日本最大の面積を誇る湖、琵琶湖を一周する通称「ビワイチ」。自転車でぐるっと一周する「〇〇イチ」の代表格で、周回距離約200kmとそのスケールを聞いただけで難易度の高さを感じてしまいますが、そんな広大なビワイチには“プチビワイチ”と呼ばれるサイクリングコースがあります。琵琶湖大橋を境に南側に位置する「南湖」です。周回50kmと全体の4分の1のスケールながら、「疾走感・寄り道・散策感」といったサイクリングの醍醐味が凝縮されています。スポーツ用自転車を始めたばかりの人にも「脱初心者」コースとして最適です。

オススメポイント | 東側は自転車道が整備され、湖畔の雄大な景色と比良山系の眺望が楽しめる他、湖魚やスイーツなどの琵琶湖ならではのグルメも堪能できます。西側には歴史ある街並みが残るエリアや、比叡山の麓を走る林道ヒルクライムも。一周する間に様々な表情が楽しめる“お得”な50kmです。 |
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レベル | ★★(中級者向け) |
距離 | 51.2km |
獲得標高 | 434m |
出着地 | 大津港 |
立ち寄りスポット | 大津港(O-PORT-able)、瀬田の唐橋、ビワイチ出発の地、滋賀県立琵琶湖博物館(レストランにほのうみ)、琵琶湖大橋、満月寺浮御堂、伊豆神社、日吉神社、比叡山延暦寺の麓 |
「ナショナルサイクルルート」ならではの走りやすさ
ビワイチのコースは国土交通省が定める「ナショナルサイクルルート」(※)に認定されており、コースを示す表示がわかりやすく路面上に示されています。
(※2019年に導入された、日本を代表するサイクリングルートを認定する制度)


車道がある場所では車道を「上級コース」、自転車歩行者専用道路を「低速コース」として、ハイスピードでビワイチを目指す上級者用と、のんびりサイクリングを楽しみたいサイクリスト用に分類しています。

道を見失うことなく、自分に合ったスピードで安全に走れるので、ビギナーの方でもストレスなく楽しむことができます。
サービス充実の大津港からスタート
ライドは大津港からスタートです。大津港はJR大津駅からアクセスが良く、レンタサイクルのサービスも行っているバイクショップがあるので、手ぶらで訪れた人はもちろん、携行品を忘れた場合等にも便利です。何より広大な琵琶湖を目前にした場所からスタートするのは、視覚的にも一気にテンションが高まります。

幹線道路を避けて琵琶湖沿いの「なぎさ通り」を走り、そのまま「近江大橋」を渡って東側の湖岸へ向かいたいところですが、避けては通れない場所があります。公式に指定された「ビワイチ出発の地」です。
そこへ向かう途中、日本三名橋の一つで近江八景「瀬田の夕照」で名高い名橋である「瀬田の唐橋」を通ります。「急がば回れ」ということわざの由来となった橋で、琵琶湖を渡る際に矢橋の渡し船が比叡おろしの影響で遅延することがあったため、安全で確実な瀬田の唐橋を通る方が、結果的に早く到着することがあったことに由来するのだそうです。

「ビワイチ出発の地」の碑はこの瀬田の唐橋の東詰めにあります。琵琶湖から流れ出る唯一の自然流出河川であり、淀川水系に属する瀬田川。そして「唐橋を制するものは天下を制す」といわれるほど京都へ通じる軍事・交通の要衝で、幾度となく戦乱の舞台となった事実を知ると、この橋をビワイチの“原点”として定めた地元の人々の思い入れを感じます。

比良山系の眺めと疾走感が爽快な東岸
南湖は東岸と西岸で道路環境が大きく異なります。東岸は、車道と並走する湖岸緑地帯に幅は広い自転車歩行者道が約18kmに渡って続いており、サイクリングロード区間はブルーラインと分離柵で明確に区分されています。全体的にフラットで、視界を遮る大きな建物もありません。自歩道を走るは信号で止まることもないので、どこまでも走っていけそうな自転車ならではの“疾走感”を感じることができます。

スタート地点から約20km地点、休憩ポイントとして設定したいのが地図上で三角形に飛び出た形が特徴的な烏丸(からすま)半島です。「琵琶湖博物館」があり、その中に併設されているレストラン「にほのうみ」では、びわ湖の固有種ビワマスと外来種のブラックバスを使ったユニークな「湖の幸の天丼」を堪能できるほか、滋賀県立湖南農業高校とのコラボした、ライスの部分が琵琶湖の形をした「びわこカレー」などを楽しむことができます。


琵琶湖博物館まで行かなくても、その手前の駐車場付近にある「KARASUMA CAFE REED」では、ドリンクメニューの他にパニーニやランチプレート等の軽食、チュロス等のスイーツを取り扱っています。自転車が見える範囲で休憩がとれるので、小休止したい場合に便利です。

琵琶湖大橋を越えると雰囲気が一変
琵琶湖大橋を渡って、西岸へと渡ります。琵琶湖の最も狭い部分である守山市と大津市をつなぐ橋で、長さ1350mに及びます。琵琶湖は、この橋を境に北半分が「北湖」、南半分が「南湖」に分かれます。

自転車での通行ももちろんできます。琵琶湖大橋を自転車で渡るには、車道ではなく「自転車歩行者専用道路」を使用します。ちなみに、クルマは有料ですが、歩行者と自転車は無料です。
近づいてみるとかなり急な坂に見えますが、最大斜度でも4.5%ほど。変速がたくさんあるスポーツ用自転車なら問題なく上ることができます。

西岸は町の雰囲気ががらりと変わります。とくに、琵琶湖大橋を下りた先にある堅田という湖港町は古くから湖上交通の要衝で、比叡山延暦寺の港・湖西の物資集散地として湖魚商人や舟運で栄えた往時の面影が、いまも色濃く残ります。

このエリアで代表的な観光スポットの一つとして知られるのが「浮御堂」(うきみどう)です。湖の上に突き出た神秘的な姿で知られる浮御堂は平安時代に湖上安全を祈願して建立されたものだそうで、湖と人が共生してきた千年の歴史を感じつつ、静寂と絶景に包まれる時間が味わえます。




旧堅田町家通り周辺には、湖魚料理店やカフェが点在しているので、休憩スポットを探しがてら散策してみるのもおすすめです。
帰り道は「伊香立浜大津線」で歴史散策
堅田エリアから山側へと向かいます。走るのは県道伊香立浜大津(いかりつはまおおつ)線。細い山道を縫うようにして走るため、湖岸近くの県道より交通量が圧倒的に少なく、ストレスなく走ることができます。それどころか途中、棚田や茶畑などが点在し、湖岸では見られない景観に心が癒されます。

最大標高は250m前後。緩い上りと下りが繰り返されるので、心地よいリズムで脚に刺激が入ります。杉林や竹林が作り出す厳かで神秘的な雰囲気のなか、行く手に現れる寺社仏閣や仏像に掻き立てられる好奇心。景色、静けさ、脚づくりの三拍子が揃い、「ただ帰る」区間を“サイクリングのハイライト”に変えられるのが伊香立浜大津線の魅力です。


途中、日吉大社や比叡山延暦寺の表参道、古民家カフェが点在する坂本の門前町が現れます。


自力で上らずとも、延暦寺までは「叡山ケーブル・ロープウェイ」があります。日本一の標高差(561m)を誇るケーブルは、約1.3㎞を9分間で上ります。ケーブル終点からロープウェイに乗り換えて、山頂までは約3分。新緑や紅葉など季節の景観とともに、京都市街が一望できる空中散歩が楽しめるそうです。予め時間に余裕をもったスケジュールを組み、自転車を下りて延暦寺に寄り道するのも良いでしょう。
伊香立浜大津線を抜けるとゴール地点の大津までは残り8km。ここまで来ればゴールも同然ですが、クルマ通りが多い県道を行くので、最後まで気を緩めずに走りましょう。
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1日で達成感と旅気分が味わえる南湖一周の“プチビワイチ”。広大なビワイチに挑戦するよりも手軽ですが、その内容はご覧の通りとても盛りだくさんです。「ビワイチに興味がある」「ビワイチするにはまだ脚力に自信がない」という方におすすめしたいコースです。

アウトドアメーカーの広報担当を経て、2015年に産経デジタルに入社。5年間にわたって自転車専門webメディア『Cyclist』編集部の記者として活動。主に自転車旅やスポーツ・アクティビティとして自転車の魅力を発信する取材・企画提案に従事。私生活でもロードバイクを趣味とし、社会における自転車活用の推進拡大をライフワークとしている。
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