつり橋、「明石海峡大橋」の真下をくぐる大迫力を楽しみましょう。
東京からここまでの全行程の所要時間は、およそ4時間ほど。午前7時台の東京発新幹線のぞみに乗れば11時台には淡路島に上陸することができます。スケジューリングで重要なのは初日の目的地(宿泊地)までの所要時間を計算すること。今回の宿泊地は島の約半周地点にある福良エリアに設定したので、岩屋港からの距離約80km、獲得標高約900mほどを自分が休憩・寄り道込みで何時間程度かかるかを逆算します。例えば、休憩に1時間ほど余裕をもたせて時速20kmで走ればライドの所要時間は通算5時間ほど。宿の到着時間から逆算し、岩屋港からのスタート時間、延いては東京の出発時間を設定しましょう。
今回は宿までの走行時間を5時間程度と想定し、岩屋港に午前11時過ぎに到着しました。朝も早かったので、まずは岩屋港近くにある「淡路島タコステ」で軽く腹ごなしをしてからスタートします。タコステ内にあるフードコートえびすではローカルフードの明石焼きや海鮮丼を軽めに堪能できます。この先に登場する補給ポイント(グルメスポット)を考えながら、おなかの空き具合と相談してメニューを選びましょう。
エネルギーをチャージしたらいよいよ出発です。走る方向に時計回り・反時計回り等のルールはありませんが、自転車は左側通行なので、島を一周する場合は時計回りに走った方が海沿いに出た時により近くに海を感じることができます。
走り始めは島の東岸を南下していきます。道沿いには商業施設も多く、地方都市近郊といった趣の道が続きます。ほぼ平坦ですが交通量と信号が多いので、まずはウォーミングアップ感覚でゆったりと走りましょう。
スタートから22kmほど走ったところで右手に二つ目のグルメスポット、淡路島うどん「麺乃匠いづも庵」が現れます。
讃岐うどんのコシと大阪うどんのモチモチ感が合わさった「淡路島うどん」が人気の店で、中でも一番の人気メニューが「タマネギつけ麺」です。1個丸ごと揚げた玉ねぎの天ぷらは、見た目のインパクトもさることながら、淡路島産玉ねぎ特有の甘味が引き出された逸品。かつおやさばなどでとった出汁とうどんとともに頬張れば、口の中が淡路島に! “玉ねぎアイランド”のミッションを一つクリアしたかのような満足感が得られます。
美味しい玉ねぎの天ぷらを堪能したら、〆に欲しくなるのがさっぱりとしたデザート。そんなときおすすめなのが、いづも庵から200mほど行ったところにある3つ目の補給スポット、淡路島初のアイスキャンディーショップ「アイスアップ」です。
「淡路島の魅力を伝えたい」という店主が、淡路島産の牛乳や果物などを贅沢に使って手作りアイスキャンディー。素材本来のさっぱりとした自然な甘さが人気です。店先にバイクラックが完備されているのもサイクリストには嬉しいポイントです。
洲本市を通過し、スタートから40kmを過ぎたあたりから島内の不思議スポットといわれる「立川水仙郷」へと向かう上りが始まります。ここがアワイチ最大の難所で、走行距離約5kmで獲得標高は220mほど。最初の上りは1.6kmで平均勾配8%と標識が示しますが、最初の500mほどは明らかにそれ以上の急勾配が続きます。ここまで平坦に慣れていた脚に応えますが、長いヒルクライムではないので軽いギヤに切り替えて乗り切りましょう。
一つピークを越えて少し下ると、再び1km少々の上り返しがあります。そこから一気に下ると灘の海沿いへ入ります。このエリアの海は紀伊水道。瀬戸内海の一部ですが、広大な太平洋と直結していて解放感のある海原が広がります。ヒルクライム後ということも相まって、心なしかスピードも上がります。
沼島の横を抜けると、再び坂が出現。距離は1km程度と短いもののやはり上り始めが島特有の急勾配。海沿いを離れ、内陸でもう一つ丘を越えると、アワイチの中間地点であり初日のゴール地点、南淡の港町・福良に到着です。福良港といえば、鳴門海峡の渦潮が見られる観潮船「うずしおクルーズ」の発着港。渦潮の状況によっては16時頃まで最終便が運航していることもあるので、タイミングが合えば約1時間のクルージングを楽しんでみるのも良いでしょう。
宿泊場所は自転車ウェルカムな宿として知られる「ホテル&リゾーツ 南淡路」。淡路島の南西の高台にあり、鳴門海峡を一望できる温泉宿です。高台ということは…そうです、ホテルにたどり着くまでに少々きつめの坂が出迎えてくれます。本日ファイナルのプチヒルクライムと思って頑張りましょう。
ホテルでは自転車を部屋まで持ち込むことはできませんが、スタッフの方が外から館内のフロント近くにあるバックヤードまで誘導してくれます。
ホテル内の南淡(なんだん)温泉で汗を流したら本日4つめの淡路グルメ、夕食です。ホテル内でとるのも良いですが、せっかくなら地魚を味わいに福良港へと繰り出しましょう。訪れた夏は、南淡路の名物「ハモ」が旬の季節。ということで旬の魚が味わえると評判の「万代」をチョイスしました。ちなみに同店は「ロードバイク応援店」で駐輪場完備の上に、ランチ利用客にはなんとボトル給水・氷を提供するサービスも行っているそうです。
淡路島では「はも延縄」と呼ばれる漁法で一匹一匹を丁寧に釣り上げるので、傷が少なく金色の美しい魚体をしていることから「べっぴん鱧」や「黄金鱧」などと呼ばれています。
大阪や京都の夏には特に珍重されており、「はも祭り」と呼ばれる京都の祇園祭で淡路島のハモを生きたまま京都の八坂神社へ奉納する「はも道中」というイベントが毎年開催されています。
ホテルへの戻りを考えて店舗へはタクシーでの移動がおすすめです。夜の部は17時から営業しているので、飲酒をしなければライド中に立ち寄ることもできますが、その場合はホテルまでの夜道に備えて明るいライトを装備しておきましょう。
ホテルを後にして、翌朝は「道の駅うずしお」に向かいます。その名の通りうずしおに最も近い道の駅で、大鳴門橋の迫力を間近に望むことができます。小刻みなアップダウンが続く道のりに、温まっていない脚が叩き起こされるように刺激が入ります。
道の駅の駐輪場に自転車をとめてさらに奥まで進むと…、そこには大迫力の大鳴門橋が。渦を作り出す激しい潮の流れの中に堂々とそびえる様子は圧巻です。
「道の駅うずしお」周辺には、ここ淡路島が玉ねぎアイランドであることを思い出させるオブジェがアイテムがいくつかあります。その一つが玉ねぎを模した椅子「おっ玉チェア」。道の駅内に3カ所あり、大鳴門橋をバックに撮影できるとあって人気の撮影スポットになっています。
そして道の駅うずしおから少し戻った丘の上(といっても3kmで150m上ります)にある「うずの丘 大鳴門橋記念館」に鎮座しているのが、巨大たまねぎのオブジェ「おっ玉葱」。道の駅うずしおよりもさらに高台から見下ろす大鳴門橋と巨大玉ねぎが作り出す景色がなんともシュールで、こちらも人気の撮影スポットになっています。
この他にも置いてあるテーブルが玉ねぎを輪切りした断面だったり、玉ねぎのUFOキャッチャーがあったりと、島の“玉ねぎ感”は最高潮に。トロッと甘い淡路島産玉ねぎと淡路牛を一度に味わえると評判の、淡路島オニオンキッチンの「あわじ島オニオンビーフバーガー」も、ここ「うずの丘」と「道の駅うずしお」で食べられます。
アワイチ後半は島の西側の海岸線を約60kmほど北上します。海沿いを走るわりにはアップダウンはきつくないので、海を眺めながら心も心拍も穏やかなサイクリングが楽しめます。とはいえ、西側は東側と違ってコンビニなどのスポットが少ないので、補給と休憩は体力に応じて計画的に行うようにしましょう
ゴール地点が近づくにつれ、少しずつ本州・明石の陸地が海の向こうに見えてきます。幾度目かの岬を越えたところで目の前に明石海峡大橋が突然出現します。いよいよ島の北端。ここまでくればアワイチは完成です。それとともにクルマの交通量も増えてくるので、気を引き締めて走りましょう。
朝9時から走り出せば、観光・休憩込みで通算4時間ほどでゴールの岩屋港に到着。その前に、岩屋港手前にある「道の駅 あわじ」でランチがてら最後の淡路グルメを堪能しましょう。
淡路グルメといえば、これも忘れてはならない「淡路牛」。道の駅内にあるレストラン海峡楼で明石海峡大橋を真下から眺めながら、ローストビーフがたっぷりのった「牛丼」を食べてミッションコンプリートです。
「道の駅 あわじ」では淡路島の特産品を購入することもできます。ビール好きなら淡路島のクラフトビール「AWAJI BEER」がおすすめ。自身のお土産として、往路の新幹線で思い出に浸りながら味わうのも良いでしょう。あるいは淡路島産玉ねぎとともに自宅へ発送しても良いかもしれません。
往路は元来た道を戻ります。余裕をもって15時に岩屋港を出発しても東京には19時台に到着することができます。一周コースはとにかく「一周すること」、あるいは「どれだけ速く一周できるか」に意識が向きがちですが、1泊を挟んだ行程なら一周する間にその土地の魅力をたっぷり味わうことができます。急がず無理せず、この充実感。そう、アワイチは1泊自転車旅に最適なのです。
アウトドアメーカーの広報担当を経て、2015年に産経デジタルに入社。5年間にわたって自転車専門webメディア『Cyclist』編集部の記者として活動。主に自転車旅やスポーツ・アクティビティとして自転車の魅力を発信する取材・企画提案に従事。私生活でもロードバイクを趣味とし、社会における自転車活用の推進拡大をライフワークとしている。
この人の記事一覧へ稲城から高尾まで 都内サイクリングの定番コース“尾根幹”と+αのルート
2018/10/30
2017/08/29
ヒルクライムで好成績を出すのに、どんなトレーニングをしたらいいですか?
2018/02/23
2024/11/22
2024/11/20