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プロの自転車選手が実践していた減量術

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自転車ダイエットの極意<5>
プロの自転車選手が実践していた減量術

 私はかつて、シマノレーシングさんの栄養サポートを担当させていただいておりました。実はプロアスリートチームのサポートはシマノレーシングさんが初めてで、栄養学の知識はあってもスポーツの現場では教科書通りでないこともあり、度々面喰い、そしてさまざまなことを学ばせてもらいました。

Photo: Hidenori NODERA

 特に印象的だったのは、レース中のコーラ。「炭酸ジュースは控えましょう」と教わってきたのに、クーラーボックスにはコーラが入っていて、レース中に飲む選手も…。栄養士としてかなり焦りましたが、選手やスタッフの方に自転車ロードレース界でコーラが飲まれている背景を教えてもらったり、実際に選手が飲んでいる状況を見て理解・納得したのでした。

 また、ステージレースでチーム帯同をさせてもらっていた時のこと、補食の買い出しへ行った際に私が何気なくカゴに入れたヨーグルトを見て、「それ、低脂肪ですか?」と選手からチェックが入ったことがありました。その時の選手は脂質を極力控えて炭水化物をたっぷりとるという食事内容でした。

 食事の量は「体の大きいラグビー選手より多いのでは!?」と思うほどとても驚いたのですが、さらに間食でも果物や和菓子などを食べていて、「このスリムな体のどこに入っていくのか」と衝撃を受けたことは忘れられません。選手の皆さんから聞いた「僕達は食べられなくなったら終わりです」「ハンガーノックになってしまってからではどうしようもない」などといった話は、教科書では教わらない名言です。

Photo: Hidenori NODERA

パフォーマンスは落とさずに体重を落とす

 さて、そんな「走るために炭水化物をたくさん摂取する」というプロの自転車選手の減量法を、かつてシマノレーシングでキャプテンも務めた木村圭佑氏(KEIcycles)に伺うことができました。

 「現役時代は、少し体重が増えてきたら夕食時の炭水化物を少し控える(全く食べないわけではない)けれど、基本的には炭水化物もたんぱく質も脂質(良質の)もバランス良くとるように意識していました」─。

 正直なところトンデモない減量法を期待していたのですが、プロの自転車選手ともなると少しの体重の変化も察知して日々微調整するのでしょう。「栄養素をバランス良くとる」ことは栄養学のベースとも言えますし、コンディションを崩さない減量法でもあるので、さすがの一言です。もちろん、その他の方法で減量をされているプロの自転車選手もたくさんいらっしゃると思いますが、私自身が考えるベストの減量法も「栄養バランスを保ちつつエネルギー摂取量を抑える」ことです。

 しかし、減量するとなると「夕食で米は食べません」と言うアスリートが後を絶ちません。米は主食になるので、それを食べないとなると栄養バランスは崩れてしまいます。それだけでなく、夕食に主食(炭水化物源)を抜いてしまうと、翌朝かなり血糖値が下がっていると推測されます。その状態のところに朝食で炭水化物源をとると血糖値が急上昇して、インスリンが分泌されます。そうすると、せっかく体脂肪を減らして減量しようとしているのに、逆に体脂肪を蓄えてしまうことになり本末転倒です(詳しくは、第2回「サイクリストにとって糖質は敵か?味方か?」をご参照ください)。

 ですので、減量中の夕食でも主食(炭水化物源)を抜くのはNGなのです。パフォーマンスやコンディション維持を考えずに、ただ体重を減らすのであれば食べなければ良いのですが、選手をはじめ一般の方も「不健康になってもいいから体重を減らしたい」という方はいないと思います。「パフォーマンスやコンディションは落とさないけど、体重は落とす」ためにも、栄養バランスは大切です。

Photo: Hidenori NODERA

減らすべきはエネルギー

 しかし、栄養素をバランス良くとっても「減量するには何かを減らさないといけない」と思うはずです。その「何か」は、“ご飯”や“糖質”ではなく、エネルギー(カロリー)です。

 体重の増減には、エネルギー収支バランスが大きく関わります。エネルギー収支バランスとは、エネルギー摂取量(食事量)とエネルギー消費量(活動量)の差です。体重が増えるということは、活動量より食事量が多いということですし、体重を減らしたいのであれば活動量より食事量を抑えることになります。

 巷には「これをとれば痩せる」とアピールする食品やサプリメントが数多く出回っています。もしかしたら少しは減量の手助けになるかもしれませんが、結局はエネルギー収支バランスがマイナスになっていないと体重は減らないでしょう。

 現在の食事内容でエネルギー収支バランスがどうなのか?を簡単に知る方法は、体重を測ることです。数値はあくまで目安ですが、体重が全然変わらないということは、エネルギー摂取量とエネルギー消費量が同じと考えられます。減量が目的なのであれば、食事量を減らすか活動量を増やすことになります。

 ただ、ここで感覚的に食事量を減らすと、減らし過ぎて空腹に耐えられなくなったり、疲労感が抜けず体調不良になることも…。そこで私が減量サポートをする時は、リバウンドをしない、そしてコンディションを崩さないことを考慮して、1日あたり「マイナス500kcal」と設定します。がしかし、そもそも一日にどれくらいのエネルギーが必要なのかを知らないとマイナス500kcalのしようがないので、一日に必要なエネルギー量の算出方法をご紹介いたします。

 一日に必要なエネルギー量がわかれば、1日3食としてそれを3で割ると1食あたりのエネルギー量がわかります。レストランのメニューやコンビニ商品のラベルにはエネルギー量(または熱量)が記載されているので、1食あたりのエネルギー量と比較してみてください。意外と多くとっているかもしれません。

 今回のテーマである「減量法」ですが、さまざまな情報が飛び交っており、特にトップアスリートが実践した方法は注目を集めてブームを巻き起こすこともあります。しかし、そもそも個人差がありますし、トップアスリートを取り巻く環境はある種特別ですので、それらも含めて全ての人に合うのかというと、私は少し難しいのではないかと思っています。その点、今回ご紹介した減量法は誰でも実践できて、安全な方法です。本気で減量を望んでいる方は、ぜひチャレンジを!

文: 河南こころ(かわなみ・こころ)

管理栄養士。女子フィギュアスケートバンクーバー五輪銀メダリスト、男子バレーボールVプレミアリーグ所属チーム、ラグビートップリーグ所属チームなどを栄養面からサポート。ロードレースチームの「シマノレーシング」を担当していた経歴をもち、現在も「シマノ鈴鹿ロードレース」で開催される栄養講座の講師を務めている。自転車ロードレースの主要な国内レースは常にチェックしているというロードレースファン。現在はFC今治のサポートの他、トレーナー養成学校でスポーツ栄養学の講師をしたり、栄養学を学ぶ学生のコミュニティ「COMPASS」のアドバイザーとして後進育成に注力している。

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