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スペインは自転車の並走推奨!?その合理的で安全な理由とは

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スペインの自転車事情<3>
スペインは自転車の並走推奨!?その合理的で安全な理由とは

 スペイン国内を車、あるいはバスで走っているときに、幹線道路をサイクリストが走っているのを頻繁に見かける。一人で走っている人もいるが、数人のグループで走っていることも少なくない。このようなサイクリストの集団での走り方について、スペインではどのように規定されているのだろうか。(Photo & Text by Yukari TSUSHIMA)

法律上の規定は?

 スペインの道路関係を管轄するのは、「ディレクション・へネラル・デル・トラフィコ」(Dirección General del Trafico、通称DGT)という機関である。このDGTのウエブサイトによると、スペインにおいて自転車の走行の仕方は次のように定められている 。

街中を走る場合
・自転車で街中を走る場合は、駐車している車を避けながら、できるだけ道路の右側(スペインは右側通行)を走らなくてはならない。もしグループで走るときは、最大で2列になって走ることができる。
・街中で列を作らず、無秩序に走った場合、罰金100ユーロ。
幹線道路を走る場合
・サイクリストが自転車で幹線道路を走る場合、できるだけ道路の右側を2列で走ること。また、カーブなど視界が悪い場所や2列で走ることができない場所では1列で走らなくてはならない。
・幹線道路で列を作らず無秩序に走った場合、罰金100ユーロ。

 つまり、サイクリストは街中でも幹線道路でも道路の右側を2列で走ることが許されているのである。

2列並走が推奨される理由はサイクリストの安全確保のため

 では、なぜスペインで自転車での2列並走が許されているのだろうか。その最大の理由となっているのがサイクリストの安全確保のためである。というのも、サイクリストが1列で走るよりも2列で走った方が自動車のドライバーからサイクリストが見えやすくなるのである。

 ヨーロッパでは自動車の運転席は左側にあり、スペインもその例外ではない。一方、サイクリストは道路のできるだけ右側を走ることになっている。そのため自動車のドライバーは、道路の中央付近にある自分の席から助手席の向こう側を走るサイクリストを目で確認する必要がある。

 しかし、ドライバーからサイクリストまでの距離が遠いため、ドライバーの視界にサイクリストの存在を確認するのが遅れがちになる。特に目立ちにくい服装で1人で走っているサイクリストを、車のドライバーが瞬時に目視で確認するのは難しくなるのである。

 こうした理由のため、サイクリストはできるだけ目立つ格好で2列に並んで走った方がドライバーにその存在をアピールしやすくなり、結果的にサイクリスト自身の安全も確保することにもつながるのである 。

 一方、「2列並走よりも3列並走の方がサイクリストの安全につながるのではないか」と考える人もいるかもしれない。しかし、3列以上にすると今度は一番左側を走るサイクリストが自動車に近づきすぎ、事故に巻き込まれる可能性が高くなる。

ドライバーにとっても2列並走の方が便利

 サイクリストの2列並走は、サイクリストの安全性を高めることにつながる。しかし同時に、サイクリストが並走することにより、車を運転する人にとっても一つのメリットが生まれることになる。

 例えば自分が自動車を運転しているときに、目の前に100人のサイクリストの集団が現れたと想像してみよう。この100人のサイクリストが2列に並ぶと、その列の長さは1列で並んだ時の1/2となるはずである。その結果、車のドライバーにとっては追い抜く時間が、1列に並ばれた時の半分で済むということになる。

 以前の記事でも紹介したように、現在スペインでは車は自転車との横の車間距離を1.5m以上保ちながら、その道路の法定速度から20km/hの減速をした上で、サイクリストを追い越すことが必須となった。この交通規制と合わせて考えると、自転車の並走は車のドライバーにとって、「法定速度からマイナス20㎞/hで走る距離」を少なくするという効果があることがわかる。

 つまり、自転車の2列並走は自動車のドライバーにとってもメリットがある規定なのである。

スペイン人はどこで2列並走を学ぶのか

 このように自転車の並走によって、サイクリスト自身はもちろん、車の側もメリットを受けることができる。とはいえ、この2列並走は他のサイクリストとスピードや車間距離を一定に保ちながら走る必要があるため、特にロードバイクに乗り始めたばかりの人にとっては少々難しいことでもあるだろう。

 スペインの場合、子供たちは習い事の一つとして通う「自転車教室」で2列並走の練習をして、実際にグループで道路を並走して走ることができるようになるまで練習する。一方、大人になってから自転車に乗る人が並走を学ぶ場合、最初は2人でおしゃべりしながら一緒に並んで走ることに慣れることから始まる。そのあと、一緒に走る人数を3人4人…と少しずつ増やしていくことになる。

 もちろん、一人で走ることが好きというスペイン人サイクリストも存在する。しかし、おしゃべり好きなスペイン人にとって2列並走をマスターすることはサイクリストの必要条件なのかもしれない。

對馬由佳理(つしま・ゆかり)
自転車ライター。北海道出身。10年以上スペインに住みながら、現地の自転車レースを追う。スペインの男女自転車ロードレース、シクロクロス、パラサイクリングの取材経験をもつ。