Q,自転車のスピードは「過失」の重さに影響する?弁護士に聞く、自転車のルールの素朴な疑問<37>

2025/05/07    

 自転車事故の被害は速度によって程度が変わりますが、クルマと違い、速度計がついていない自転車で速度証明は難しい中で、スピードは過失の重さに影響するのでしょうか?

 自転車に限らず、移動する物体が持つ運動エネルギーは、速度の2乗に比例します。例えば、2倍の速度で走行している物体は、4倍の運動エネルギーを有することになります。そのため、速度が速い自転車が歩行者や他の自転車、自動車等に衝突した場合、予想外の衝撃が加わることになり、危険が増すことになります。

 また、当然のことながら、速度が速いとその分他の交通との接触を避けるための時間的余裕が少なくなることから、接触が起きやすくなる傾向がありますし、自転車のコントロールがより難しくなるので、右左折やカーブでの走行の際の危険も増します。

 実際に、道路交通法でも、自転車の運転者は、道路、交通及び当該車両等の状況に応じ、他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転しなければならない(道交法70条)と定めており、また交差点や右左折時での徐行義務(道交法34条、42条)、自転車の歩道での徐行義務(道交法9条)など、法令でも速度を落とすべき場合が多く定められています。

速度が高い場合は過失割合が加算される

 実際に事故が起きてしまったとき、自転車の速度が高い場合には、過失割合を加算するのが裁判実務での運用となっています。

 例えば、信号機がある交差点で、赤信号を無視して交差点に進入した自転車と、青信号で進入した自転車が衝突した場合、基本的な過失割合は、赤信号車が100%、青信号車が0%ですが、概ね時速20kmを超えた自転車に10%の加算修正を、時速30㎞を超えた自転車に20%の加算修正をすることとしています。

 この場合、赤信号で交差点に進入した自転車は過失割合が100%なので、過失割合の加算が考えられないようにも思えますが、赤信号車が時速20kmを超えて交差点に進入し、青信号車が時速30kmを超えて交差点に進入した場合、双方に過失加算を行った結果、赤信号車の過失割合が90%になるため、結論に影響することがあります。

 このように、おおむね時速20kmを高速度として、それによって交差点等で事故が起きた場合には、自転車側に過失を加算する運用がされています。ただし、自動車対自転車の事故の場合には、高速度であったとしても、加算される過失割合は5%程度とされています。

速度計の有無は関係ない

 結論としては、自転車の事故の際に速度によって過失割合が加算されるわけですが、自転車には速度計がついておらず、速度を認識できないのに理不尽ではないかという意見もありうるところです。

 確かに、速度計を自ら取り付けて安全運転を期するのであれば、それは推奨されることではあるにせよ、速度計がなくても特に交差点では経験上コントロールが容易な速度で進入することはできるはずで、速度計の有無と過失割合の加算とは関係がないものと言えるでしょう。

文:本田聡(ほんだ・さとし)

2009年弁護士登録。会社関係法務、独占禁止法関係対応、税務対応を中心に取り扱う傍ら、2台のロードバイクを使い分けながら都内往復20kmの自転車通勤を日課とする。久留米大学附設高校卒・東京大学法学部卒・早稲田大学法務研究科卒。

この人の記事一覧へ
  • HOME
  • HOW TO
  • Q,自転車のスピードは「過失」の重さに影響する? 弁護士に聞く、自転車のルールの素朴な疑問<37>
  • HOME
  • ルール/マナー
  • Q,自転車のスピードは「過失」の重さに影響する? 弁護士に聞く、自転車のルールの素朴な疑問<37>

編集部おすすめ記事

新着記事

新着記事一覧

ランキング

  • 週間
  • 月間
ランキング一覧

ロードバイクの人気記事

マウンテンバイクの人気記事

おすすめのタグ