2024.11.13
ロードバイクにとっては走る場所ではないグラベル(未舗装路)が、タイヤが太いマウンテンバイク(MTB)にまたがるとむしろ走りたい道に変わるから不思議なものです。そこで今回は国内で最も長い林道未舗装路として知られる徳島県の「剣山スーパー林道」に挑戦。そこに待ち受けていたのは、ロードバイクでは体験したことのない、乗り方もスケールもまったく異なる自転車の世界でした。
全長87.8kmの8割を占めるというグラベル目当てに、全国からオフロード車や二輪車愛好家が集う剣山スーパー林道。最近はグラベルロードの台頭も影響してか、サイクリストの姿も見かけるようになってきたそうです。本来のコースは上勝町を起点に西に向かい、終点の「高の瀬峡」までをつなぐ1ウェイですが、起点と終点が異なるため、今回は途中でスーパー林道から離脱し、舗装路を経由してスタート地点へ戻れる51.4kmの周遊コースを設定しました。
そのうち未舗装路の走行距離は17kmですが、それでも舗装路しか知らないロードバイク乗りにとっては未知の世界。体への衝撃や振動の影響、走り方等を知るには、ちょうどよい距離ともいえるでしょう。何より、特筆すべきは獲得標高。50kmという総距離は経験豊富なロードバイク乗りにとってはさほど難しい距離ではありませんが、50kmで約1900mという獲得標高はロードではあまり体験しないプロファイルです。
拠点としたのは標高約800mの場所にあるキャンプ場「岳人の森」。現地までも九十九折が続くハードなヒルクライムコースで、途中、グラベルロードでアクセスしている健脚サイクリストの姿も見かけましたが、脚を温存するためにも「岳人の森」まではクルマでアクセスするのがおすすめです。
「岳人の森」から剣山スーパー林道の入り口まで、さらに4kmほど舗装路の上りが続きます。ロードバイクに比べて車体が重い反面、ギア比が圧倒的に軽いMTB。坂道でもペダルをくるくる回せるので疲れ知らず!…と思いきや、その分なかなかスピードがあがらず、その上タイヤが太く路面の抵抗も大きい…。速く上ることに慣れているロードバイク脳が、ペダルの軽さと速度域の違いに戸惑います。
舗装路を標高1000mまで上り、下った先にある剣山スーパー林道の入り口に到着。まずは880m地点から上り下りを繰り返しつつ1530m地点まで約10km、700mを一気に上ります。それにしても林道のとりつきまでもなかなかハード。これから始まるアップダウンの過酷さを予感せずにはいられません。
いよいよグラベルライド開始です。グラベルといってもクルマが走行している道だけあって路面が踏み固められており、ラインを選べばスムーズに走ることができます。最初は石が細かい、いわゆる「ザレ場」が続きますが、徐々に石のサイズが大きくなり、タイヤがサイドカットされてしまいそうな鋭利な石もゴロゴロ現れ始めます。
序盤は緩やかだった斜度も徐々に一定でなく、時折10%超の上りも出現するように。グラベルでいったん脚を止めると再スタートが難しいので、トラクションが抜けないよう集中しながらひたすらペダルを回します。舗装路では「軽い」と思えたギアも、バランスをとりながら走るグラベルの坂ではちょうどよく感じられます。
ただ、「ギアがちょうどよく感じられる」ということは、すなわち「進んでない」ということ。気づくと時間は過ぎていますが、1時間で進んだ距離はなんとたったの、5km?! これまたロードバイクとは異なる時速の体感に脳が混乱。「太いタイヤでがんがん上れると思ってたのに…」と予想外の事態に愕然としますが、一方で漕ぐことだけに全神経が集中しているせいか、いわゆるマインドフルネス(瞑想)のような状態に次第に心地良さも。「残り何km~?」という、忍耐勝負の舗装路ヒルクライムとは違った面白さに気づき始めます。
コース上、唯一の休憩スポットとなる「ファガスの森 高城」に到着したのはスーパー林道の入り口から6km、所要時間はおよそ80分。スタートからの通算距離も10kmほどなので、お茶を飲む程度の小休止を想定していましたが、全身を使ったライドは想像以上の疲労感。しっかり休憩をとることにしました。
ファガスの森の人気メニューは、店主自らが捕った鹿肉がゴロゴロ入った「特製阿波地美栄 鹿肉カレー」。味はもちろん、並盛りなのに大盛りのような盛りの良さが人気です。さらに100円追加で大盛りにできるほか、鹿肉の竜田揚げや川魚のアマゴを使った釜飯等のメニューもあるのでおなかを空かせて目指すのもありかも? まだ先の長い行程に備えて、ここで美味しい“燃料”をたっぷり補給しておくことをおすすめします。
おなかを満たし、回復したら次は「徳島のヘソ」と呼ばれる絶景スポットを目指します。ファガスの森から約3.7kmの道のりですが、細かなカーブが連続する少々テクニカルな上りが続きます。
「徳島のヘソ」は “ヘソ”というだけあって、そこは徳島県のド真ん中。普段は深い霧が立ち込め、視界ゼロになることも少なくないそうですが、この日は見事な山並みが見えました。まるで登山をしているかのような絶景。舗装路経由の頂上とは一味違う、MTBならではのスケールの大きなご褒美です。
ここまで来ればコース上の“てっぺん”に来たようなもの。このあとも細かいアップダウンは続きますが、残り約7kmのスーパー林道区間は下り基調に入ります。
ただ、下りだからといって気が抜けないのがグラベル。不安定な路面で加速がつくとバランスがとれずに転倒してしまったり、急ブレーキをかけてスリップしてしまったり、むしろ上りより落車の危険が高まるため、後輪のブレーキを駆使して速度調整しながら慎重に下ります。
上りに続き、下りでも速度は稼ぐことはできませんが、これがMTBのペース。難易度が高い場所を走るため、スピードよりもバイクをコントロールしたりスキルの上達を楽しむ走り方にすっかり慣れてきました。
「徳島のヘソ」から約6km走ったところにある川成峠。ここを過ぎたところで舗装路にエスケープする道があるので、そこでスーパー林道から離脱します。
わずか17kmのグラベルを走っただけなのに、久しぶりな感じがする舗装路。滑らかな走り心地に全身の緊張がほぐれるようですが、どこか物足りない感じ(?)がするから不思議なものです。
川成峠から一気に16km、約925mを下り、出発地点に向けて再び10km、660mほどを上り返します。路面のストレスからは解放されますが、トラクションがかからない舗装路の下りではさらにスリップが起きやすくなりますので、慌てて急ブレーキをかけることのないよう減速しながら下りましょう。
最後の峠を上り切ったら、出発地点の「岳人の森」まで残り2.3kmのダウンヒル。舗装路ではありますが路面のコンディションがあまり良くなく、勢いよく下っているとうっかり窪みにはまってコントロールを失うこともあるので気を抜かないようにしましょう。
出発地点の「岳人の森」に到着。グラベルと、激しめのアップダウンの連続に50kmとは思えない満足感です。全国屈指のスーパー林道といわれるだけあって、道の付き方も含めなかなかの秘境感でしたが、ロードバイクでは決して踏み入れることのなかった新境地。道なき道をいくような冒険感がクセになりそうです。今回はグラベル初体験ということもあり、一周できる50kmのコースを走りましたが、いつかは87.8km全走破にチャレンジしてみたいものです。
なお、悪天候によっては土砂崩れ等が起きやすく、台風等で大雨に見舞われた場合、場所によって通行止めになることもあるそうなので、訪れる際は最新の通行状況を「とくしま林道ナビ」(https://rindonavi.com/)でチェックすることをおすすめします。
アウトドアメーカーの広報担当を経て、2015年に産経デジタルに入社。5年間にわたって自転車専門webメディア『Cyclist』編集部の記者として活動。主に自転車旅やスポーツ・アクティビティとして自転車の魅力を発信する取材・企画提案に従事。私生活でもロードバイクを趣味とし、社会における自転車活用の推進拡大をライフワークとしている。
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