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法律面から見た車と自転車との関係とは

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スペインの自転車事情<1>
法律面から見た車と自転車との関係とは

 ヨーロッパの西の端・イベリア半島の大半を占めるスペイン。バレアレス諸島やカナリア諸島といった離島はあるものの、基本的には地続きでヨーロッパの他の国まで移動できてしまう国である。そうした地理的な条件のため、他のヨーロッパの諸国と同様に、スペインで趣味やプロの仕事として自転車に乗る人は非常に多い。2019年のデーターでは王立スペイン自転車連盟に加盟するサイクリストの数は7万4768人。2年前と比べると約3000人増加している(*1) 。同時に、この国でサイクリストが巻き込まれる交通事故のニュースを耳にすることは珍しいことではない。最近4年間の平均では、毎年約50人のサイクリストが事故に巻き込まれ、命を落としている(*2)。そうした状況からスペインではサイクリストの安全を守る動きが活発になっており、特にこの1年ほどは様々な法律が制定・施行されている。(Photo & Text by Yukari TSUSHIMA)

サイクリストを守るスペインの法律

 この数年でサイクリストを守るための法律が急速に施行されているスペインであるが、その中でも最も有名なものが「Distancia Lateral 1.5m(ディスタンシア・ラテラル・1.5m)」と呼ばれるものであろう。

 これは、道路で車が自転車を追い抜くときには、自転車と車の横の車間距離を最低でも1.5mは開けなくてはならないというものである。実はスペインでは、このように車のドライバーに自転車との車間距離を1.5m以上取ることを求める運動が数年前から存在してはいた。しかし、2022年の3月に施行された法律により、この「Distancia Lateral 1.5m」がドライバーが守るべき「義務」として記載されるようになった。また、この規定を守らなかった車のドライバーには200ユーロの罰金と免許の6ポイント減点というペナルティが与えられる(ちなみにスペインで一番最初に免許を所得する時点では、12ポイントが与えられている)。

 また同じ2022年の3月に施行された法律では、車がサイクリストを追い越すときには法定速度から時速20kmの減速をすることも規定されている。つまり、もしも法定速度が時速70kmの道路で車がサイクリストを追い越すときには、車は時速50kmまでスピードを落とす必要があるということである。このサイクリストを追い抜くときの減速規定は、ヨーロッパ諸国のなかでもスペインが一番最初に取り入れた規定である。

 この2つの規定により、スペインは、車は自転車との横の車間距離を1.5m以上保ちながら、同時に時速20kmの減速をした上でサイクリストを追い越す必要がある、ということになる。なお、スペインでは自動車を自転車専用レーンに駐車することも罰金の対象となる。この場合、罰金は200ユーロとなっている(*3)。

自転車専用レーンに車をとめると、罰金刑となるスペイン
 こうしたサイクリストを守る法律を制定、施行する際にスペインで中心的な役割を果たす団体が、「ディレクション・へネラル・デ・トラフィコ 」(Dirección General de Tráfico:通称DGT)という政府機関である。ちなみにこのDGTは、スペインでサイクリストが道路を走るときに守るべき規定も定めている。

スペインでサイクリストが守らなければいけないこととは

 2021年の秋にDGTはスペインでサイクリストが守るべき規定を明らかにした(*4)。その一番最初に書かれていることが、「自転車走行中の携帯電話の使用禁止」がある。このことは、無線イヤホンを携帯電話につないだ状態で話したり、音楽を聞いたりする行為も禁じている。この携帯電話の使用規制はかなりしっかりと運用されており、プロの自転車選手のあいだでも、トレーニング中に携帯電話を使用し、罰金を支払った選手もいる。ちなみに、この場合の罰金は200ユーロである。

 また、自転車の「飲酒運転」にもスペインは厳しく対応している。自転車で飲酒運転として検挙されると、500ユーロから1000ユーロの罰金を支払うことになる。加えて、通常の道路ではサイクリストは2列で走ること、そしてカーブや細い道では1列で走ることが許されている。しかし、こうしたことを守らずに無秩序に自転車で集団で走ると、サイクリスト側の交通違反となり、100ユーロの罰金を支払うことになる。

 サイクリストを交通事故から守る法律が整備されているスペインだが、同時にサイクリストが守るべきことも、明確に法律で規定されているのである。

サイクリストの命を守るための法整備

 この記事の前書きで、最近4年間は毎年50人ほどのサイクリストが命を落としていると述べた。しかし、2020年のデータによると、この年サイクリストが被害者となる事故が5499件発生し、そのうち555件は被害者が入院したとされている(ちなみにこのデータは、スペインの人口の16%以上が住むカタルーニャ地方を除いた数値である*5)。

スペイン長距離バス業界最大手であるALSAのバスに貼られているステッカー。「この位置はこのバスの死角です」とサイクリストにもわかる形で表示されている

 スペインはこのようにサイクリストが安全に、そして安心して走ることができるような環境を法律面から整えている。しかし、サイクリストが事故に巻き込まれるニュースを聞くことは珍しくはない。また、サイクリストに対して暴力的な運転をする攻撃的なドライバーが未だに存在するのも、スペインをはじめとするヨーロッパにおける現実でもある。

 「サイクリストの命を守るための法整備」が、スペインの道路法のこの数年目指している方向性と言えるのではないだろうか。

  【出展・引用】

*1 https://www.cmdsport.com/ciclismo/actualidad-ciclismo/la-mujer-impulsa-auge-ciclistas-federados-espana/

*2 https://elpais.com/espana/2022-05-12/el-drama-de-los-200-ciclistas-muertos-en-accidentes-en-cuatro-anos-en-espana.html

*3 https://www.elcomercio.es/sociedad/multa-por-aparcar-en-carril-bici-20220214142853-nt.html

*4 https://revista.dgt.es/es/educacion-formacion/reportajes/2021/0930-Normas-

*5 https://elpais.com/espana/2022-05-12/el-drama-de-los-200-ciclistas-muertos-en-accidentes-en-cuatro-anos-en-espana.html