夏でも油断しないで!クロアチアの山で学んだ、防寒装備とレイヤーの重要性しくじりサイクリスト<9>
夏のサイクリングと聞くと、「暑さ対策」ばかりに意識が向きがちです。熱中症対策、十分な水分補給、日焼け対策…どれも大切ですが、実はもう一つ、見落とされがちなリスクがあります。それが「寒さ」です。特に山を含むロングライドでは、季節に関係なく、急激な気温低下や天候悪化に直面する可能性があります。
この記事では私、PEKO自身が海外の長距離ライド中に体験した出来事をもとに、「夏でも防寒装備を持つべき理由」についてお話しします。決して特別なレースや上級者だけの話ではありません。週末のロングライドや旅先でのサイクリングを楽しむビギナーの方にこそ知っておいてほしい、寒暖差と装備選びのリアルをお伝えします。

8月末のクロアチアで起きた、想定外の出来事
2023年8月末、私はクロアチアで行われたイベントに参加していました。
今回お伝えしたいのはイベント参加レポートではありません。私がこのイベントの途中、クロアチアの山の中で強く実感したのが、「夏でも防寒装備は必要だった」という、ごくシンプルだけれど重要な教訓でした。
※ランドヌール=フランス語で「旅人」を意味し、自転車の世界ではブルベ(BRM)と呼ばれるノーサポート・長距離サイクリングイベントに参加する人のこと。
「8月末の夏だから大丈夫」と思っていました
私はこのときレインウェアを持っていませんでした。8月末という時期もあり、「多少雨に降られても走れるだろう」「ヨーロッパの夏だし、そこまで冷えないだろう」と考えていたのです。しかし、その判断は甘すぎました。
山に入った途端、天候は急変しました。雨が降り、風が吹き、気温は一気に低下。10度を下回るコンディションになり、濡れたウェアが容赦なく体温を奪っていきます。
あとで知った話ですが、同じ時期、フランスのサイクリングの聖地として知られるモンバントゥーでは、8月にもかかわらず雪が降っていたそうです。気候変動の影響もあるのか、もはや「季節=気温」という感覚は通用しなくなっていると感じました。
本当に危険なのは、下りで一気に冷えること
寒さで特に危険を感じたのは、ダウンヒルでした。登りでは、どれだけきつくても身体は温まります。しかし、雨で濡れた状態のまま下りに入ると、風を正面から受け続けることになり、体温が一気に奪われます。
私は下りの途中で震えが止まらなくなり、「これは低体温症になる」とはっきり自覚できる状態になりました。寒さは不快なだけでなく、判断力や操作精度を落とし、事故につながるリスクそのものです。
山の中、しかも海外。簡単には逃げられない
場所はクロアチアの山の中です。日本のようにコンビニや自販機が点在しているわけでもなく、気軽に雨宿りできる場所も多くありません。
そんな中、通りかかった方が「トラックに乗せていこうか?」と声をかけてくれました。本当にありがたい申し出でしたし、安全を最優先するなら、乗せてもらう判断も十分に正解だったと思います。
ただ、その時点で私は「まだ走り続けたい」と願っていました。車に乗ればイベントはDNF(リタイア)になります。悩みましたが、最終的にはその選択肢は取らず、自力で状況を打開する道を選びました。
偶然見つけたお土産ショップで、フリースを購入
その後、偶然にも道の駅のようなお土産ショップを見つけました。
私は迷わず立ち寄り、そこでフリースを購入しました。
この判断が、その日の命綱になりました。そのフリースは、水抜けが良く、濡れても冷えにくい素材でした。しかも想像以上に暖かく、着た瞬間に「助かった」と感じたのを覚えています。
レイヤー(層)を作ると、体感温度が変わります
さらに、お店の方に事情を説明し、許可をいただいたうえで、レジ袋やカフェのキッチンペーパーを分けてもらいました。それらをフリースの内側に入れ、即席でレイヤー(層)を作りました。これが想像以上に効果的でした。
分厚いウェアを一枚着るだけでは、意外と寒さは防げません。大切なのは、服の中に空気の層を作り、風と水を遮断することです。レジ袋や紙でも、その役割は十分に果たしてくれました。
プロのレースでも使われる、同じ考え方
このとき思い出したのが、春先のジロ・デ・イタリアです。プロ選手たちが、ダウンヒル前に新聞紙をウェアの中に入れている光景を見たことがある方もいるかもしれません。あれも考え方は同じです。風を防ぎ、体温を奪われるのを防ぐ。私がやったレジ袋とキッチンペーパーも、方向性としてはまったく同じでした。
結論:夏でも、防寒装備は「持っておく」
今回の経験から、はっきり言えることがあります。夏でも、レインジャケットやウインドブレーカーは持っておくと安心です。
特に、
- 山を走る予定がある
- 長い下りが含まれる
- 天候が変わりやすい地域を走る
- ロングライドで引き返しにくい状況

こうした条件が一つでも当てはまるなら、防寒装備は「保険」ではなく「必須装備」だと思ってください。そしてもう一つ大事なのは、レイヤーを作れる装備構成です。厚手の一着に頼るのではなく、重ねて調整できること。その考え方が、寒暖差の大きいライドではあなたを助けてくれます。
クロアチアでのイベントは、厳しい経験でした。しかし、そのおかげで「装備の大切さ」を身体で理解することができました。
「夏だから大丈夫」
そう思った瞬間が、いちばん危ないのかもしれません。次に山へ向かうとき、サドルバッグの中に小さく畳めるウインドブレーカーやレインジャケットを一枚。その安心感は、きっと想像以上です。安全に、そして楽しく走り続けるために、ぜひ装備を見直してみてください。

漫画「弱虫ペダル」をきっかけにロードバイクを購入し、今では数百キロにも及ぶ長距離を走り切る自己責任型自転車イベント「ブルべ」を嗜むクリエイター。手のひらサイズで軽量な輪行袋といったサイクリング向け便利アイテムを精力的に制作している。自身の経験を投影した漫画も数多く出版。全方向でサイクルライフを満喫している。
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