走って上ってちょっと学べる“万葉の世界” 大人の自転車旅(奈良)

2025/11/17    

 東大寺の大仏殿や奈良公園の鹿が有名な奈良県。修学旅行や校外学習などで学生時代に訪れたことがある方も多いのではないでしょうか。大人になってから奈良に来てみると、幼い頃とは違った感性に出会えるかもしれません。今回は大人の奈良旅の代名詞ともいえる飛鳥エリアを自転車で巡ってみます。飛鳥エリアは、ユネスコへ世界文化遺産としての正式な推薦書が提出されており、早ければ2026年の夏に登録される見込みとなっています。

オススメポイント 短い距離ながら走りごたえのあるコース。歴史的中心地や観光名所、特産物を使ったメニューなど、半日で飛鳥エリアを気軽に楽しめるルートです。上りが苦手な方でも別ルートやショートカットできるコースなど、臨機応変に楽しめるのも道が入り組んでいる飛鳥エリアならではの魅力です。また、レンタサイクルや“サイクリストウェルカム”な施設が充実していることもおすすめポイントです。
レベル ★★(中級者向け)
距離 28.8km
獲得標高 613m
出着地 近鉄 大和八木駅
立ち寄りスポット おふさ観音、藤原宮跡、談山神社、石舞台古墳、農村レストラン夢市茶屋、亀石、Cafe 4’season

飛鳥エリアの玄関口 大和八木駅からスタート

 飛鳥エリアは、奈良盆地の南部、明日香村を中心に橿原市や高取町、畝傍(うねび)山・香具(かぐ)山・耳成(みみなし)山からなる「大和三山」に囲まれたエリアを指します。自然や歴史が豊かなエリアで、平坦はもちろん上りの宝庫でもあります。

 スタート地点はその飛鳥エリアの玄関口でもある、近鉄大和八木駅です。東京駅から新幹線と特急で約3時間ほど。輪行を解除して、万葉の世界へ出発しましょう。

近鉄八木駅前にある橿原市観光交流センターではレンタサイクルや観光情報などが充実している

 駅を出発し柳町交差点を左折すると、街並みは一変。手前は昭和レトロのような街並から始まり、どんどん進んでいくと江戸時代のような雰囲気が漂ってきます。ここは「八木町」という、かつて交通の要衝だった地域。奈良時代頃からあり、豪族同士の争いの度に兵火に焼かれていました。その後、江戸時代中期以降は吉野・高野詣や大和巡り、伊勢参りの拠点として栄えた地域となりました。現在でも当時の建物を見ることができる「八木札の辻交流館」があり、無料で見学できます。

江戸時代末期から明治時代初頭にかけて建てられた「東の平田家(旧旅籠)」

なぜか元気の出るお寺 「おふさ観音」

 八木札の辻交流館をあとにさらに住宅街の細い道を進みます。この道も歴史的な街道であり、古代大和の主要道路「下ツ道(しもつみち)」といいます。

 細い道を抜けた先に風鈴の音が響くお寺があります。ここが最初の立ち寄りスポット「高野山真言宗 別格本山 おふさ観音」です。御本尊は十一面観音で身体健全や厄除け、開運など様々な願いを叶えてくださる観音様として多くの参拝者が訪れます。

 また、春と秋には「バラまつり」、夏には「風鈴まつり」、冬と春には「提灯まつり」が行われます。訪れた時期が風鈴まつりの時期だったので、様々なデザインや形、素材の風鈴が風に揺られていました。

どの季節に来ても楽しいお寺。バラは数千種類、提灯は2,000個以上が見られるそう

 風鈴まつりでは約3,000個の風鈴が飾られているそうです。3,000個の風鈴が風で一気になびくと壮大な音が響き、思わず笑顔に。人間とは不思議なもので、笑顔になるとなぜか元気も出てくるものです。これが“なぜか元気の出るお寺”といわれるおふさ観音のパワーなのかもしれませんね。

1300年前の日本の中心地 「藤原宮跡」

 観音様に元気をもらったところで先に進みます。この地域の道は碁盤状になっていることが特徴。しばらくまっすぐな道を心地よく進むと、広い運動場のような場所が見えてきます。

 ここが2カ所目の立ち寄りスポット「藤原宮跡」。日本で最初の本格的な都が作られたといわれる場所です。

 藤原宮に都が置かれた期間はわずか16年と短い期間ですが、その間に大宝律令(日本で最初の本格的な法)や和同開珎(日本で2番目に古いといわれているお金)が作られ、日本という国を作った都です。さらに大和三山が囲んでいることから多くの歌が詠われました。持統天皇をはじめ、この地について詠まれた歌は全部で8首あります。

「小倉百人一首」で有名な持統天皇の和歌の碑

 そんな歴史的な場所を通っていよいよ飛鳥エリアの中心地・明日香村へと向かいます。

心癒される風景。奥に見えるこんもりしたところが大和三山のひとつである香具山
春には桜と菜の花の名所になる

飛鳥一の山・多武峰にチャレンジ

 奈良県は全域を山に囲まれているため、ヒルクライムの宝庫ともいえる場所です。今回は飛鳥で最も多くの偉人たちが歩いたとされる「多武峰(とうのみね)街道」を上ります。

 その前に“足慣らし”として甘樫丘(あまかしのおか)から多武峰の入り口まで3kmほど上ります。前半約1kmは古い街並みと自然豊かな田園風景が広がり、平均勾配2.5%と楽しいサイクリングですが、徐々に勾配が上がってきています。

このときはまだ景色を楽しむ余裕がありました・・・

 上り切るところまではあと約2kmほどですが、平均勾配は約7.5%、最高勾配は13.5%とかなりの勾配。木々や田園風景が広がる良い景色ですが、ヒルクライムに不慣れな方にとって楽しむ余裕はあまりないかもしれません。

上ってきた景色は心洗われるような最高の景色
必死にペダルを回す筆者

 いったん突き当たりまで下り、ここからが“メインディッシュ”の多武峰街道へ。目的地の談山(たんざん)神社まで約4㎞の坂を上ります。

談山神社へ桜井市側から上ります。明日香村側からも上ることができるので、ぜひチャレンジを

 多武峰街道は、桜井市から談山神社までをつなぐ約7km弱の街道でその歴史は1,000年以上前に遡ります。大化の改新で活躍した、中大兄皇子と中臣鎌足が蘇我氏討伐のために多武峰街道を通って談山神社で密会を行ったり、松尾芭蕉や本居宣長などが歩いたとされています。そんな歴史的街道を自転車で走ります。

 全体の平均勾配は約6.9%と、厳しい上りではありません。しかし上り始めると分かるのですが、カーブがほぼ無い長く緩やかな坂なので、気持ち的に少しずつ辛くなっていきます。

辛い上りのようには見えませんが、約3kmの直登が続きます

 交差点まで上り切るとコンビニエンスストアやトイレなど、休憩スポットが出てきます。ここまで来たらあと1kmほどです。

普段ヒルクライムをしない筆者も交差点まで上ってきてこの表情

 ここから神社までの道は九十九折りになり、気持ち的に少し楽になります。そして到着したのが3カ所目の立ち寄りスポット「談山神社」です。中臣鎌足を祀っており、中大兄皇子と中臣鎌足が極秘に談合したことから「談山」と呼ばれるようになったそうです。紅葉の名所でもあるので秋の行楽シーズンには、多くの参拝者が訪れます。

境内には重要文化財や大化の改新や乙巳の変(いっしのへん)に関する絵巻物などを見ることができます

 談山神社から明日香村へ下る前に、上りはもう少しだけ続きますので頑張りましょう。途中、多武峰大型専用駐車場にサイクルラックや自動販売機、トイレがあるので休憩や仲間との合流場所にもおすすめです。

休日には多くのサイクリストで賑わいます

 下りは平均勾配約7%の急坂なのでスピードに注意しながら下っていきます。途中、飛鳥エリアを一望できる絶景ポイントがありますのでわき見走行はせず、止まって堪能してください。安全に集落付近まで下ると、あの有名な石造「石舞台古墳」が見えてきます。4カ所目の立ち寄りスポットはその石舞台古墳を上から一望できる「石舞台展望台」です。石舞台古墳は古墳の盛土が全く残っておらず、石室(現在で言うところの納骨室)が露呈している類を見ない独特な古墳で、飛鳥エリアで最も有名な観光名所です。

石舞台古墳

農村レストランで特産の古代米を堪能

 ヒルクライムの後はお待ちかねのランチです。明日香村に来たなら「古代米」は外せません。古代米とは、現在の稲の原種と言われており、栄養豊富な健康食材として注目されています。明日香村では地域おこしの一環で古代米の栽培が行われており、村の特産物にもなっています。

 そんな明日香村産古代米や明日香村で採れた食材を堪能でき、石舞台古墳すぐにある「農村レストラン 夢市茶屋(ゆめいちちゃや)」でランチタイムです。店内は木のぬくもりが感じられる温かい雰囲気で、程よく太陽の光が差し込みます。季節ごとにメニューだけでなく、窓の外から見える景色も変わるそうです。

古代米と村で採れた季節野菜を堪能できる「古代米御膳」。古代米の優しい甘さとおかずがよく合い、身体にエネルギーが行き渡ります
夏季限定の「夢市にぎわい素麺」。季節限定のメニューも豊富

太古の奈良盆地は湖だった⁉ 不思議な石像・亀石

 最後は飛鳥エリアにある不思議な石像の一つを見に行ってみましょう。

 飛鳥エリアには、壁画で有名なキトラ古墳や高松塚古墳、天武・持統天皇陵、石舞台古墳といった古墳がたくさんあり、それに伴い石の加工場だった場所や不思議な石像が多くあります。今回はその中の一つである、「亀石」に立ち寄ります。

巨大な自然石に亀のような彫刻が施されていることから「亀石」と呼ばれている

 いつ何の目的で作られたのか全く分かっていない亀石ですが、『昔、大和(現在の奈良盆地)が湖であったころ、湖の対岸同士で喧嘩が起こった。長い喧嘩の末、湖の水を敵対していた地域に取られてしまい、湖に住んでいたたくさんの亀が死んでしまった。数年後、亀を哀れに思った村人たちは、亀の形を石に刻んで供養した。もし、亀が敵対していた地域をにらみつけたとき、大和盆地は泥沼になるだろう(一部抜粋)』という伝説があるそうです。

 他にも亀石の周辺には、「猿石」や「鬼の雪隠」・「鬼の俎(まないた)」など石像や石造が多くあるので、ぜひ探してみてください。

自転車好きのオーナーが営むカフェ 「4’season」

 亀石を後にしてゴール地点の大和八木駅へ向かいます。道中の国営飛鳥歴史公園甘樫丘地区では、春には菜の花やポピー、夏には新緑、秋にはコキアやコスモスが道沿いを彩り、サイクリングしながら目でも楽しむことができます。

 最後の立ち寄りスポットでホームメイドのスイーツをいただきます。訪れたのは「Cafe 4’season」。黄色いお家が目印の可愛らしいカフェです。

バイクラック完備で、「奈良県自転車サービスの休憩所」にも加盟しているサイクリストウェルカムなカフェ

 自転車好きの女性オーナーが営むカフェで、旬の食材をたっぷり使ったメニューが特徴です。ランチタイムには美味しいランチメニューをいただけますが、おやつたいむのスイーツ休憩もおすすめです。

秋限定の「かぼちゃのプリン」。ほどよいかぼちゃの甘みと旬のフルーツのバランスが良い
バナナケーキのキャラメルナッツパフェ。バナナケーキとキャラメルの相性が抜群

 オーナーの自転車好きは筋金入り。朝から飛鳥の山を上ってカフェの営業をすることもしばしばだそうで、日本有数の難コースを上るヒルクライムレース「ヒルクライム大台ケ原 since2001」を毎年完走するほどの実力者です。他のお客さんが少ない時間帯であれば、自転車話で盛り上がること間違いなしです。飛鳥エリアのサイクリングの際には、旬の食材に舌鼓を打ちながらオーナーとの自転車話を楽しんでみてはいかがでしょうか。

自転車は奈良を味わうのにちょうどいい

 「Cafe 4’season」からゴールの大和八木駅までは2kmほど。道中、天皇家の畝傍御陵参拝や橿原神宮参拝のために作られた「JR畝傍駅」を見ることができます。現在の駅舎は昭和15年の橿原神宮紀元2600年祭式典に合わせて造られたもので、貴賓室も備えていますが、現在は貴賓室の公開はしていません(外観の見学は可能)。

 八木駅前商店街を通り、ゴールの近鉄大和八木駅に到着です。八木駅前商店街には、老舗の団子屋や新しくできた飲食店など、老舗店舗と新しいお店が入り組んでいますが、どのお店も活気があります。

八木駅前商店顔。ゴールはもう目の前です

 “大人の自転車旅”と称した飛鳥エリアのサイクリング。子供の頃には無かった感性がくすぐられるような、でもそこには何十年何百年も前から変わらない歴史がありました。また、不思議なパワーやモノがある地域でもあります。そんな奈良の歴史や不思議を体験するのにサイクリングのペースはうってつけです。新しい感性に出会いに、自転車で訪れてみてはいかがでしょうか。

片山葉月(かたやま・はづき)

父親の影響で自転車競技に出会い、高校入学と同時に自転車競技部に所属。高校在学時に全国大会へ出場、入賞を果たす。大学ではサイクルツーリズムを学びながら、実業団チームに所属しJBCFに参戦。選手活動だけでは飽き足りず自転車レースの審判資格を取得し西日本を飛び回る。大学卒業後、産経デジタルへ入社し競技活動は一時お休み中。自称・自転車に生かされている自転車オタク。

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