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整備不良がもたらす恐怖、自転車は命を預ける乗り物だと心得よう

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トラブルを未然に防ぐためのヒヤリハット事例集<2>
整備不良がもたらす恐怖、自転車は命を預ける乗り物だと心得よう

 スポーツ用自転車の世界でも油圧ディスクブレーキが普及して、「メンテナンスは全部ショップに任せる」という人も増えました。しかし、ちょっとした整備なら自分でやる、という人もまだ多いと思います。 僕が自転車を始めた頃は、まだフレームとパーツを別々に買って組み上げるのが一般的で、当たり前のように自分で組んでいました。もちろん先輩たちに教えてもらったり工具を借りたりしながらですが…。当時は電動変速も油圧ディスクブレーキもない時代でしたので、技術的なハードルは低かったですが、それでもやっぱりプロのメカニックが組んだ自転車とは違いました。失敗もたくさんしましたし、危ない思いをしたこともあります。連載第2回は自らの経験を振り返り、整備不良によるヒヤリハットを紹介します。

ハンドルの固定力不足によるヒヤリハット

 まずは定番(?)のハンドル固定力不足についてです。初めてカーボンハンドルを買ったとき、ステムのボルトを締めすぎて高価なハンドルを壊したくないという意識が働いたのか、ボルトの締め込みが弱く、段差を降りた瞬間にハンドルがガクッとお辞儀をしてしまいました。レバーがいきなり下がるので、かなりの恐怖です。下手をすれば落車でした。

ステムのボルトはしっかりと締まっていることを確認したいところです

 それで懲りたつもりでしたが、その数年後に、もう一度同じ失敗を犯しました。当時装着していたステムは、一般的な4本締めではなく、2本のボルトでハンドルを固定するものでした。しっかりと締めていたつもりでしたが、4本に比べると2本締めは固定力が弱くなります。仲間と行ったロングライドのダウンヒルで、道路の小さなギャップに前輪が落ちた衝撃でハンドルがお辞儀をしてしまいました。バランスを崩しながらもなんとかスピードを落とすことができ、事なきを得ましたが、大いに冷や汗と恥をかいた瞬間でした。

クイックレリーズの締め不足によるヒヤリハット

 初歩的なミスですが、クイックレリーズの締め不足も経験があります。初めて出場したレースで、コーナーの立ち上がりでペダルに力を込めたら後輪がずれて集団に置いてきぼりをくらってしまったのです。他にも、フォークコラムとステムの固定力不足や、ブレーキシューの本締めを忘れるなどなど、多くのヒヤリハットを経験しました。

ブレーキシューの本締めもお忘れなく

 他人の整備不良で危ない目にあったこともあります。あるレースでは、隣を走っている選手のクイックレリーズがだんだん緩んでくるのを目撃し、「クイックが緩んでいます!」と知らせたことがあります。気づいていなかったら、下りで周りを巻き込んでの大落車になっていたのではないでしょうか。

クイックレリーズの取り付け取り外しは頻繁に行うので自分でできるようにしておきたいところ。締める際には緩んでいないことを確認しておきましょう

 サーキットでのエンデューロレースに出ていたとき。高速コーナーで、前走者のチューブラータイヤが、いきなりベロンと外れたこともありました。接着の仕方がマズかったのか、接着から時間が経っていたのか…。当然、彼は吹っ飛んで大落車。幸い、僕を含め後続車はなんとか避けましたが、集団落車の可能性もあった危険な事故でした。

整備は信頼できるプロショップへ

 このように、整備不良は周りを巻き込むことも考えられます。一番簡単な防止策は、信頼できるショップにお任せすることです。そして、「自転車くらい簡単にいじれるだろう」ではなく、「命を乗せて走る乗り物だ」「他人を傷つけてしまう可能性がある乗り物だ」と自覚することです。

整備はプロに任せるのが一番です Photo: Yukio YASUI

 専門的なこと以外なら自分でできてしまうのも自転車のいいところでもあります。そのために、よく「自転車はプラモデルのようなもの」と言われたりもしますが、プラモデルとは異なり、自転車は人間を乗せて、ときにはクルマにも負けないようなスピードで走る乗り物です。車検という制度がないので気軽に考えがちですが、命を預ける乗り物ということを忘れてはいけません。

文: 安井行生(やすい・ゆきお)

自転車ライター。大学在学中にメッセンジャーになり、都内で4年間の配送生活を送る。現在は様々な媒体でニューモデルの試乗記事、自転車関連の技術解説、自転車に関するエッセイなどを執筆し、信頼性と独自の視点が多くの自転車ファンからの支持を集める。「今まで稼いだ原稿料の大半をロードバイクにつぎ込んできた」という自称、自転車大好き人間。

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