

1961年⼤阪⽣まれ。1977年“LAZY”のボーカルとしてデビュー。1985年アニメ・特撮ソングに出会い、『電撃戦隊チェンジマン』や『ドラゴンボールZ』主題歌「CHA-LA HEAD-CHA-LA」などで⽇本のアニソン界を代表する地位を確⽴。2000年に アニソン界のスーパーユニット“JAM Project”を結成。海外⼈気も⾼く、2025年11⽉に⼤阪・神奈川にて結成25周年記念ラ イブツアーを開催する。
この人の記事一覧へアニメソングシーンを牽引し続けてきたシンガー・影山ヒロノブさん。人気アニメ『ドラゴンボールZ』の主題歌『CHA-LA HEAD-CHA-LA』やアニソンスーパーユニット「JAM Project」での活動など、数々の楽曲で人々を元気づけてきた彼は、実は熱心なロードバイク愛好家でもあります。音楽と同じく人生の大きな軸になっているという自転車への思いを伺いました。
仲間との出会いで広がった自転車の世界
─ロードバイク歴14年とのことですが、乗り始めたきっかけを教えてください
子どもの頃から自転車は大好きでしたが、音楽活動に没頭するうちに長く遠ざかっていました。本格的にロードバイクを手に入れたのは50歳を迎える頃。渋谷のバイクショップでロードバイクを購入したのですが、最初の2年ほどは部屋の片隅に置いたままでした。どこを走ればいいのかも分からず、きっかけがなかったんです。
そんななか「JAM Project」でサイクルジャージを制作するという仕事がきっかけで、友人であるアニメのプロデューサーがサイクリストであることを知りました。僕もロードバイクを持っていることを伝えると「一緒に走りに行こう」と誘ってくれたのです。向かった先は神奈川県の三浦半島。同行したメンバーは漫画『ろんぐらいだぁす!』の作者である三宅大志先生や自転車ショップ店主など経験豊富なサイクリストばかり。ギアの使い方から走り方まで教えてもらったりと、いたれりつくせりのデビューになりました(笑)。
距離は60〜70kmと僕にとっては初めてのロングライドでしたが、不安はなく、純粋に楽しかった。その日から一気に自転車の世界にのめり込んでいきました。そのうちに自転車仲間の輪が広がり、サーキットイベントやロングツーリングにも挑戦するようになりました。

─自転車のどのようなところに魅力を感じられたのでしょうか?
まずすごく感動したのは、ロードバイクって本当に軽くて乗り心地が良いこと。それと、こんなに長い距離を人力で走れるということに驚きました。それで驚いていたら周りから、「たった1日で東京・大阪間(約500km)を走ってしまう人もいる」と聞いてさらにびっくり(笑)。エンジンがついていないのに自分の体力だけで行けてしまう、これはすごい乗り物だと思いました。
─勝手ながら影山さんのハードでエネルギッシュな音楽スタイルから連想するのは、どちらかというとオートバイのイメージで、ロードバイクを趣味にされているというのは少し意外な印象でした
昔から体を動かすことが好きなんです。もともと登山が好きなんですが、ロードバイクもその感覚に似ているかもしれません。例えばヒルクライムでもスピードやタイムは関係なく、完走目的で走っています。速くはないけれど、すごく好きです。頑張ってゴールしたときの達成感に魅了されている感じですね。
─自転車のイベントにもよく参加されているそうですが、これまで参加した中で印象に残っているイベントはありますか?
里山を走るイベントが好きなんですけど、とくに好きなのは長野県で開催される「グランフォンドKOMORO」というイベントです。浅間山の周辺を最長コースで100kmほど走るイベントで、これまでに3、4回出場しています。獲得標高2,399mと自分が関わったイベントの中で一番厳しいコースなんですけど、その分楽しいですし、完走したときの達成感も最高です。スターターをやらせてもらったり、いつも先頭でスタートするんですが、戻ってくるのはいつも制限時間ぎりぎり(笑)。たっぷり時間をかけて楽しんでます。

あと印象深いのは「ツール・ド・東北」ですね。独特な手作り感と“地元感”とでもいうのでしょうか。地元の人と近い距離で交流できるのが楽しいですね。プロ選手でもない自分を地元の方が沿道から応援してくれたり、名物料理を味わったり、他のイベントにはない魅力があります。復興イベントという位置づけですが、単なる自転車イベント以上の意味を感じさせてくれます。同じ事務所でシンガーの後輩である遠藤正明君が石巻出身なので、彼と一緒に3回ほど参加しています。
─もう一度走りたいお気に入りのコースはありますか?
色々ありますが、まず思い浮かぶのは間違いなく「しまなみ海道」です。景色が素晴らしいというだけでなく、走りやすくて、美味しいものが多いので途中の休憩スポットも楽しい。とくに個人的には尾道から出発するのが最高だと思うんですよね。
というのも、尾道から今治まで走ってきて最後に現れる来島海峡大橋がすごい。それまでに渡ってきたいくつかの橋も結構迫力あるんですけど、来島海峡大橋の大きさは圧倒的で、まさに“ラスボス登場!”という感じ。それを渡った先にある「糸山サンライズ」から壮大な橋をバックに皆で写真を撮るのがおすすめです。

Jプロツアーの公式ソングも!自転車から生まれた楽曲たち
─ライド中に楽曲のアイデアが浮かんだりすることはありますか?
長時間自転車に乗っていると、自問自答じゃないけど色々考え事しますよね。その中で新しいアイデアが浮かぶことはあります。例えばテレビアニメ版『ろんぐらいだぁす!』のエンディングテーマ『ハッピーアイスクリーム!』という曲は僕が作詞作曲をやらせてもらったんですが、あれは自転車に乗っているときに思い浮かんだフレーズを使いました。
『ろんぐらいだぁす!』って、運動音痴な女の子が自転車と出会い、サイクリングを通して仲間との友情を育んだり成長していくストーリーなんですけど、考えてみたら自分にも重なる部分があるなと。
その歌には「シャカリキにペダル回した後はアイスクリーム アイスクリーム」というフレーズがあるんですが、これ実は最初に三浦半島へ行ったときに連れて行ってもらった牧場のアイスクリームがめちゃめちゃ美味しかったことを思い出して書いたものなんです。頑張ったあとのご褒美というか、楽しさというか、歌に込めた「初心者でも仲間と一緒ならどこへでも行ける」というテーマは、僕の実体験に基づいたものなんです。
─Jプロツアー(※)の公式テーマソングも手掛けていらっしゃいますね。選手たちからも好評で、アニメ好きの選手も多いため、当時は「JAM Project」がテーマ曲を担当したことに驚きの声が上がりました。あの楽曲はどういうイメージで作られたのですか?
※全日本実業団自転車競技連盟(JBCF)が主催する日本最高峰の自転車ロードレースシリーズ戦
あれは当時、プロチーム「宇都宮ブリッツェン」の監督だった清水裕輔さんにお声がけいただいて実現しました。『ドラゴンボール』のファンだとおっしゃってくれて、めちゃめちゃ嬉しかったのを覚えています。
『AREA Z ~Song for J-Riders~』という曲はプロ選手によるレースのためのテーマソングなので、自転車の楽しさというよりも「戦い」をイメージして作りました。仲間と共に戦略を練り、助け合い、時には駆け引きも生まれる、そんなロードレースに立ち向かう選手たちの姿を思い浮かべながら、「俺たちだったら限界を超えていける」というテーマを込めました。雰囲気を出すために、勝手に自分の自転車をスタジオに持ち込んで、ギアチェンジする音をちゃんとしたマイクで録音してイントロに入れたり、そんなディティールにもこだわりました。
自転車をテーマにした曲作りは僕自身の思入れもあるので本当に楽しい。今年64歳で、もうすぐ歌手デビュー50周年を迎えるんですが、そのときに楽曲制作できる機会があれば、自分の自転車への思いを込めたオリジナル曲も制作できたらと思っています。
自転車は体と心の健康維持に効果的
─64歳!お若いです。これもやはり自転車の効果でしょうか?
ライブやレコーディングは体力勝負です。ロードバイクで鍛えた持久力や呼吸の感覚は、歌う上でも役に立っています。体幹が強くなったおかげでブレずに声を出せるし、ステージでのスタミナも増しました。自転車は僕にとって趣味であると同時に、音楽人生を支えるトレーニングにもなっています。仕事で煮詰まっても自転車に乗ることで活力も回復できますし、最大のストレス解消法ですね。

僕だけでなく、自転車が健康面に良い影響をもたらすのは間違いないと思います。あんなに朝から夕方まで皆で楽しみながらカロリーを消費できるスポーツは、他になかなかないですよね。あと、我々の世代で新たに始められるスポーツというところもいい。ランより圧倒的に楽だし、マイペースに楽しめる。そういう意味で自転車は僕にとって本当にちょうどいいんです。
70歳になる自転車仲間が新しくクロモリの自転車を作ったり、小柄な女性サイクリストが200km以上のロングライドを完走したり、年齢や性別に関係なくそれぞれの楽しみ方で自転車を楽しんでいる。そんな素敵なサイクリスト仲間が周りにいて、ライドに誘ってもらえることはやっぱり一番ありがたいですし、良い刺激を受けています。「いや、俺はみんなについていけないから」と言っても、「そんなの全然いいっすよ」って誘ってくれる。自転車のおかげで本当に良い仲間に恵まれました。

─自身の自転車ライフにおけるこれからの目標は?
これからも自転車は乗り続けたいです。まだ挑戦できていないコースや地域もたくさんありますし、海外のライドイベントにもいつか参加してみたい。年齢を重ねてもロードバイクは続けられるスポーツですから、自分のペースで長く楽しんでいきたいですね。
音楽活動と同じように、自転車を通じて人に元気や勇気を届けたい。自分の経験を共有することで、「最初の一歩」を踏み出す人が増えたら嬉しいです。
─これから自転車を始めたい方へメッセージをお願いします
僕自身、最初はロードバイクを買ったものの、どう始めればいいのか分からず2年間も放置していました。でも仲間と一度走りに出てみたら、その楽しさに一気に火がついた。だからこそ言えるのは、「まずは誰かと一緒に走ってみること」。イベントやショップライドに参加するのもいいでしょう。仲間がいれば不安も少なく、何より楽しい。 ロードバイクは年齢を重ねても続けられる一生ものの趣味です。僕にとっては人生を彩る最高の相棒であり、音楽と同じくらい大切な存在。始めてみたいという方は、ぜひ一歩を踏み出して自転車のある生活を楽しんでほしいですね。
(聞き手・後藤恭子)