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脱水症対策に効果的な「ハイポトニック」ドリンク 水分補給に最適な糖分バランス

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入門!自転車栄養学<1>
脱水症対策に効果的な「ハイポトニック」ドリンク 水分補給に最適な糖分バランス

 サイクリストの体を栄養面から科学する連載「自転車栄養学」。他のスポーツに比べて糖質や水分などの補給にセンシティブな自転車。常に動き続け、自分の体と真剣に向き合うサイクリストに必要な正しい栄養と運動に関する知識を、ロードレースチーム「シマノレーシング」を指導した経験もある管理栄養士・河南(かわなみ)こころさんが解説します。今回は、夏の脱水症・熱中症対策としての水分補給について。

脱水症・熱中症を予防する水分補給のコツとは?

注意したい「暑熱順化」

 連載を担当させていただきます、管理栄養士の河南こころです。これまでさまざまな競技の選手を栄養面からサポートさせてもらってきましたが、その中でも持久系スポーツである自転車は栄養戦略がとても影響する分野だと思います。ですので、サイクリストの食事に対する意識はプロ・アマ問わずとても高いと感じています。

 皆さんが楽しく自転車生活を送る上で少しでもお役に立てるよう、栄養の情報をできるだけわかりやすく発信していこうと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。

 さて、さっそく本題に入ろうと思います。「暑熱順化」(しょねつじゅんか)という言葉があるのですが、私たちの体は何でもすぐに対応できるわけではなく、気温の高さ(暑さ)にも慣れが必要になります。暑くなり始めたら、運動強度・時間などを調整し、暑さに慣れる期間を設けます。2~3日かけて、徐々に暑さに慣れていくようにしましょう。

迷ったら「ハイポトニックドリンク」

 真夏に発症するイメージがある熱中症はだいたい梅雨入り前の5月頃から発生し、7月下旬から8月上旬に多発する傾向にあると言われています。熱中症を防ぐためには、やはり水分補給が重要となりますが、その種類については、スポーツドリンクが推奨される一方で水で良いといわれたり、麦茶が一番!といわれていたりもします。果たして何がベストなのでしょうか? その答えは「状況に応じて選択する」ことだと考えます。

 例えばダイエットをしているサイクリストの場合、スポーツドリンクはエネルギー補給をするものでもあるので、短時間に大量に飲むとエネルギーの過剰摂取になるため、あまりオススメできません。ただ、ロングライドであれば話は別で、エネルギー切れを防ぐためにもスポーツドリンクが良いでしょう。

 また、ライド時間が短くても日中の暑い中を走るのであれば、多量の発汗が考えられますので、ミネラルの補給も必要になります。ミネラル麦茶やミネラルウォーターは「ミネラル」という言葉が付いているのでミネラルを摂れるイメージがあるかもしれませんが、ほとんどの場合、スポーツドリンクの方がミネラルは豊富です(硬水の場合はカルシウムやマグネシウムが豊富に含まれていますが、お腹を下す可能性もあるので、いきなりライド時に飲むのは避けましょう)。

 色々あって状況に応じて選択するのが面倒!と思われる方には、人間の体液より浸透圧が低く、効率よく水分が吸収される「ハイポトニックのスポーツドリンク」をおすすめします。

製品のパッケージにもよく見ると「ハイポトニック」の文字

 スポーツドリンクには「アイソトニック」と「ハイポトニック」の2種類があります。体液(血漿)と同じ浸透圧になる糖度7%程度のものをアイソトニック、それより浸透圧が低いものがハイポトニックです。

 ご存知の方も多いかと思いますが、濃度の違う2種類の液体が隣り合わせにあった時、濃度を一定に保とうとして水が濃度の高い方に移動します。そのときに働く圧力が「浸透圧」です。そのわかりやすい例が「ナメクジと塩」です。ナメクジはそのほとんどが水分。その表面に塩をかけるとナメクジの体内よりも体外の方が塩分濃度は高くなり、体内の水分が体外に引っ張られるように移動していき、ナメクジは小さくなります。

 「ナメクジ→人間の体」「塩→濃い飲み物」と考えると、人間の体(体液)よりも濃いものを飲むと逆に水分が出ていってしまうイメージで、糖質濃度が高すぎると浸透圧が高くなって吸収速度が遅くなります。

マイ「ハイポトニックボトル」を作ろう

 市販のスポーツドリンクはほとんどのものがアイソトニック飲料ですが、ハイポトニックに設計されているものもあります。その識別は成分表示の糖質(炭水化物)量でわかります。100mlあたり糖質が6gと記載されていたら、それは糖度6%で、アイソトニック飲料となります。

 水分を吸収する腸管では2.5~8%の糖質を含んでいるものの方が水より速く吸収されますが、一方で胃の通過速度は糖質を含んだものより水の方が速いという特長があります。したがって通常の生活では体液と同じ濃度のアイソトニックでも良いのですが、運動中はいかに速く胃を通過させ、腸管まで水分を届けるかがポイントになるので、胃の通過速度と腸管での吸収速度が一番バランスがとれる濃度をとって3~4%糖度(ハイポトニック)のものが良いとされています。

目安は1時間に500~1000ml

 それから、水分補給には体温を下げる目的もありますので、熱中症を防ぐにはドリンクの温度も重要です。一般的なバイクボトルは保冷性がないので、暑熱環境下ではすぐにぬるくなってしまいます。ちょっと重たくなってしまうかもしれませんが、とくに長時間乗られる場合は2本のうち1本は保冷効果のあるボトルにして、冷たいものを飲めるようにしておいてはいかがでしょうか?

 最後に水分補給のタイミングですが、こまめに早めに飲むようにしてください。「喉が渇いた」と思った時にはすでに脱水状態です。できれば時間管理をし、決まった時間に飲むようにしてもいいと思います。大体の目安は1時間に500~1000mlですので、15分ごとに125~250ml飲む計算になります。15分毎の水分補給は面倒くさいかもしれませんが、コンディションやパフォーマンスをキープして、楽しいライドや質の高い練習をしていただければと思います。

文: 河南こころ(かわなみ・こころ)

管理栄養士。女子フィギュアスケートバンクーバー五輪銀メダリスト、男子バレーボールVプレミアリーグ所属チーム、ラグビートップリーグ所属チームなどを栄養面からサポート。ロードレースチームの「シマノレーシング」を担当していた経歴をもち、現在も「シマノ鈴鹿ロードレース」で開催される栄養講座の講師を務めている。自転車ロードレースの主要な国内レースは常にチェックしているというロードレースファン。現在はFC今治のサポートの他、トレーナー養成学校でスポーツ栄養学の講師をしたり、栄養学を学ぶ学生のコミュニティ「COMPASS」のアドバイザーとして後進育成に注力している。

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