自転車は様々な課題解決の担い手へ 「第3次計画」が描く将来の“ビジョン”とは 自転車活用推進本部・土田宏道さん自転車のスゴい人<75>

2026/01/09    

土田宏道(つちだ・ひろみち)

国土交通省道路局参事官(兼)自転車活用推進本部事務局次長。1978年埼玉県出身。2002年同省入省後、大分県庁出向、大臣官房人事課補佐、鉄道サービス政策室長、モビリティサービス推進課長等を経て、2025年7月より現職。愛車(ロードバイク)はMerida Scultura等。

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 改正道路交通法の施行や新たなモビリティの台頭により、自転車を取り巻く環境はいま劇的な変化を迎えています。そんな中、来年度に改訂を控えた「第3次自転車活用推進計画」では初めて「ビジョン」が打ち出され、社会課題の解決に向けた自転車活用の方向性が明確化されることになります。「時代的にも自転車が社会インフラとしての重要性が認識されるときが来た」と話すのは、国土交通省・自転車活用推進本部事務局次長として計画策定の最前線に立つ土田宏道さん。一人のサイクリストとしての情熱と、行政官としての冷静な視点を併せ持つ土田さんに、自転車が拓く「地域の交通・健康・環境」の未来予想図について伺いました。

“マイ峠”に毎週上っていたガチサイクリスト時代

─土田さんの自転車歴を教えてください

 ニューヨークに留学していた当時、セントラルパークやイーストリバー沿いの整備されたバイクパスを走り、「これはいいな」と感じて自転車に乗り始めたのが最初です。それ以前はスノーボードが趣味で、ロードバイクは夏のアクティビティとして中古で購入したのですが、疾走感が気持ちよくてすっかりハマってしまいました。当時はそこまで“ガチ”ではなくポタリング(散歩のようにサイクリングを楽しむこと)を楽しんでいました。

 15年ほど前にニューヨークから帰国した当時、ポタリング用に折りたたみ自転車に乗っていたのですが、そのことが同省の先輩で同推進室の3代目事務局次長だった金籠史彦氏に見つかり(笑)、「道志みち」を走る自転車ツーリングに誘われました。それに参加したのが運の尽きといいますか(笑)、さらに奥深い自転車の魅力を知ることとなり、ロードバイクを購入して本格的に乗り始めました。

─スリムなスタイルから察するに、土田さんはヒルクライマーでいらっしゃいますか?

 ヒルクライムは好きですね。大分県庁に勤務していた4年間は自宅から1時間で“マイ峠”に到達できる環境だったので、当時は毎週のように上っていました(笑)。地元の自転車チームにも加入して、九州のヒルクライム大会やクリテリウムやレース、サイクリングイベントにも参加していました。

 いまは10歳になる子供との時間を優先しているので、自転車は週末に自宅で1時間ローラーを回す程度ですが、最近は仕事で各地の自転車イベントに呼んでいただけるようになったので、恥ずかしい走りを見せないためにも家族に「これは仕事です!」と言ってローラーに乗る回数を増やしています(笑)。

飛行機輪行をし、阿蘇空港から瀬の本高原までヒルクライム(画像: 本人提供)

「自転車の役割拡大」と「走行空間の整備」は政策の両輪

─このポストならではの公私“合一”ですね。自転車活用推進室の事務局次長には歴代、筋金入りのサイクリストの方が就任されるとお見受けしますが、就任されたいまのお気持ちは?

 サイクリストとして自転車の魅力を理解している身ですので、仕事としてこの立場に就けたことは率直にいってとても嬉しいです。とくに今年は5年に一度行われる政府の「自転車活用推進計画」(※)改訂のタイミングですから、それに一サイクリストとして関われることには喜びを感じています。大変な作業ではありますけど、政策に自分の思いを注ぎ込めるという点ではやりがいを感じます。

(※「自転車活用推進法」に基づき政府が策定する国の基本計画。安全な通行空間の整備、事故のない社会の実現、健康増進やサイクルツーリズムの振興など、総合的・計画的に推進すべき施策や数値目標を定めており、5年に一度計画の見直しが行われる)

 自分にとってこれまで自転車は趣味の一環だったので、ロードバイク乗りとしての視点でしか見ていませんでしたが、現在のポストに就いてからは自転車が単なる趣味でなく、産業や健康づくり、環境問題等、幅広い側面において“裾野”が広いことに気づきました。

 そんな自転車を取り巻く要素の中で、いまとくに私がこだわっているのが「地域交通」としての自転車の役割拡大です。

 電動キックボードなどの新しいモビリティが注目を集めるなか、自転車の役割も変化・拡大しており、個人の移動手段から、いまや都市の交通インフラや物流の新たな担い手へと進化しています。マイクロモビリティの中でも自転車は最も普及している、そして多くの人にとって身近な移動手段であり、環境負荷も極めて低いという強みを持っていますので、今後さらに社会インフラとしての重要性を高めていきたいですね。

 大分県庁で交通政策を担当し、鉄道サービス政策室、モビリティサービス推進課と経てきた自分にとって地域交通政策はキャリアの軸の一つであり、個人的にも思い入れが強い分野なので、それを今度は自転車活用という文脈で生かせたらと思っています。

─そのためには安全な自転車走行空間の整備も重要ですね

 おっしゃる通り、それは利用促進を図る上での政策の基盤です。私個人が一サイクリストとして走る分には車道でのリスク管理に慣れていますが、社会のインフラとして様々なユーザーの日常利用を広げるためには、個人のスキルに依存しない、誰もが安全に走れる空間の確保が重要です。特に、2026年4月から自転車の交通違反に交通反則通告制度(青切符)が導入される予定です。これにより、自転車の交通ルールへの意識が高まり、車道を走られる方も増えると思っていますが、そのためにも、安全・安心な自転車走行空間の整備を進めていく必要があります。

 その点では、時代的にも社会インフラとしての重要性が認識されるときが来たのだと感じます。来年度からの「第3次自転車活用推進計画」では、自転車走行空間の整備をさらに推し進めることも、重点項目として引き続き盛り込んでいます。

初めて“ビジョン”を打ち出した「第3次計画」

─「第3次自転車活用推進計画」は、1次・2次と比べてどう変わるのでしょうか?

 2026年は自転車活用推進法が制定されてから10年という節目にあたります。この間、1次・2次の計画に基づいて様々な施策が講じられ、自転車の活用は着実に推進されてきたと思います。一方で、さきほどのマイクロモビリティや青切符の話をはじめ、「交通空白」の解消、観光地でのオーバーツーリズム、脱炭素など、自転車をめぐる環境は大きく変化し、自転車が役割を果たせる領域も広がっていると考えています。そういう意味では、1次2次と10年かけて築いてきたものを土台として、自転車の役割をさらに拡大し、様々な社会課題に自転車として貢献できる、また、貢献すべきタイミングではないかと感じています。

 そうした考えを踏まえ、行政だけでなく一般の方も含めて同じ想いや方向性を共有し、目線を合わせて自転車活用に取組めるよう、第3次計画では初めて自転車社会の将来を見据えた「ビジョン」を設定しました。

「誰にとっても安全・快適に自転車を活用できる環境の実現により、自転車交通の役割を拡大し、人と地域が調和した持続可能で豊かに暮らせる社会を目指す」

 あえて抽象的な表現も使いながら、「次期計画の期間である5年先、さらには将来、自転車を通じてこういう世の中を目指そう」という目標を皆で共有するための“ビジョン”です。それを実現するために以下の5つの目標を掲げています。

  • 目標1 安全で快適な自転車ネットワークの整備等による良好な自転車利用環境の実現
  • 目標2 自転車事故のない安全で安心な社会の実現
  • 目標3 自転車交通の役割拡大による地域の良好な移動環境の形成
  • 目標4 自転車利用の促進による活力ある健康長寿社会や脱炭素社会の実現
  • 目標5 サイクルツーリズム等の推進による観光地域づくりや地域の活性化

 それぞれの目標ごとに、目標を実現するための具体の措置を位置付けています。全部で120ほどありますが、例えば「目標1」では自転車活用推進計画や自転車ネットワーク計画の策定を推進するため、手引きやガイドラインを改定するといった措置を盛り込んでいます。これらの措置を担当する省庁がそれぞれ担うことで、政府全体として自転車活用の施策を推進することになります。

─いわゆる「青切符」の導入などルールの厳格化がフォーカスされ、自転車利用者がストレスを感じる話題が多い昨今。子供も自転車に乗る場所が限られていたり、若い世代で自転車に乗る人も減少していたりと、自転車活用を促す動きと歯車がややかみ合ってない印象があります

 日本のモータリゼーション(車社会化)が1960年代に本格的に始まり、それに伴う交通事故の増加を受け、1970年(昭和45年)の道交法改正によって自転車の歩道通行が認められました。それから半世紀以上の時間をかけて現在の文化が出来上がっているわけですから、ここ数年で「自転車は車道」といわれても急に時を巻き戻すようなことは難しく、丁寧に説明していく必要があると思います。

 第3次計画でいうと「目標2:自転車事故のない安全で安心な社会の実現」に該当する項目で、自転車の安全利用や交通ルールについて学ぶ機会を拡充する内容を、これまでよりさらに手厚くしています。

 例えば、未就学児から高校生をはじめとするライフステージに応じた交通安全教育を行うことや、交通安全教育を行う指導者への研修において、自転車交通ルールに関する内容を充実することを位置付けています。また、自転車販売店の皆さんにもご協力をいただきながら、ユーザーとの接点を活用した啓蒙をこれまで以上に注力する必要があると考えています。

 子供たちが自転車に乗れる環境の確保についても、安全に自転車に乗れる都市公園や自然公園の好事例を周知することで、そうした場所で子供たちが安全に自転車に乗れる環境を醸成していく方針を盛り込みました。それらの環境整備には、場所の確保といった直接的な対策とともに、親をはじめ大人に対する正しい自転車利用の啓蒙を行うことも重要。利用したいと思える利便性と安全性、ルールに対する正しい知識といった複合的な環境づくりが大切だと考えています。

 なお、この第3次自転車活用推進計画の内容については最終決定に向けて2月6日まで「パブリックコメント」を募集中です。この機会に詳細をご覧いただき、ぜひ自転車政策に対する皆さんのご意見をお寄せいただければと思います。

「Velo-city」は変革のチャンス

─第3次計画では、2027年に愛媛県で開催される自転車国際会議「Velo-city(ヴェロ・シティ※)についても触れていますが、いま日本に招致・開催する意義は?

※世界最大規模の自転車国際会議。欧州サイクリスト連盟が主催し、自転車を活用した持続可能なまちづくりや政策、最新技術について議論・情報交換が行われる

 Velo-cityが40年以上にわたって継続している理由は、自転車を通じてより良い都市と社会を再設計するための、いわば世界最高峰のプラットフォームだからです。各国、各社会が抱える課題解決策として自転車の役割が注目されている近年、世界的にもその存在感を増しています。そのVelo cityの開催はアジアで2番目、日本では史上初であり、その誘致・開催は第1次・第2次の自転車活用推進計画でも位置付け、国の施策として取り組んできた結果、実現した格好です。

2024年にベルギーで開催された「Velo-city」の様子 Photo: Shusaku MATSUO

 開催されるのは2027年5月と、「第3次計画」が改定された翌年になりますので、新しい計画に基づいて展開されている日本の自転車関連施策について世界の皆さんに知っていただき、日本の自転車に関する文化・技術・取組事例等を世界に発信できることは、とても有意義な場であると考えています。これにより、日本の自転車産業が世界に展開するきっかけになったり、日本の文化や取組が世界の自転車施策のレベルアップに貢献できればありがたいですね。

 一方で、世界中から自転車の行政関係者や有識者、産業関係者が愛媛県に集うので、最先端の知見や技術を日本にいながらしてインプットできます。これらを日本全国からの関係者が直接見て、触れて、聞くことによって日本全体の自転車をめぐる政策・技術・文化のレベルの底上げにもなる。そういう意味で、世界と日本、双方向の変革のチャンスになると期待しています。

2026年度を自転車政策のターニングポイントに

─道交法の改訂、自転車通行空間のガイドラインの改定、第3次計画の策定と、あとから振り返って2026年は自転車政策的にターニングポイントになる年になるかと思われますが、ここから10年先、土田さんが描く自転車の「未来予想図」をお聞かせください

 おっしゃるように2026年が「日本の自転車政策のターニングポイントだったね」と振り返っていただけるように、それぞれの仕事をしっかりと進めていきたいと思います。

 自転車は身近な移動手段である一方で、政策的にはとても広がりのあるすそ野の広い移動手段です。利用環境と交通安全の自転車活用の基盤をしっかりと整えつつ、地域の移動環境、健康、脱炭素、観光等において、自転車が役割を拡大して貢献できるようにしていきたいと思っています。その上で、人と地域が調和した豊かに暮らせる持続可能な社会の実現に寄与できればと思っています。

 そのためには、国も努力しますが、地方自治体の皆さまのご協力が不可欠です。3次計画を契機に各自治体において自転車政策の優先順位を上げていただき、地域課題の解決に自転車が有効に活用される場面が増えることを期待しています。

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