2021.1.19
これまで自転車通勤のノウハウを紹介してきましたが、今回から全3回に渡って自転車通勤の注意点を弁護士の本田聡氏が解説します。連載第6回は「自転車通勤トラブルに備えて気をつけるべきこと」をテーマに、自転車通勤を始める前に知っておきたい心構えについてお伝えします。
自転車通勤をする場合、勤務先によって一定のルールが設けられていることがあります。例えば、ヘルメットやライトなどの安全装備の装着、保険加入、雨天時の利用の禁止、駐輪場の指定などです。通勤は労働者の勤務時間とは言えませんが、自転車通勤をする場合は、勤務先の就業規則を順守する必要があります。
特に、ライトや反射板の設置、保険加入(地方自治体による)は、法令で定められている安全装備です。また飲酒時の自転車運転は禁止されています。改めて法令を確認しておきましょう。勤務先のルールに書かれていない場合でも、駐輪場所の確保は必須ですので、放置駐輪にならないように気をつけてください。
放置駐輪は社会問題化しており、安易に路上への放置駐輪を行ってしまうと、職場での自転車通勤が禁止になる可能性があります。さらには、自転車の利用そのものについて社会の賛同が得にくくなるなど、大きな問題が生じかねないので、十分に留意していただきたいポイントです。
自転車通勤が勤務先のルール上問題ないと分かったら、まずは通勤経路を確認しましょう。多くの場合、通勤経路を記した書類を勤務先に提出することになるでしょうから、その点も踏まえ、確認は必要です。
また自転車で走りやすい道とそうでない道があるので、安全面を考えて通勤経路をチェックし、自分なりの走りやすい道を確認しておくとよいでしょう。
行きの朝と、帰りの夜とでは、走行環境が異なる道路があるので、試走してみる必要があります。郊外の幹線道路は、車道の自転車通行が禁止されている場合があります。また自動車の走行スピードが速かったり、交通量が多かったりする道路があります。その場合は歩道を走らないといけないこともあります。1車線のみの道路では、歩行者との接触や自転車同士の接触が起きやすいので、速度を抑えて走る場面が多いことにも気をつけなければなりません。
どうしても、勤務開始時間までに勤務先に着かなければならない、という意識で急いでしまうと、安全がおろそかになりがちです。まずは、自転車通勤の自分なりの走り方を覚え、ペースをつかむことから始めましょう。
この安全な運転のためには、自転車の機材トラブルにあらかじめ配慮する必要があります。パンクは起きやすいトラブルなので、自前でチューブの交換ができるように、予備のチューブとタイヤレバー3本、携帯ポンプを持ち運んでおくのがベストです。そうでなくても通勤経路の自転車販売店を把握しておくことは有益です。最近の自転車は、日常のメンテナンスをしっかりとしていれば、いきなり壊れることはほとんどないと思いますので、普段はパンク対策くらいで大丈夫でしょう。
安全に配慮して自転車通勤を始められる環境が整ったとしましょう。次に考慮しておきたいのは事故を起こしてしまった、事故に遭ってしまった場合です。まずは、自転車保険の加入を検討してください。自転車保険は事故を起こしてしまった場合に、事故の被害者に支払う賠償金を保険で賄うのが主な商品ですが、自分がけがした際の補償をしてくれる特約が付いた商品も出てきています。
次に、自分が加害者となって事故を起こしてしまった場合や、被害者となって事故に遭ってしまった場合のことを考え、あらかじめシミュレーションしておくことをおすすめします。事故時は混乱して適切な対応ができなくなることもありますので、最初に何をすべきかを簡単に思い描いておきましょう。
まず、自分が事故を起こして加害者となってしまった場合ですが、被害者がいる話ですので、あなた本人が大きな怪我で動けないような状態でなければ、被害者の救助が最優先です(救護義務)。これを怠ると、刑事罰に処せられることがあります。ほとんどの場合、救急車を呼べば被害者の救護義務を果たしたと考えられますので、携帯電話を常備しましょう。警察への連絡も必要です。相手が、「警察を呼ばなくても大丈夫」と言って立ち去ろうとしたり、子供の場合は、大人に比べて主張をしないこともあるかもしれませんが、警察への連絡通報は行っておきましょう。警察への通報を行わなかったという理由で逮捕されたケースもあります。
続いて、勤務先に連絡を行います。事故時の対処方法が社内規則に書かれている場合もありますので確認しておきましょう。保険に加入していれば保険会社へ遅滞なく連絡するのを忘れないようにしましょう。なお、重過失致死傷罪の被疑者という扱いになりますので、刑事事件として処理され、警察の事情聴取がされることも気をつけておきたい点です。
次に、自分が被害者となって事故に遭ってしまった場合、怪我を負っているときには救急車で病院へ行くことをおすすめします。警察への連絡は、救急隊員が行う場合もあり、無理をしなくても大丈夫なことが多いです。当初は怪我の治療に専念すべきですが、連絡ができるのであれば、勤務先や保険会社への連絡も行いましょう。
その後、加害者との交渉や労働者災害補償保険の申請、自転車保険の保険金支払いの申請などが必要になります。複雑な書類作成が必要になることもありますので、十分な補償が受けられない事態にならないよう専門家に頼むことがよいかもしれません。
2009年弁護士登録。会社関係法務、独占禁止法関係対応、税務対応を中心に取り扱う傍ら、2台のロードバイクを使い分けながら都内往復20kmの自転車通勤を日課とする。久留米大学附設高校卒・東京大学法学部卒・早稲田大学法務研究科卒。
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