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素人によるポジションアドバイスの危うさ

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メカトラ事件簿<9>
素人によるポジションアドバイスの危うさ

 自転車を始めて間もない人が悩むのは、「乗車するときの姿勢(ポジション)」ではないでしょうか。

 学生時代に慣れ親しんだママチャリは、フレームがワンサイズなので、背が高かろうが低かろうが、自転車に体を合わせてなんとか乗る…ものでしたが、スポーツバイクとなるとそうもいきません。

 走行距離も伸びるし、スピードも格段に出ます。身体中の筋肉をフル動員しますので、疲れやすくもなります。自分の体格にいかにフィットしたバイクを選び、必要に応じて微調整することが必要になってきます。

 ポジションにはなかなか正解がなく、やっかいで微妙な問題ではありますが、ロードバイク乗りなら切っても切り離せない宿命です。ということで、いくつか対策をご紹介しましょう。

全てのサイクリストがポジションで迷う

 そうです。スポーツ用自転車を始めた人の全てがこの問題に直面します。誰にでも完璧にフィットするバイクというものは存在しないので、自分で取捨選択&微調整しなければなりません。

 ロードバイクなどのスポーツ用自転車は、一般車よりもサイズやポジションがシビアです。なぜなら、筋力を効率よく発揮して無駄なく推進力に変えていくためには、「もっとも力を発揮させやすい姿勢」をとる必要があるから。腕、腰の角度、ハンドル、サドルの高さ、サドルとハンドルの距離…など、なにかしら最適解はあります。数ミリ単位で試行錯誤を繰り返すのも珍しくありません。

 ただ、それをどう見つけ出すか…。しかも、正解はあってないようなものなので、試行錯誤しつつ探っていきます。経験が浅い状態で考え始めると、訳が分からなくなってしまうかもしれません。

経験者(だがしょせんは素人)のアドバイスを鵜呑みにしてしまうのは危険

 走り慣れて距離が伸びると、徐々に身体のどこかが疲れる…そして痛む、もしくは違和感を感じるでしょう。「なんとなくサドルが高い気がする…」「ハンドルが遠いのかなあ?腕がキツイ…」と思うまではOK。では、それに対してどうするか。

 ありがちなのが、身近な経験者にアドバイスを求めること。経験者といっても、趣味でロードバイクを楽しむ程度の人では他人の正確なポジション診断はできません。私(スポーツサイクル歴8年)ももちろん無理です。ざっくりした一般論は語れても、目の前のその人の最適解は出せません。

 下手に経験者(だがプロのメカニックではない)の意見を鵜呑みにすると、それがキッカケで迷路にはまり、あーでもない、こーでもない…と頓珍漢な対策を取らされるハメになります。違和感に対して適切な解決を取らないと、次は別の違和感が出て…とやっているうちに、とんでもないポジションになってしまう危険性があります。

 意見として聞くのは構いませんが、実際にいじるのはちょっと待ちましょう。

解決は「プロに聞く」

 ポジションのお悩み解決の最短距離は「プロの診断」です。身も蓋もない話ですが、そういうものなのです。購入したお店には必ずメカニックさんがいるはずですから、その人に相談すること。違和感、身体の痛み、筋肉の痺れ、関節の辛さ…理由はわからなくてもかまいません。恥ずかしがらずに包み隠さず正直に伝えましょう。メカニックさんならポジションのセオリーは把握していますので、“一般的な正解”までは連れて行ってくれます。

 「え?それで終わりじゃないの?」

 そうなんです。一般的な正解とは、いわば「ホームポジション」でして、そこから先の微調整はケースバイケース。腕の長さ、脚の長さ、筋肉の量や付き方、腰やハムストリングスの柔軟性、体幹の筋力は千差万別なので、今の自分にとって快適に乗れる姿勢に微調整すればいいのです。で、混乱したらホームポジションに戻す。これを繰り返す。

 ちなみに筆者は2台のスポーツ用自転車を持っていまして、それぞれのサドルの前後の位置、高さを写真に撮って保管しています。シートポストを抜いて掃除するときとか、「あれ?もともとの高さってどれだけだったっけ?」と迷ったときに参照できて便利です。

そもそも体格にフィットしていないサイズの自転車に乗っている可能性も

 あまり考えにくいですが、なにをどうしても改善が見られない場合、大きすぎる(もしくは小さすぎる)フレームに乗っている可能性もあります。ちゃんとお店で相談しながら買った方は無縁の問題ですが、中古とか通販で買った場合には起こり得ます。

 サイズの判断すらつかない…のなら危険信号ですね。なおさらお店でチェックしてもらった方がいいです。仮にサイズが合っていないと判明した場合、非常にお気の毒ですが、自転車を買い換えたほうがいいかもしれません。

 小さすぎるフレームでも、ステムを伸ばすとか、サドルをギリギリまで後ろに下げるなどの対策で、誤魔化しながら乗ることもできなくはありません。ただし、自転車の性能を十分に発揮して、快適に乗ることはできないでしょう。大きすぎるフレームは、さらに物理的に手の打ちようがありません。無理に乗っても危ないだけです。

 スポーツ用自転車は兎にも角にもサイズが命。自分の体にフィットしていなければ、どんな高級フレームも宝の持ち腐れなのです。

ポジションは経験とともに変化すると心得る

 ということで、ポジションを正確に知り、微調整してもらうにはプロに頼め…という至極普通な回答になります。無料診断でもとりあえずはOKですが、深刻なお悩みであれば、有料診断をオススメします。2時間前後とそこそこの時間を拘束され、1万円かそれ以上掛かりはしますが、徹底的に計測して最適解を導き出すので、納得感も大きいし、なにより「気持ちよく走れる」でしょう。

 私はかつて「我流でサドルを上げ下げしまくった」結果、規定値より4センチも(!)上げて走っていた過去があります。もう滅茶苦茶ですね…。なぜそんなに上げてしまったのか? 理由は「見た目がカッコいいから」でした。己の短足を棚に上げ、せめてバイクはかっこよくしたかった心理がこうさせたのでしょう。

 プロのビルダーさんにポジションを診断いただく機会を偶然得まして、「えー、そんなの必要なくない? 俺ちゃんと乗れてるし~」って思いながら会ったら、2秒で「あんた、サドル上げすぎだよ」って見抜かれました。でも、そのおかげで最適なポジションを教えていただけて本当に良かったです。あのとき面倒臭がって会っていなかったら…いまだにトンチンカンなポジションで走っていたか、膝を故障していた可能性が大です。

 最後に。ポジションは一度決めたら終わりで、二度と調整が必要になることはない…わけではありません。むしろ、永遠に悩み続ける問題です。

 ロードバイクに慣れて、持久力が増したり、筋力がつけば姿勢は変わってくるものです。ですから、再びポジションに違和感を持つことがあってもそれはおかしなことではありません。その時は再びお店で相談し、微調整を施す。それを繰り返していきます。

 そういう意味では、「ロードバイクに乗る=ポジションを探り続ける終わりなき旅を続ける」ようなものなのでしょう。ようこそ、ロード沼へ。

 ということで、

  • ■ ポジションで悩むのはいたって普通
  • ■ (所詮素人の)経験者の意見は鵜呑みにしない
  • ■ プロに診断してもらう(できれば有償で)
  • ■ ポジションは一度決めて終わりではなく、水のように変化していくもの

 だと心がけてください。

中山順司
中山 順司(なかやま・じゅんじ)
ロードバイクをこよなく愛するオッサンブロガー。ブログ「サイクルガジェット」を運営。“徹底的&圧倒的なユーザー目線で情熱的に情報発信する”ことがモットー。ローディの方はもちろん、これからロードバイクを始めようかとお考えの方が、「こんなコンテンツを読みたかった!」とヒザを打って喜ぶ記事をつくります。