都心からほど近いグラベルの楽園 埼玉県・狭山湖グラベルコースを走ってみよう<1>

2025/05/19    

 東京近郊のグラベルとして有名な狭山湖。埼玉県所沢市~入間市にあるこの湖の周りには未舗装の周回路があり、グラベルロードで走るにはちょうど良い場所です。難易度もそれほど高くないので、グラベルデビューにも最適です。

「狭山湖」豆知識

 今回はその狭山湖グラベルを紹介しますが、走り出す前にちょっとした豆知識を。狭山湖というのは実は通称で、正式名称は「山口貯水池」といいます。狭山湖は天然の湖ではなく、人造湖なのです。管理するのは東京都水道局で、この狭山湖の水は東京都の水道水として供給されています。ちなみに隣接する多摩湖(正式名称:村山貯水池)も同じ目的で作られた人造湖。2つ合わせて「東京の水がめ」と呼ばれているそうです。

 なぜこんなところに人造湖が作られたのか。1909年、東京都(当時は東京市)は人口増加によって水道水の需要が爆発的に増えることを予測し、「多摩川から水をひいてこの人造湖に溜め、浄水場へ水を安定的に供給する」という計画を立てました。その結果、1927年にできたのが多摩湖。続けて1934年に狭山湖が完成しました。

 そう、この2つの湖に溜まっている水は多摩川を流れていた水なのです。ここから10kmほど離れた多摩川の小作取水堰や羽村取水堰で取水した水が、直径数mの地下導水路を通って狭山湖と多摩湖に流れ込んでいるのです。

 調べてみると羽村取水堰の標高は136m、狭山湖は122m。たった十数mの標高差で10kmもの距離を大量の水がスムーズに流れてくれるんでしょうか? 不思議です。ちなみに狭山湖と多摩湖は導水路でつながっており、一体運用されています。知らないことだらけです。

 狭山湖のバックグラウンドについての前置きが長くなってしまいましたが、そういう知識をちょっと知っておくだけでもライドの面白みが増すものです。

序盤は舗装路の湖畔サイクリング

 では、そろそろ走り出しましょう。今回は多摩都市モノレールで上北台駅まで輪行することを想定し、多摩湖自転車道鹿島休憩場という場所をスタート地点としました。ここは多摩湖の西南に位置する場所で、ここから多摩湖のダムの上を通って狭山湖へ。そして反時計回りに狭山湖をぐるりと一周する距離16.6kmのコースです。

 獲得標高は200m程度、未舗装路もさほど荒れていないので難易度は高くありません。未舗装路と舗装路の割合はちょうど半々くらい。序盤と終盤が舗装路で、中盤がずっとグラベルという構成です。ここからは写真とともにコースを案内します。

 ここが今回のスタート地点。いきなりトイレの写真ですみませんが、「多摩湖自転車道鹿島休憩場」というだけあって、トイレ外壁のタイルが自転車柄でかわいい。すっきりしてからグラベル遊びにでかけましょう。

 序盤の舗装路はこんな感じ。今回のコースは車道をほとんど通らず、自転車歩行者道を走ります。

 これは多摩湖。人造湖ということは、湖底は元々地上だったということ。多摩湖と狭山湖の底に、かつては農業を営む村があったそうです。

 スタート地点から2kmほど走ると、狭山湖へ。このゲートを通って、狭山湖の東側に位置する狭山自然公園へ入ります。右からでも左からでも大丈夫です。

公園内には舗装路がありますが、こんな小径もあるのでここで“ファースト・グラベル”を楽しんでも良いでしょう
山湖東端の道は気持ちの良いストレート
湖畔にはこのような案内板がたくさんあり、湖の歴史や作りについて知ることができます

 右下に見える西洋風の建物は取水塔。水をくみ取るための設備で、狭山湖には取水塔が2つあります。一つは浄水場に、もう一つは多摩湖とつながっています。狭山湖の取水塔は「日本一美しい」と言われているそうです。

今回のコース上にはこのような休憩ポイントもたくさんあります。ときどき止まって景色を楽しみながらのんびり走るのもいいでしょう

いよいよ本格的なオフロードへ

 狭山湖の北東端、3.5km地点からいよいよ本格的なオフロードに入ります。こんな風景の気持ちの良い砂利道が10kmほど続きます。

路面はこんな感じ。ハードなオフロードではないので、太いタイヤを履いたエンデュランスロードでも問題ないでしょう

 狭山湖の湖畔には自然豊かな森林が広がっており、狭山丘陵と呼ばれています。狭山丘陵は映画『となりのトトロ』のモデルになったとされており、この一帯は「トトロの森」としても知られています。メインのコースからは何本のも脇道(写真のようなシングルトラック)が伸びており、軽く散走してみるのも良いかもしれません。ただし、進入禁止の場所もあるので気を付けましょう。また、夏は蚊が多いので虫よけを忘れずに。

今回のコースは歩行者が多い場所。決して飛ばさないように、あくまで歩行者優先でお願いします
未舗装路の終盤にある六道山公園。これは標高192mの地点にある高さ13mの展望台で、富士山や新宿の高層ビル群などが見渡せます

グラベルの先に突如現れる古民家

 コース後半、良い感じの脇道を見つけて入ってみると……

 こんな場所に出ました。都立野山北・六道山公園の里山民家です。江戸時代の家屋を再現した萱葺き屋根の母屋、蔵、納屋、作業小屋、井戸などが建てられており、里山文化を体験できるイベントも行われているそうです。狭山湖グラベルのすぐ近くにこんなスポットがあるとは驚きです。

 母屋の中にも入ることができます。周囲には長閑な田舎風景が広がっており、のんびり休憩できます。

 最後はまた走りやすい舗装路でスタート地点に戻ります。お疲れ様でした。

 今回紹介したコースは一周16km強、獲得標高200mほどですが、多摩湖も周回したり、逆回りにしてみたり、トレイル探索などを加えてみたりすると色々なコースが作れます。グラベルデビューに最適な難易度低めなコースにも、親子で冒険できるアドベンチャーなコースにも、上級者も満足できる走り応えのあるコースにも変身させることができる狭山湖グラベル。狭山湖の成り立ちや役割、多摩湖・多摩川との関係などに思いを馳せながら、ぜひ走ってみてください

安井行生(やすい・ゆきお)

自転車ライター。大学在学中にメッセンジャーになり、都内で4年間の配送生活を送る。現在は様々な媒体でニューモデルの試乗記事、自転車関連の技術解説、自転車に関するエッセイなどを執筆し、信頼性と独自の視点が多くの自転車ファンからの支持を集める。「今まで稼いだ原稿料の大半をロードバイクにつぎ込んできた」という自称、自転車大好き人間。

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