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水の都に上町台地、最後にクラフトビールで〆るライド

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大阪のいくつもの表情を再発見
水の都に上町台地、最後にクラフトビールで〆るライド

 「ユニーク」「面白い」「風変わり」…「大阪」という言葉にはそんなイメージが必ず付いて回る。それらの多くは人間模様を指すが、街そのものも同じように独特な雰囲気を持ち合わせている。水都と呼ばれた時代の名残であったり、または複数の坂道を有する上町台地や、下町からビル群へと続く街路であったり。今回ご紹介するのは、大阪市内を大きく回り、街の表情をいくつもご覧いただけるルートだ。知られざる大阪の名所を巡りながら、自転車で軽快に走り抜けたいと思う。
市内を流れる淀川から大阪の中心部を望む
オススメポイント 下町にビル群、そして大阪城。昼間と夜で変わる大阪の風景が満喫できる。ライドの最後を飾るのは、冷えたクラフトビールとおつまみ!
レベル ★★(中級者向け)
距離 33.4km
獲得標高 301m
始発・終着地 始発・Rapha Osaka / 終着地・CRAFT BEER BASE
立ち寄りグルメ Rapha Osaka(エスプレッソ)、ライス&カリーラーマ(チキンカレー)、CRAFT BEER BASE(クラフトビール、ゆず香るソーセージのスキレット焼き)
立ち寄りスポット 天保山渡船場大阪八百八橋

コーヒーとランチをいただき出発

街を駆け抜けるライド、ジャージではなくシティウェアで出掛ける
経路のスタート地点としたのは「Rapha Osaka」。サイクリングウェアブランドのラファが手がける「クラブハウス」と呼ばれるショップは、その名の通りサイクリストにとっての集合場所であるなど、ハブショップとしての役割も担っている。エスプレッソを片手に昨夜のレースの模様を眺めつつ、出発時間のお昼過ぎにお店を後にした。
まず訪れたRapha OsakaではALLPRESSの濃厚なエスプレッソを味わう
アパレルショップと思えないほど、充実したカフェエリア
オフィス街から中之島を抜け、まず向かったのは土佐堀の名店「ライス&カリーラーマ」だ。スパイスカレー店として2009年に西宮でオープンし、2015年大阪・土佐堀へ移転した。店主の田井中さんは、もともとマウンテンバイクを楽しむサイクリストで、大阪の人気店として忙しい毎日を送っている。この日はカップルのほか多くの女性客でにぎわっていて、カレー店としては少し珍しい光景にも思えた。
店主の田井中さんと奥様。いつも仲良くお店を切り盛りされている
ラーマの定番、豆カレー
それも店主の仕事ぶりを見ればすぐに理解ができる。一皿ひとさら丁寧に料理されるカレーは、いわゆる定番グルメと呼ぶよりも高級料理店のコースメニューのそれに近い。今回いただいたチキンカレーも、スパイスと野菜が絶妙に絡み合い、さまざまな味覚を順番に刺激してくれる。筆者が好きな食べ方は、反時計回りに食べ進め、最後に塩味の効いたピクルスで締めるルーティンだ。
野菜トッピングのチキンカレー、鶏肉がほろりとトロける

■ライス&カリーラーマ

住所:大阪市西区土佐堀2?3?23 板東ビル2F 電話:090?8533-1211 営業時間:11:30?14:30(LO14:00)、18:00?21:00(LO20:00)、月曜11: 30?14:30(LO14:00)、土・日曜、祝日12:00?18:00(LO17:00) 定休日:水・木曜※売切れ、臨時休業はFacebookで告知 公式Facebook:https://www.facebook.com/ramacurry/

渡し船で対岸へ

おなかが満たされたあとは、海側へと北港通をまっすぐ進む。この大通りには自転車道があり、他の狭い道路に比べて比較的走りやすくなっている。正蓮寺川を渡る橋に至っては歩行者・自転車・自動車が完全に分かれた道となる。野田阪神のにぎやかな様子から、住宅地や商店が多い地域を抜け、最終的には化学工場や製鋼所が広々と並ぶ工業地帯へと道は続いている。そしてその先に、突如としてユニバーサルスタジオジャパン(USJ)が現れる。
天保山渡船場。船は30分に1本ほどのペースでやってくる
エンターテインメントテーマパークを横目に、筆者が進んだのはその脇道。園内から響く恐竜の鳴き声に耳をやりつつ、たどり着いたのは「天保山渡船場」だ。大阪では、市営の渡船が主要な交通機関として今なお8カ所残っている。いずれも無料で、今回利用した安治川を桜島側から天保山側へと渡す船も、観光客または地元の人の足となっている。USJから天保山への移動手段として、またはUSJの中で働く外国人スタッフの姿も見受けられる。船は数分で対岸へと到着するが、自転車ルートとして水上を通れるとあってワクワクできるスポットだ。
安治川の湾を天保山側へと渡す船は、観光客または地元の人の足となっている
マップ上でも、川を渡っているのが見られて楽しい
大阪湾を地図で見ると気がつくことは、海辺に面するほとんどの場所が人工的な形状をしていること。これらは廃棄物などで埋立地として造成され、その後は工場や物流・交通施設だけでなく商業・娯楽施設、医療関連の施設・研究機関なども立地している。埋立地それぞれを結ぶ道路として橋が多く建設されており、特徴的な2つの橋を渡ってみることにした。
急勾配が特徴的な「なみはや大橋」。獲得標高を意識する程度には上りがきつい。自転車は歩道部分を通行できるが、歩道なので歩行者優先でゆっくり安全に走ろう

「大阪八百八橋」を渡る

2人でライドするなら、撮る場所・撮られる場所によって非常に写真映えするポイントでもあるめがね橋
急勾配が特徴的な「なみはや大橋」は、全長1740mで港区と大正区を結んでいる。頂上とも呼べる場所からは大阪湾や大阪市内を広く見渡すことができ、青い千歳橋や赤い港大橋など、他の橋を見つけることもできた。「千本松大橋」は見た目から地元では“めがね橋” という愛称で呼ばれている。ぐるぐるとループする構造で急勾配を緩和してルートを形成しており、全長は2段式のループも合わせて1228mと長い。
めがね橋を見上げる。ループする橋を支える骨格には力強さを感じる
大阪市内に掛かる橋は古くから「大阪八百八橋」と呼ばれている。八百八というのは実数ではなく、それほど多いという比喩であるが、実際のところ東京やその他の地域の方が数で言えば上回るのも事実だという。しかし当時(江戸時代)他地域では幕府の公共物として橋が架けられていたことに対して、大阪ではその多くが生活や商売のために町人たち自らが架けた“町橋” であり、町人たちが自腹を切って橋を架けた勢いが大阪八百八橋と言わしめたのだという。なんとも大阪らしいストーリーと言える。
2つのパチンコ屋とスーパー玉出。この三つ巴から地名の由来を疑ってしまうが、あくまで偶然“玉出” という名前なのである
めがね橋を後にし、路地を抜け、やってきたのは「玉出」という地域。交差点を挟んで向かいに見えるのが玉出本通商店街で、商店街の奥に少し見えるのが激安スーパーとして有名なスーパー玉出の一号店である。さらに商店街の両サイドに華やかなパチンコ屋…この三つ巴から地名の由来を疑ってしまうが、あくまで偶然“玉出” という名前なのである。商店街内に掲げられた著作権度外視の看板や、長くそこでたたずむ民家など下町風情をたっぷり味わうことができるだろう。
たった今電車が通り抜けた線路の上を、平然と乗用車が走り抜ける
さらに道を進んだ先では路面電車の線路が街道に現れる。とはいえ道幅はそう広くなく、明らかにクルマが通る道と線路が重なっているのだ。どうやって通行していくのだろう、そう疑問を抱いていると、ほどなくして線路上に電車が現れた。と、その後ろに順序良く乗用車が並んで待っている。路面電車は他の地域で幾度が目にしたことがあり、当然乗用車が線路をまたぐ姿も見たことはあるが、“同じ道” を共有する姿は非常に珍しい。ドライバーも慣れた様子で、適度な車間距離をとりながら通過していくのであった。
阿倍野区の下町と、そびえ立つあべのハルカスのコントラストにも注目いただきたい
同じ道の端をソロソロと進み、ここからは市内を北上していく。玉出付近の下町から、天王寺方面へ進むにつれて、またにぎやかな雰囲気を目にする。途中遠目に見えてくる大きな建物が“あべのハルカス” である。300mの高さを誇るあべのハルカスと、移り変わる街の雰囲気との対比にも注目いただきたい。

寺院と超高層ビルのコントラスト

上町台地の坂に建つ寺院と台地の下に建つ通天閣、なんとも奇妙な並びだ
超高層ビルを横切るとそこは天王寺区、天王寺駅や天王寺動物園(正式名称は、てんのうじどうぶつえん)が出迎えてくれる。さらに進むとそこは有名な寺院が立ち並ぶ。四天王寺、一心寺、齢延寺など、寺町として栄えたことには歴史的ないわれがあるそうだが、無信心な自分とてその雰囲気に心を落ち着かせられる。特に、この平坦な大阪に跨る丘陵地“上町台地” が坂道を多く形成しており、寺院と通天閣が段々に並んで見える姿はどこかユーモラスに感じる。また四天王寺の裏手からは、院内の伽藍(がらん)とハルカスが並んでたたずんでいる姿も望むことができる。
お墓と伽藍と、あべのハルカス。こんな奇妙な光景が日常に潜んでいる
地元の人からは「よんてんさん」として親しまれる四天王寺
所変わって上町台地の先端に、大阪城あり
上町台地をまっすぐ北上する上町筋を進み、寺町からすっかりビジネス街へとその姿を変えた頃、緑に囲まれた大きな公園が広がってくる。この台地の北端に建てられた「大阪城」である。安土桃山時代、豊臣秀吉によって建立され、大坂冬の陣・夏の陣と二度にわたって徳川勢に攻められ落城した後、江戸時代に再建されたが落雷によって焼失してしまう。現在の天守閣は昭和6年に市民からの寄付によって建てられ「大阪城天守閣」として大阪随一の観光スポットとなっている。言わずと知れた存在ながら、その姿は周囲のどこから見てもとても美しい。大阪城公園をぐるりと回り、西へ台地を下り、本日の終着点を目指す。 大阪の中心部と言えばキタとミナミ、市内を行き来する人々がこう呼び分けていることはなじみ深いが、その中間に位置するのがここ、京町堀。四ツ橋筋の西側、ビジネス街を縫うように緑豊かな公園や、オシャレなお店が立ち並ぶ。手入れの行き届いた平日の靱(うつぼ)公園は、忙しいビジネスマンたちが一時をくつろぐ都会のオアシスといった装いだ。

クラフトビールを堪能し輪行

「CRAFT BEER & OUTDOOR garden」。キタを中心にクラフトビール専門店を展開する “CRAFT BEER BASE” の新たな拠点だ
そんな癒やしエリアで「ビールとアウトドア」をテーマにオープンしたお店が「CRAFT BEER & OUTDOOR garden」。キタを中心にクラフトビール専門店を展開する“CRAFT BEER BASE” の新たな拠点で、店内の料理もキャンプからヒントを得ている。とてもにぎやかな大阪のクラフトビールシーンにあって、女性オーナーである谷さん率いるビール好きの集団が、マーケットリーダーとして業界を盛り上げている。
豪快な丸太のプレートとスキレット鍋で供される「ゆず香るソーセージのスキレット焼き」は、頬張ると口いっぱいに旨味が広がる
今日巡ったライドの話を、ビール片手に語り合う至福の時。オーナーの谷さん自ら店頭に立ち、各所で出会ったストーリーにも花が咲く。料理はどれもヒネリが効いて癖になる味で、豪快な丸太のプレートとスキレット鍋で供される「ゆず香るソーセージのスキレット焼き」は、頬張ると口いっぱいに旨味が広がる。この日用意されていたクラフトビールは全部で8つ。バレルエイジのセッションバーレーワインから、サワーエール、IPAまで、どれも料理との相性抜群で、香りや飲みごたえを楽しむことができた。
バラエティー豊かなクラフトビールを楽しむことができる
知る人ぞ知る、Botanical Beverage Worksの故田口氏の言葉が残る店内。ビールで明日を幸せに
スタッフが皆いつも変わらない笑顔で迎えてくれる、そんなふと気持ちが安らぐ場所ながら、いつも目新しいビールの銘柄が用意され知的好奇心もくすぐられる。ここに来ると、少しずつビールについて詳しくなれるのも楽しい。

■CRAFT BEER & OUTDOOR garden

住所:大阪府大阪市西区京町堀1?12?31 電話番号:06?-6445-?6510 営業時間:平日16:00?23:00/木曜17:00?23:00/土日祝11:30?23:00 定休日:不定休 ウェブサイト:http://www.craftbeerbase.com
 夜も更けてきたところで、この日の行程は終わり。輪行で電車に揺られ、心地よい気分で帰路についた。都会とは言え自転車で走るのも気持ちよく、さまざまなカルチャーに触れることのできる大阪。知られざるこの街の秘密について、あらためて知りたいと思った。
日が暮れて、昼過ぎにも通過した中之島も美しく色づく