2023.8.1
何段ものギアや変速機を複雑に操作して走るロードバイクは、動力伝達をチェーンに任せて前に進みます。しかし、このチェーンが歯車から落ちてしまったら大変。前に進まないどころか、チェーンが絡まって変速パーツやフレームを傷つけてしまうこともあります。そんな時に、“チェーン落ち”状態を直す方法と、気をつけた方がいい手順をご紹介します。
変速機を備えたスポーツ用自転車は、後ろの変速機(リアディレーラー)内にバネを有しており、チェーンが常にピンと張るようにテンションがかかっています。もし、チェーンがフロントのチェーンリング(歯車)の左右どちらかに落ちてしまって際にも、リアディレーラーにはテンションが直前までかかっている状態でした。つまり、チェーンを再びチェーンリングにかける際には、チェーンを引っ張りながら正しい歯に戻す必要があります。これは結構至難の業です。
その際には、リアディレーラーのテンションを片手で緩めて、もう片方の手でチェーンを戻すようにしましょう。リアディレーラーにはプーリーと呼ばれる小さな歯車が2つ備わっています。その下側の歯車を固定しているケージを内側に押すとチェーンのテンションが緩み、チェーンを歯へと戻しやすくなります。
この時の注意点としては、両手を使うので、自転車は安定した位置に固定するか、立てかけることを心がけましょう。また、チェーンの油や汚れで手が真っ黒になってしまうため、使い捨てのゴム手袋を用いると作業がしやすいはず。出先でも使えるよう、サドルバックなどに備えているサイクリストもいます。
恐らく、チェーン落ちの状態で一番多いケースです。山道の登り口などで、軽いギアにしようと前の変速機(フロントディレーラー)を操作した際、チェーンが内側に外れてしまった経験を持つ人は多いのではないでしょうか。
こうした場面に遭遇したら、まずは焦らずに安定して自転車を立てかけられる場所を探しましょう。不用意にペダルを回したり、変速機を操作しないことが重要です。チェーンがない状態でペダルを回すとトルクをかけられず、転倒する場合もありますし、チェーンが暴れてフレームを傷つける恐れもあります。
外れた状態から復帰するには、自転車の頭を右側にしておき、左手でプーリーケージを向かって右側に押し、テンションを緩めます。そして、右手で脱落したチェーンを掴み、元の内側の歯の位置(インナー側)にセットします。
注意したいのが、フレームの形状によってはインナーのチェーンリングとフレームとの間にチェーンが挟まってしまって外れなくなってしまうこと。正直なところ、この状態に陥るとフレームへの傷は多少なりとも覚悟した方が良いでしょう。ゆっくり、慎重にチェーンを引き上げてください。傷を防止するために、あらかじめフレーム側に保護シールなどで補強している場合もあるので、心配な方は検討してみても良いでしょう。
チェーンがフロントのチェーンリングの外側に外れている場合から直す場合、フロントディレーラーは外側の歯の位置(アウター側)にセットしましょう。左手でプーリーケージを押し込んでテンションを緩め、右手でアウターのチェーンリングに沿わせるようにチェーンを半分ほどかければ、あとはペダルを持ってクランクを回すと元の正しい位置へと戻ります。
チェーンが内側に落ちるケースよりは注意することは少ないとは思いますが、場合によってはクランクに傷が入る可能性もあるため、焦らずゆっくりと作業することが大事です。
走りながら落ちているチェーンを直す方法もあります。チェーンが内側に落ちている場合には、フロントディレーラーをアウター側にしてゆっくりペダリングをしてチェーンが歯にかかるのを待ちます。また、外側にチェーンが落ちた際には、フロントディレーラーをインナー側にセットして、同じくゆっくりとペダリングすると直る場合があります。
プロの選手や上級者が時たま上記の方法でリカバリーすることもありますが、フレームや変速機に傷がつくことがほとんどですし、最悪の場合に壊れたり、フレームを折ってしまうことにも繋がりかねません。可能であれば安全で安定した場所に停止し、落ち着いて作業をすることをお勧めします。
チェーンはリアディレーラーがテンションをかけることで、歯に噛み込み、脱落しづらい構造にはなっています。しかし、変速機のセッティングがずれていたり、完璧に調整していても段差などの衝撃で脱落してしまうこともあります。
しかし、メンテナンスをマメに行い、正しいセッティングができていれば、チェーンの脱落リスクは減らすことができます。ディレーラーの調整は繊細な作業を要しますので、知識や経験がない方は迷わず近くのプロショップで作業をお願いすることをお勧めします。なお、今回は触れませんでしたが、リアの歯車(スプロケット)側でチェーンが内外どちらかに落ちてしまう場合は、ほぼ100%変速機のセッティングがズレているか、ハンガーと呼ばれるフレーム側のパーツが歪んでいると言っても過言ではありません。すぐにプロのメカニックやスタッフに見ていただいた方が良いでしょう。
10代からスイスのサイクルロードレースチームに所属し、アジアや欧州のレースを転戦。帰国後はJプロツアーへ参戦。引退後は産経デジタルが運営した自転車専門媒体「Cyclist」の記者、編集者として自転車やアイテムのインプレッション記事を担当した。現在はYouTubeチャンネル「サイクリストTV」でナビゲーターを務めるほか、自治体の自転車施策プロデュース業務を担当。
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