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Interview インタビュー

パリ・ブレスト・パリ日本人女性“最速”のPEKOさん 漫画から便利なサイクルアイテムまで生み出すクリエイター

PEKO(ぺこ)

漫画「弱虫ペダル」をきっかけにロードバイクを購入し、今では数百キロにも及ぶ長距離を走り切る自己責任型自転車イベント「ブルべ」を嗜むクリエイター。手のひらサイズで軽量な輪行袋といったサイクリング向け便利アイテムを精力的に制作している。自身の経験を投影した漫画も数多く出版。全方向でサイクルライフを満喫している。

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 スポーツ用自転車を始めるきっかけは近年多様化しており、アニメや漫画から趣味として始める人も多くなりました。今回インタビューしたPEKOさんもその一人。今では走るだけではなく、フランスを発祥とする自己責任型超長距離ライドイベント「ブルべ」(※)を題材にした漫画を描いたり、サイクリストが考える「あったらいいな」を具現化した製品開発を行うなど、どっぷりと自転車沼に浸かった“スゴイ人”です。

※ブルべとは
制限時間内で定められたルートを走り切ると「完走」が認定される超長距離の自転車イベント。一般的なサイクリングイベントとは異なり、ノーサポートでアクシデント時の対応等自己責任で行う必要がある。

自身の経験を題材にした自転車漫画も発行しているPEKOさん※本人のご希望で顔は非公開にしています

ロードバイク購入のきっかけは『弱虫ペダル』

―ロードバイクに乗り始めたきっかけを教えてください。

 2012年の8月『弱虫ペダル』にハマったことをきっかけにロードバイクを買いました。今も『弱虫ペダル』が大好きで、X(旧Twitter)のアイコンは、自分で描いた坂道くんのイラストです。

―どんな自転車を購入したのですか?

 当初は、メーカーに関わらず赤いロードバイクがほしいと思っていたので、たまたま出合ってかっこいいと思ったジャイアントの「DEFY」を購入しました。その1年後、交通事故に遭い保険金が下りたことをきっかけにカーボンバイクにグレードアップすることを決意し、別ブランドの赤のロードバイクに乗り始めました。

 今、乗っている自転車を購入したのは、2019年のパリ・ブレスト・パリ(以下、PBP)に出場する前です。パーツが一部劣化していて、このままPBPに出場するのは厳しいと当時、通っていたショップのスタッフの方に言われました。ただ、そのショップは赤いロードバイクがなく購入を躊躇していたところ、「実はあるんですよ」と紹介されたことが乗り換えたきっかけです。

 しかし、即決したわけではありませんでした。というのも、表面の仕上げがマット加工ではなくグロス加工のバイクがほしかったからです。すると今度は「グロス加工にできますよ」と。バイクの塗装などを手掛ける店で、グロス加工にしてくださいました。世界に一台の仕様です。もう4年、乗っています。

※パリ・ブレスト・パリ
1891年から開催している世界最古の自転車イベント。パリをスタートして、ブルターニュ半島のブレストまで片道600kmを往復し、約1200kmを走り切るもの。日本からの参加者も年々増加しており、ブルべ(長距離を走るイベント)の最高峰として認識されている。

誰もが英雄になれる「パリ・ブレスト・パリ」

―2012年にロードバイクに乗りはじめ、19年にPBPに出場されるわけですが、どんなきっかけがあったのでしょうか。

 ロードバイクに乗り始めてから4年ぐらいは、ブルべにもレースにも出場していませんでした。転機となったのは2016年。禁煙をしようと決意したんです。ただ、すぐに心が折れて禁煙を辞めようと思いました。

長距離にのめり込んでいき、ブルべの最高峰にも挑戦した

―禁煙がなぜ、PBPに繋がるのですか?

 私、変に頑固なんです。自分で作ったルールを破るのが嫌で、何かを達成したら禁煙を解除しようと決意しました。最初は富士ヒルに挑戦し1時間半以内に走ろうと思ったものの失敗。ヒルクライムに向いていないと思いました。逆に長距離はどうだろうと思い、ブルベのSR(1年で200km、300km、400km、600kmの4つのイベントを完走して得られる認定)を獲ろうと思ったところ初回で獲れたんです。ただ、周囲の人から「SRを獲るのは簡単だからそれぐらいで禁煙を辞めるのはどうなのか」と言われ…(笑)。ならば1000km、次は1500kmと徐々に距離を伸ばしていったところ、だんだん禁煙がどうでもよくなり長距離に目覚めました。その後、PBPの存在を知り2019年に走ることになったんです。

―すごい経緯ですね。改めてPBPについて教えていただけますか。

 PBPは元々、ツール・ド・フランスより前から行われていたレースでしたが、途中からブルべ形式に変わりました。理由は、危険すぎるからだそうです。出場者数は約7000人。他のブルベは多くても400人なので桁が違います。

 また、ブルべは、距離に応じて制限時間が決められています。PBPは距離1200kmなので90時間に設定されていますが、PBPのみそれより短い84時間と80時間が設定されています。恐らくレースの名残りなのでしょう。主に80時間に出場する人はタイムを狙う人で、40時間でゴールするような人たちです。

―実際に走るといかがですか?

 コース上を走るだけで手を振ってくれたり、子どもがハイタッチを求めくれたり、英雄のように扱ってくれます。PBPは距離や出場人数、現地の反響などあらゆる面で、世界最高峰のブルベなのだと実感しますね。

―その分、完走するのも大変そうですね。

 長距離で大事なのは、メンタルだと思います。気持ちを強く持たないと、残り距離数を目にした時「まだ走るの…」と沈んでしまうでしょう。また、計画性や対応力も求められます。夜、食品が買える場所がなかったり、PBPのためにお店を開けていてくれたとしても、先に到着した人が既に購入し尽くし、ほしい物がなかったりということも少なくありません。

―日本人は何人ぐらい参加しているのですか?

 2023年の出場者は300~400人ぐらいでアジア人の中では多いものの、完走率はあまりよくありません。ちなみに、リタイアをして撤退する時も自己責任。地元の方が車に乗せてくれたり、家に泊めてくれたり、リタイア者を募ってみんなで車を借りて最寄り駅までいったり。TGV(フランスの高速鉄道)が満員で自転車を乗せられない時もあります。

―過酷ですね。

 今回、私が宿泊した宿にはPBP出場者が6人いましたが、そのうち4人がリタイア。リタイア者の一人は骨折してしまったので、スタッフが病院に連れて行ってくれたり、警察が自転車を乗せて行ってくれたりという状況でした。

 ただ、それでもPBPは魅力的です。さまざまな国の人が参加し、現地の人と交流もできます。休憩所では疲れきって横になっている人もいますが、その中には普段、企業でバリバリ働いている方もいらっしゃると思うんです。そうした光景をみる機会は中々ないですよね。あらゆる意味で刺激的。出場者それぞれにドラマがあるはずです。

―長距離の魅力はどんなところですか?

 自分と競える点です。レースは他人と順位を競うので、どんなに頑張ってもそれが評価されない気がするんです。私自身、人は人、自分は自分という考え。ブルベは完走したら認定がもらえるので、競う相手は自分です。前回の時間より短い時間でゴールしようと、目標が立てられます。

オリジナル輪行袋を製作

―PEKOさんは走るだけでなく、オリジナルの輪行袋やパンツを製作されていますよね。

 実は輪行袋の製作は、ブルべを始める前から行っていました。旅行にロードバイクを持って行こうと考えていたところ「輪行袋が必要だよ」と教えてもらったんです。しかし、すぐに作ったわけではありませんでした。ロードバイクやヘルメットなどを一式揃えた時点でかかった金額が20万円ぐらい。それまでロードバイクを知らなかった私からすると、20万円は結構な支出です。そこからさらに輪行袋代がかかるのは辛いなと…。しかも大きいサイズしかなく、購入を迷っていました。

手のひらサイズの輪行袋や軽量パンツなど“あったらいいな”を製品化している

 ちょうど同じ頃、サイクリングとは関係なくカンボジアに旅行に行ったんです。滞在中、トゥクトゥクに乗ろうとしていたところ、近くに法外な値段でトゥクトゥクに乗せられようとしている日本人がいました。困っている様子だったので「この人は私たちのトゥクトゥクに乗るから」と助けたところ、たまたま自転車関係の職業に就いている方だったんです。

―そんなことってあるのですね。

 当時、職業までは知りませんでしたが、子どもの頃からロードバイクに乗られていることがわかりました。そこで、「輪行に挑戦しようと思っているけれど、輪行袋を自分で製作してよいものなのか。素人が作って違反にならないのだろうか」と相談したところ、「昔、競輪で輪行が解禁されたとき母親に作ってもらったので、問題ないと思う」とアドバイスをいただいたんです。

―PEKOさんの輪行袋の原点ですね。

 帰国して早速、輪行袋を制作し、欲しかった小さいサイズの輪行袋で旅をしていたところ、友人から「いいね。私のも作ってよ」と言われるようになりました。オーダーの数も増えてきた頃「もっと欲しい人がいるのではないか」と考え、当時よく出ていたコミケ(コミックマーケット)で「売ります」とXで告知したところ、想像を超える反響がありました。需要があるならばと、本腰を入れて製作するようになり今に至ります。

―自分用だったものがどんどん広がっていったのですね。

 ハーフパンツもそうです。輪行をしていると荷物が多くなってしまい、必要な物を積めなくなってしまうことってありませんか? たとえば、パンツも畳むと結構大きくなってしまいますが、ホテルでジャージを洗う時などは、やはりズボンを穿きたい。ならば軽い生地で作ろうと思ったんです。DISCローター保護軸も同様の経緯で製作しました。

 これまで販売したアイテムは「こんな商品があったらいいのに。でも売られていない。じゃあ作ろう」という流れで誕生した商品ばかりです。

―元々、裁縫が得意なのですか?

 全くそんなことはありませんでした。DIYなど自分で改造するのが好きなのでミシンは扱えましたが、直線縫いしか知りませんでした。ただ、輪行袋は直線縫いが多いので、問題なく作れましたね。また、製作を続けていると、布屋さんや元々パタンナーをされていたアルバイトの方からアドバイスをもらうこともあり、徐々に知識が増えていきました。

 ちなみに生地は石川県の紡績工場で作られているものを使用しています。耐久性に関しては「自分が使っているから良い」と(笑)。「あれだけ乗っている人が使っているんだ」と知ってもらえば信頼度も上がると思います。私自身もより長い距離を走りたいですしね。自分で作った商品を使って走るのは一石二鳥です。

―多彩ですよね。それに加え漫画も描かれていますものね。

 そうなんです。昔は『弱虫ペダル』好きが高じて、二次創作作品を描いて楽しんでいました。60冊以上出したのですが、さすがに書くことがなくなってきたタイミングで、「自転車の漫画を描いてみれば」とアドバイスをもらったんです。試しに一冊出したところ評判がよく、今では半年に1回ペースで、私自身が題材になった作品を出しています。

多くの人に輪行を楽しんでほしい

―近い将来の目標を教えてください。

 今、SNSを通して活動を知っていただく機会が多いのですが、サイクリストの中にはSNSをほとんどしない方もいらっしゃいます。ブルベを走っていても、まだまだ自分の活動や商品が知られていないと実感することも、少なくありません。

これからも自身の体験をもとにした作品を生み出していきたいと熱意を語ったPEKOさん

 以前、「夏なのでダブルボトルにしたいけれど、輪行袋のサイズが大きすぎるのでボトルを1本諦めた」と話すサイクリストに出会ったことがあります。もちろん輪行袋それぞれに特長があり、好みのアイテムを使うのが一番ですが、小さめの輪行袋があることを知っていただくだけで、選択肢が広がると思います。

 なので、これから輪行を始めようと考えている人を含め、より多くの人に今の活動や「こんな商品もあるんだよ」といった情報を届けたいですね。

―輪行の認知度も上がってきていますからね。

 先日、インターネットにサイクルトレインの記事が掲載されていてコメント欄に「おばあちゃんの家がある場所は交通の便がよくないけれど、輪行で行けば滞在中も困らない」といったことが書かれていました。まさに二次交通のような形で、すごくいいなと思ったんです。サイクリストが、より楽しく便利に自転車に乗る手助けができれば嬉しいです。